電帳法 3 制度の実装と月次オペレーション
レッスン2:電帳法 3 制度の実装と月次オペレーション
このレッスンで学ぶこと
- 電子帳簿保存法 3 制度(電子帳簿等保存/スキャナ保存/電子取引保存)の要件と 2024/1 完全義務化を扱う
- 事務処理規程テンプレート 7 章立てと JIIMA 認証ソフト選定・タイムスタンプ運用を理解する
- 電子データの検索要件 3 項目と授受方法 5 分類、猶予措置と宥恕措置の違いを掴む
- 税務調査対応の実務を扱う
前回のレッスンでは、経理 DX の全体像と姉妹コース棲み分けを扱いました。今回は、経理 DX の最重要制度対応である電子帳簿保存法(電帳法)の 3 制度と月次オペレーションを扱います。
電帳法の歴史と 2024/1 完全義務化
電子帳簿保存法(電帳法)は 1998 年制定、以下の主要改正を経て現行制度に至ります:
- 1998 制定:電子帳簿等の保存を認める
- 2005 改正:スキャナ保存導入(重要書類のみ 3 万円未満)
- 2015 改正:スキャナ保存の対象拡大
- 2020 改正:電子取引データの電子保存義務化(当初 2022/1 施行)
- 2022/1 改正:事前承認制廃止、検索要件緩和、電子取引データ電子保存義務化
- 2023/12 宥恕措置:電子取引保存の宥恕措置延長(相当の理由がある場合)
- 2024/1 完全義務化:電子取引データの電子保存が完全義務化
電帳法 3 制度
電帳法は 3 制度で構成されます:
1. 電子帳簿等保存
会計ソフトで作成した帳簿・決算書を、電子データのまま保存する制度。任意選択。優良な電子帳簿(訂正削除履歴を残す等の要件)の場合、過少申告加算税の 5 % 軽減特例あり。
2. スキャナ保存
紙で受け取った請求書・領収書・契約書等を、スキャナで電子化して保存する制度。任意選択。以下の要件:
- タイムスタンプ(タイムスタンプサービス提供事業者 TSA から取得)または訂正削除履歴を残す
- 検索機能(日付・取引先・金額)
- 解像度 200 dpi 以上・カラー画像(重要書類)
- 帳簿との相互関連性の確認
- 入力期間:領収書等は 2 か月以内+概ね 7 営業日以内、契約書等は 2 か月以内+概ね 7 営業日以内
3. 電子取引保存
電子メール・EDI ・電子契約・Web ダウンロード等で受け取った電子データを、電子データのまま保存する制度。2024/1 完全義務化。以下の要件:
- 真実性の確保:タイムスタンプ、または訂正削除履歴保存、または事務処理規程の整備
- 可視性の確保:検索機能(日付・取引先・金額)、システム関係書類の備付、ディスプレイ・プリンタでの出力
- 保存期間:法人 7 年(欠損金がある事業年度は 10 年)、個人事業主 7 年
事務処理規程テンプレート 7 章立て
電子取引保存で「タイムスタンプなし・訂正削除履歴なし」の運用を選ぶ場合は、事務処理規程 を整備する必要があります。国税庁公表のテンプレートに基づく 7 章構成:
- 目的:電子取引データの保存方法を定める
- 適用範囲:対象電子取引データの定義
- 管理体制:電子取引管理者の設置、責任分担
- 業務処理サイクル:電子取引データ受領→保存→検索→出力の流れ
- 訂正削除防止:電子取引データの訂正削除の防止・履歴保存
- 保存期間:法人 7 年(欠損金 10 年)
- その他:附則、改廃手続
事務処理規程は「代表取締役」または「経理部門長」の署名捺印付き文書として策定し、社内で運用します。税務調査時に提示できるよう、決裁ルート・改定履歴を管理します。
JIIMA 認証ソフト
JIIMA(公益社団法人日本文書情報マネジメント協会)は、電帳法の要件を充足する電子文書管理ソフトを認証する制度を運用しています。JIIMA 認証には 3 種類:
- 電子帳簿ソフト法的要件認証:会計ソフトが電子帳簿等保存の要件を満たす
- 電子書類ソフト法的要件認証:文書管理ソフトが電子書類の保存要件を満たす
- 電帳法スキャナ保存ソフト法的要件認証:スキャナ保存の要件を満たす
