話の設計図——目的別のストーリー3型
レッスン3:話の設計図——目的別のストーリー3型
このレッスンで学ぶこと
- プレゼンテーションの目的に応じたストーリー3型(報告型・提案型・説得型)を理解する
- SDS法とBefore-After-Bridgeという2つの型を使い分けられる
- 問いと答えのつなぎ方で、話に流れを作る方法を学ぶ
- 結論を先に出すか後に出すかを、場面に応じて判断できる
レッスン2では、聞き手を決める人・使う人・止める人に分類し、「誰に、何を決めてもらうか」を1文にまとめる方法を学びました。このレッスンでは、そのゴールに向かって話をどう組み立てるかという「話の設計図」を扱います。話の構造そのものを深く掘り下げる技法は、ロジカルシンキング関連の入門コースにゆずり、本コースでは、目的別に使い分けられる実践的な型に絞って学びます。
目的別のストーリー3型
プレゼンテーションは、目的によって話の流れが変わります。本コースでは、目的を3つに分けて考えます。
| 型 | 主な目的 | 典型的な場面 |
|---|---|---|
| 報告型 | 起きたことを正確に伝え、認識をそろえる | 進捗報告、月次報告、状況共有 |
| 提案型 | 課題への対応策を選んでもらう | 新しい施策の提案、システム導入の提案 |
| 説得型 | すでにある考えや慣習を変えてもらう | 既存のやり方の見直し、反対意見が予想される提案 |
3つの型は、それぞれ聞き手に求める行動が異なります。報告型は「正しく認識する」、提案型は「選ぶ」、説得型は「考えを変える」ことを聞き手に求めます。求める行動が違えば、話の組み立て方も自然と変わってきます。
型1:報告型
報告型は、事実を正確に、誤解なく伝えることが最優先です。装飾的な演出よりも、何が起きたか、何が計画どおりで何がそうでなかったかを、順序立てて示します。基本の流れは「概況→詳細→今後の見通し」です。冒頭で全体の状況を一言でまとめ、そのあとに数字や具体的な出来事を並べ、最後に次に向けた見通しや必要な対応を添えます。
具体的な例で確認しましょう。月次の進捗報告であれば、次のような流れになります。「今月の進捗は、計画に対しておおむね順調です(概況)。個別には、A案件は予定どおり完了し、B案件は仕様調整により2週間の遅れが生じています(詳細)。来月は、B案件の遅れを取り戻すため、担当者を1名追加して対応します(今後の見通し)」。概況を最初に置くことで、聞き手はまず順調かそうでないかという全体像をつかんでから、詳細に耳を傾けられます。
型2:提案型
提案型は、聞き手に選択肢を提示し、その中から選んでもらうことが目的です。基本の流れは「課題→対応策→効果→依頼」です。まず現状の課題を聞き手と共有し、次に対応策を示し、その対応策によって何が改善するかを示し、最後に何を決めてほしいかを明確に依頼します。依頼を省略してしまうと、聞き手は「結局、何をすればよいのか」がわからないまま終わってしまいます。
提案型も、具体的な例で確認しましょう。「現在、経費精算に紙の申請書を使っており、月あたりおよそ10時間の入力作業が発生しています(課題)。クラウド型の経費精算ツールを導入すると、入力作業をスマートフォンで完結できます(対応策)。導入した部署の実績では、入力時間がおよそ半分になっています(効果)。つきましては、来月から試験導入することをご承認いただけないでしょうか(依頼)」。4つの要素を順番に置くだけで、聞き手は何が課題で、何をすれば、どのように良くなるのかを迷わず追えます。
型3:説得型
説得型は、聞き手がすでに持っている考えや、慣れ親しんだやり方を変えてもらうことが目的です。3つの型の中でもっとも難易度が高い型です。基本の流れは「共感→新しい視点→根拠→再依頼」です。いきなり反対意見をぶつけると、聞き手は防御的になります。まず聞き手の立場や、これまでのやり方が積み上げてきたものへの理解を示し、そのうえで新しい視点や根拠を提示し、最後にあらためて依頼します。