認証取得ソフト(2026 年 8 月時点):freee 会計・マネーフォワード クラウド会計・弥生会計オンライン・楽楽明細・sweeep ・invox ・BtoB プラットフォーム 請求書・DocuSign ・クラウドサイン等の主要 SaaS が認証取得済。
JIIMA 認証は必須ではありませんが、認証取得ソフトを選定すれば「要件充足」を国税庁が事実上保証したことになり、税務調査時のリスクが低減します。
タイムスタンプの運用
タイムスタンプは、電子データの存在時刻を証明する電子証明技術。タイムスタンプ・サービス(TSA) が提供します。
TSA 主要事業者
- セイコーソリューションズ TSA
- アマノ TSA
- NTT データ TSA
- サイバートラスト TSA
- GMO タイムスタンプ
料金は月額数万円〜数十万円(従量制または定額制)。会計クラウド・請求書 SaaS の多くは TSA と連携済で、SaaS 利用料に含まれる場合が多い。
タイムスタンプ運用フロー
- 電子データ受領(メール添付・Web ダウンロード等)
- SaaS または文書管理システムに保存
- 保存後 概ね 2 か月以内 にタイムスタンプ付与(改正で概ね 2 か月以内に緩和)
- 検索・出力の準備
電子データの検索要件 3 項目
電子取引保存では、以下の 3 項目で検索できることが要件:
- 日付:取引年月日
- 取引先:取引先名
- 金額:取引金額
検索機能の運用実装:
- ファイル名に「20260817_大手 A 社_請求書_150000.pdf」形式で 3 項目を含める
- 別途「電子取引データ一覧表」(Excel など)を作成し、3 項目を管理
- SaaS の検索機能(会計クラウド・請求書 SaaS の検索機能)を活用
基準期間の売上高が 5,000 万円以下(2 年前の売上高)の事業者は、検索要件が緩和されます(税務職員のダウンロード要求に応じられれば、検索機能なしでも可)。
電子データ授受方法 5 分類
電子取引データの授受方法は、以下の 5 分類に整理できます:
1. EDI(Electronic Data Interchange)
企業間の電子データ交換。中堅・大企業では 30 年以上前から普及。BtoB プラットフォーム 請求書、インフォマート、リコー、EDI-net などが代表的サービス。
2. メール添付
PDF ・Excel ・Word 等をメール添付で送受信。中小企業でも普及率高い。注意:メール本文自体は電子取引データではなく、添付ファイルが保存対象。
3. Web ダウンロード
取引先の Web サイトから請求書 PDF をダウンロード。SaaS 提供事業者の利用料明細、公共料金明細、ネット銀行明細などが該当。
4. 電子契約サービス
DocuSign /クラウドサイン/GMO サイン/freee サイン等の電子契約サービスで締結した契約書・請求書。
5. 専用サイト
取引先の専用ポータル(B2B マーケットプレイス、SaaS の請求書ページ)から受領する電子データ。
猶予措置と宥恕措置の違い
2023 年 12 月税制改正で、電子取引保存に関する 猶予措置 が導入されました。宥恕措置との違い:
宥恕措置(旧)
- 2022/1〜2023/12 までの経過措置
- 「やむを得ない事情」による書面保存を認める
- 2024/1/1 で終了
猶予措置(新)
- 2024/1/1 以降の恒久的措置
- 「相当の理由」がある場合、電子取引データの保存要件(真実性・可視性)を満たせなくても、電子データ保存を継続すれば良い
- ただし電子データそのものは保存必須(紙保存は不可)
- 税務調査時のダウンロード要求に応じられる必要
「相当の理由」は「システム対応の準備が間に合わない中小企業」や「取引先の対応遅れ」等が該当。ただし恒久的な準備放棄は認められません。
税務調査対応
税務調査時の電帳法関連の確認事項:
- 電子取引データの保存有無:メール添付・Web ダウンロードの請求書等が電子データで保存されているか
- 検索要件の充足:日付・取引先・金額で検索できるか