具体的な例で確認してみましょう。長年続けてきた紙の稟議書を電子化したい、という提案を、慎重派の部長に説得する場面を想定します。「紙の稟議には、押印の重みや、確認の確実さといった良さがあることは私も理解しています(共感)。一方で、リモートワークが定着した今、押印のために出社が必要になる場面が増えています(新しい視点)。試験導入した部署では、承認までの日数がおよそ半分に短縮しました(根拠)。まずは1つの部署で3か月間、試験的に電子化を進めさせていただけないでしょうか(再依頼)」。いきなり「紙は非効率だから変えましょう」と切り出すのではなく、相手の立場への理解を示してから話を進めることで、聞き手は身構えずに話を聞きやすくなります。
1つのプレゼンテーションで型を組み合わせる
実際のプレゼンテーションでは、3つの型を単独で使うより、組み合わせて使う場面のほうが多く見られます。例えば、新しい制度の導入を提案する場面では、前半で現状の課題を報告型で正確に共有し、中盤で対応策を提案型で示し、聞き手の中に慎重な反応が予想される部分だけ、説得型の「共感から新しい視点へ」という流れを挟み込む、という組み立てが有効です。型を機械的に1つだけ当てはめようとせず、聞き手の反応を想像しながら、必要な部分にだけ説得型の要素を足す、という柔軟さが実践では役立ちます。
型に迷ったときの質問
3つの型のどれを選ぶべきか迷ったときは、次の質問を自分に投げかけてみましょう。
- このプレゼンテーションが終わったとき、聞き手に「理解してもらう」ことがゴールか、それとも「選んでもらう」「変わってもらう」ことがゴールか
- 聞き手は、すでにこの話題に前向きか、それとも慎重・懐疑的か
- 聞き手との間に、これまでの経緯や過去の失敗といった警戒点があるか
「理解してもらう」ことが中心であれば報告型、「選んでもらう」ことが中心で聞き手が前向きであれば提案型、聞き手に慎重さや警戒点がある場合は説得型の要素を強めに取り入れる、というのが基本の判断です。レッスン2で整理した聞き手の警戒点の情報が、ここで役立ちます。
💡 ポイント 3つの型は、それぞれ独立した別物ではありません。1つのプレゼンテーションの中で、前半は報告型で状況を共有し、後半は提案型で対応策を示す、という組み合わせもよくあります。まずは自分のプレゼンテーションが、聞き手にどの行動を求めているかを見極めることから始めましょう。
SDS法——シンプルな型の基本
3つのストーリー型のうち、とくに報告型や、内容が比較的シンプルな提案型で役立つのが「SDS法」です。Summary(要点)・Details(詳細)・Summary(要点の再確認)という3段階で話を組み立てます。
- Summary(要点):これから話す内容を一言でまとめて先に伝える
- Details(詳細):要点を裏付ける具体的な情報や理由を展開する
- Summary(要点の再確認):最後にもう一度、要点を短く繰り返す
例えば、月次の進捗報告であれば「今月の進捗は計画どおりです」とまず要点を伝え、そのあとに具体的な数字や個々のタスクの状況を説明し、最後に「以上のとおり、今月は計画どおり進んでいます」と締めくくります。聞き手は最初に全体像をつかめるため、詳細を聞く準備ができた状態で本編に入れます。
🔰 初学者の方へ SDS法は、短い発言や5分程度の簡潔な報告で特に効果を発揮します。長い提案型・説得型のプレゼンテーションでは、SDS法をそのまま当てはめるのではなく、各セクションの冒頭に小さなSummaryを置く、という応用のしかたが現実的です。
Before-After-Bridge——変化を見せる型
提案型・説得型で力を発揮するのが「Before-After-Bridge」です。現状(Before)と、実現したい状態(After)を対比させ、その間をつなぐ方法(Bridge)として提案を位置づける型です。
- Before(現状):聞き手が今置かれている状況や課題を描写する