- タイムスタンプ/訂正削除履歴/事務処理規程:真実性の確保がされているか
- JIIMA 認証ソフトの利用:法的要件充足の証明
- 保存期間:法人 7 年(欠損金 10 年)が保存されているか
税務調査で電帳法違反が指摘された場合、青色申告承認取消し・重加算税賦課の可能性があります。特に 重加算税 は隠蔽・仮装があった場合の追加課税で、通常の過少申告加算税(10 %)に 25 % 加算されて 35 % となります。
講師の現場メモ
私が経理 DX 推進部長時代に、電帳法 2024/1 完全義務化への対応プロジェクトを主導した経験があります。当初は「JIIMA 認証ソフトを入れれば OK」と考えていましたが、実際に走らせてみると、現場での運用ルール の徹底が最大の壁でした。
具体的には、営業部門が取引先とのメール添付 PDF を「個人メールに保存」してしまうケース、営業所間で電子取引データの管理方法がバラバラのケース、Web ダウンロード請求書の PDF ファイル名が「invoice.pdf」の統一名になっているケースなど、電帳法要件を満たさない実態が続出しました。
対応として、営業部門向けの電帳法トレーニング(30 分動画×3 回)、社内ポータルへの一元集約、ファイル名ルール(YYYYMMDD_取引先_書類種別_金額.pdf)の徹底を推進しました。制度対応は「システムを入れる」ではなく「現場を動かす」プロジェクトだと痛感しました。
まとめ
- 電帳法(電子帳簿保存法)1998 制定、2020 改正・2022/1 施行で電子取引データ電子保存義務化、2023/12 宥恕措置延長、2024/1 完全義務化
- 電帳法 3 制度:電子帳簿等保存(任意・優良な電子帳簿は過少申告加算税 5 % 軽減)/スキャナ保存(任意・タイムスタンプ/訂正削除履歴・検索機能・解像度 200 dpi 以上・入力期間 概ね 2 か月)/電子取引保存(義務・真実性 タイムスタンプ/訂正削除履歴/事務処理規程・可視性 検索機能/システム関係書類/出力・保存期間 7 年 欠損金 10 年)
- 事務処理規程テンプレート 7 章:目的/適用範囲/管理体制/業務処理サイクル/訂正削除防止/保存期間/その他。国税庁テンプレートに基づく
- JIIMA 認証(公益社団法人日本文書情報マネジメント協会)3 種類:電子帳簿ソフト法的要件認証/電子書類ソフト法的要件認証/電帳法スキャナ保存ソフト法的要件認証。認証取得ソフトは要件充足を事実上保証、税務調査リスク低減
- タイムスタンプ TSA 主要事業者:セイコーソリューションズ TSA /アマノ TSA /NTT データ TSA /サイバートラスト TSA /GMO タイムスタンプ。会計クラウド・請求書 SaaS の多くは TSA 連携済
- タイムスタンプ運用フロー:電子データ受領→SaaS 保存→保存後 概ね 2 か月以内 タイムスタンプ付与→検索・出力準備
- 検索要件 3 項目:日付・取引先・金額。ファイル名 20260817_大手 A 社_請求書_150000.pdf 形式、電子取引データ一覧表、SaaS 検索機能。基準期間 売上高 5,000 万円以下は検索要件緩和
- 電子データ授受方法 5 分類:EDI(BtoB プラットフォーム 請求書・インフォマート)/メール添付(添付ファイルが保存対象)/Web ダウンロード(SaaS 利用料明細・公共料金明細)/電子契約サービス(DocuSign /クラウドサイン/GMO サイン/freee サイン)/専用サイト(B2B ポータル・SaaS 請求書ページ)
- 猶予措置(新 2024/1 以降恒久措置、相当の理由あれば真実性可視性満たせずとも電子データ保存継続可、電子データは保存必須)vs 宥恕措置(旧 2022/1〜2023/12 経過措置、やむを得ない事情による書面保存)
- 税務調査対応:電子取引データ保存有無/検索要件充足/タイムスタンプ・訂正削除履歴・事務処理規程/JIIMA 認証/保存期間。違反は青色申告承認取消し・重加算税 35 %
次のレッスンでは、インボイス受取側 IT 実装を扱います。