- After(実現したい状態):提案が実現した先に、どんな状態になっているかを描写する
- Bridge(橋渡し):BeforeからAfterへ移るための具体的な方法として、提案を示す
この型の強みは、聞き手の頭の中に「今」と「これから」という2つの状態を並べて見せることで、変化の必要性そのものを実感してもらいやすい点です。提案の中身だけをいきなり説明するより、まず現状の困りごとを聞き手と共有してから提案を示すほうが、聞き手にとって「自分に関係のある話」として受け取られやすくなります。
⚠️ 注意 Beforeの描写を誇張しすぎると、聞き手は「大げさに困りごとを演出している」と感じ、逆に信頼を損ないます。現状の課題は、聞き手自身がすでに実感している範囲で、正確に描写することが大切です。誇張ではなく、共感を得られる正確さを優先しましょう。
SDS法とBefore-After-Bridgeの使い分け
2つの型は、どちらも「型」という点では共通していますが、向いている場面が異なります。
| SDS法 | Before-After-Bridge | |
|---|---|---|
| 向いている型 | 報告型、シンプルな提案型 | 提案型、説得型 |
| 聞き手の状態 | すでに前向き、または中立 | 慎重、または現状維持を好む |
| 効果 | 短時間で要点を正確に伝える | 変化の必要性を実感してもらう |
迷ったときは、聞き手がすでに変化の必要性を感じているかどうかで判断しましょう。すでに課題を認識している聞き手にはSDS法で手早く要点を伝え、まだ課題を実感していない聞き手にはBefore-After-Bridgeで現状から丁寧に描写する、という使い分けが基本です。
問いと答えのつなぎ方
話の各セクションを移るとき、唐突に次の話題に切り替えると、聞き手は置いていかれたように感じます。これを防ぐのが、問いと答えのつなぎ方です。1つのセクションの終わりに、次のセクションで答える問いを投げかけ、聞き手の頭の中に「次は何が語られるのか」という期待を作ります。
例えば「では、この課題に対して、どのような対応策が考えられるでしょうか」と一言はさんでから、対応策の説明に移る、といった具合です。この一手間があるだけで、聞き手は受け身で情報を浴びるのではなく、自分の頭の中で問いに答えようとしながら話を聞くようになります。結果として、集中が続きやすくなります。
📝 補足 問いを投げかけたあと、必ずしも聞き手からの発言を待つ必要はありません。「では、〜でしょうか」と投げかけた直後に、自分で「実は、〜です」と答えを続ける形でも、十分につなぎの効果が得られます。聞き手に考える一瞬の間を与えることが目的です。
別の例も見てみましょう。効果の説明から次のステップの説明に移るときは、「では、実際にこの提案を進めるとしたら、どのようなスケジュールになるでしょうか」と一言はさみます。数字や効果の話が続いたあとに、聞き手の頭の中には自然と「次はどうなるのか」という問いが浮かんでいます。その問いを話し手が代わりに言葉にしてあげることで、聞き手は「自分が知りたかったことを、ちょうど話してくれた」という感覚を持ちやすくなります。
導入で聞き手の関心をつかむ
話の設計図の中でも、最初の1〜2分は特に重要です。ここで聞き手の関心をつかめないと、そのあとどれほど内容が優れていても、聞き手の意識は戻ってきにくくなります。導入で使える工夫をいくつか紹介します。
- 聞き手自身の課題から始める:「多くの方が、月末の経費精算に時間を取られていると感じているのではないでしょうか」のように、聞き手が実感している困りごとから入る
- 今日決めてほしいことを先に示す:「本日は、来月から始める新しい制度について、皆さまのご判断をいただきたく参りました」と、ゴールを最初に共有する
- 全体の流れを地図として見せる:「本日は3つの点についてお話しします。1つ目は現状、2つ目は対応策、3つ目はスケジュールです」と、話の構成をあらかじめ示す
これらは組み合わせて使うこともできます。大切なのは、聞き手が「この話は自分に関係がある」「この話はどこに向かっているのかがわかる」と感じられる状態を、最初の数十秒で作ることです。
避けたい導入のパターン
逆に、聞き手の関心を逃しやすい導入のパターンも押さえておきましょう。
- 自己紹介や挨拶が長く続き、なかなか本題に入らない
- 「本日はお忙しい中お集まりいただき」といった定型句だけで数十秒を使ってしまう
- 資料の表紙をそのまま読み上げるだけで、聞き手にとっての意味づけがないまま次のスライドに進む
導入の目的は礼儀を尽くすことではなく、聞き手の意識をこちらに向けることです。挨拶は簡潔にとどめ、できるだけ早く、聞き手にとって意味のある話に入ることを意識しましょう。
🔰 初学者の方へ 「導入で何を話せばよいかわからない」と感じたら、レッスン2で1文にまとめたゴールをそのまま声に出してみましょう。「本日は、◯◯について、△△をご判断いただきたく参りました」という一言だけでも、立派な導入になります。凝った工夫よりも、ゴールを早く共有することのほうが、聞き手にとっては親切です。
結論を先に出すか、後に出すかの判断軸
ここまで紹介した型の中には、結論や要点を最初に置く型(SDS法、報告型)と、結論に至るまでの経緯を先に見せる型(Before-After-Bridge、説得型)の両方があります。どちらを選ぶかは、次の2つの軸で判断します。
- 聞き手が忙しく、時間が限られているか:忙しい決める人に短時間で判断してもらう場面では、結論を先に置くほうが伝わりやすくなります
- 聞き手が最初から前向きか、それとも懐疑的か:聞き手がすでに提案に前向きであれば結論を先に、慎重・懐疑的であれば、経緯や根拠を先に示して納得を積み上げるほうが受け入れられやすくなります
報告型や、聞き手がすでに前向きな提案型では、結論を先に置く組み立てが有効です。一方、説得型や、聞き手に強い警戒点がある場面では、いきなり結論をぶつけると身構えられてしまうため、Before-After-Bridgeのように現状の共有から始めるほうが効果的です。
💡 ポイント どちらが正しいという単純な話ではありません。レッスン2で分析した聞き手の警戒点と、聞き手にかけられる時間の長さを踏まえて、そのつど判断します。迷ったときは、決める人の立場に立って「自分がこの話を聞くなら、まず何を知りたいか」を考えると、判断がしやすくなります。
まとめ
このレッスンでは、以下のことを学びました。
- プレゼンテーションの目的は、報告型・提案型・説得型の3つに分けられ、それぞれ聞き手に求める行動が異なる
- SDS法は、要点を先に示し、詳細を展開し、最後に要点を再確認する、シンプルな場面で効果的な型
- Before-After-Bridgeは、現状と実現したい状態を対比させ、提案をその橋渡しとして位置づける型
- セクションの切れ目に問いを挟むと、聞き手の集中を保ちやすくなる
- 導入の数十秒で、聞き手自身の課題・今日決めてほしいこと・話の地図のいずれかを示すと、関心をつかみやすい
- 結論を先に出すか後に出すかは、聞き手の忙しさと、提案への前向きさの2軸で判断する
このレッスンで組み立てた話の設計図は、あくまで骨組みです。骨組みがしっかりしていても、それを載せるスライドの見せ方が乱雑では、聞き手の理解は妨げられてしまいます。逆に、スライドがどれほど見た目に優れていても、話の骨組みが定まっていなければ、聞き手はどこに向かって話が進んでいるのかを見失います。骨組みと見せ方は、車の両輪のような関係です。
次のレッスンでは、ここまで組み立てた話の中身を、スライドの上でどう見せるかという「スライドの視覚設計」に進みます。人の目はスライドを読むのではなく見るという前提に立ち、見た瞬間に意味が届く1枚の作り方を学びます。本コースの中でもっとも厚みのある内容です。
確認クイズ
このレッスンの理解度をチェックしましょう。