相談相手を設計する
レッスン7:相談相手を設計する
このレッスンで学ぶこと
- 「専門家に相談しましょう」という一般論で終わらせないための具体論
- 顧問税理士・顧問弁護士を作業者から相談相手に変える方法
- 疑似取締役会・社外アドバイザリーボードの作り方
- 社外の同格者を持つ意味と、社内の右腕に相談してよい範囲
前回のレッスンでは、家族という最も身近な関係者が、意思決定にどう関わるかを扱いました。今回のレッスンでは、レッスン1で示した中核メッセージの1つ、「相談相手はいるものではなく、自分で設計するもの」を、具体的な方法に落とし込みます。経営者が抱える孤独そのものの心理的な構造や対処法は、起業やマネジメントを専門に扱う既刊コースに譲り、本レッスンは「相談相手という装置をどう設計するか」に絞ります。
ここまでのレッスンで扱った、可逆と不可逆の分類、期待値の計算、経営者保証の構造、金融機関との関係、家族との境界は、いずれも1人で判断するための技術でした。しかし、レッスン1で確認したとおり、決裁者がひとりであることの最大の代償は「検証されない」ことです。どれだけ優れた道具を使っても、その使い方そのものが偏っていれば、判断の質は上がりません。本レッスンで扱う相談相手の設計は、これまでの技術を検証する外部の視点を、意図的に組み込むための仕組みです。
なぜ「専門家に相談しましょう」では動けないのか
意思決定に関する助言の多くは、最終的に「専門家に相談しましょう」という一文で締めくくられます。この助言自体は間違っていませんが、オーナー経営者にとっては、これだけでは実際の行動につながらないことが少なくありません。
理由は3つあります。第1に、「誰に」相談すべきかが具体的でないことです。税理士、弁護士、コンサルタント、同業の経営者、家族、友人と、相談相手の候補は多岐にわたりますが、どの論点をどの相手に持っていくべきかが整理されていないと、結局誰にも相談しないまま判断してしまいます。
第2に、「何を」相談すべきかが不明確なことです。漠然とした不安を抱えたまま相談の場に臨むと、相手も的確な助言をしにくく、「話してすっきりした」で終わってしまうことがあります。
第3に、「どのような対価で」相談を続けるかが決まっていないことです。無償の相談は、続けているうちに相手の負担が大きくなり、関係が長続きしません。適切な対価を払う関係を築くことが、長期的に頼れる相談相手を持つための土台になります。
本レッスンでは、この3つの空白を埋めるために、相談相手を「顧問税理士・顧問弁護士」「社外アドバイザリーボード」「社外の同格者」「社内の右腕」という4つの層に分けて、それぞれの設計方法を扱います。4つの層は、専門性の深さと、利害関係の有無という2つの軸で性格が異なり、組み合わせて使うことで初めて、合議体の不在を補う効果を発揮します。
💡 ポイント 相談相手の設計は、1人の万能な相談相手を探すことではありません。論点の性質に応じて、複数の相談相手を使い分ける仕組みを作ることです。すべてを1人に相談しようとすると、その1人への依存度が高くなりすぎ、その人の視点や機嫌に判断が左右されるリスクが生じます。
顧問税理士・顧問弁護士を作業者から相談相手に変える
多くのオーナー経営者にとって、最も身近な専門家は顧問税理士です。しかし、顧問税理士との関係が、決算書の作成や税務申告といった「作業の依頼」にとどまっているケースは少なくありません。この関係を、経営判断の相談相手に変えるための工夫を、3つ紹介します。
1つ目は、依頼の仕方を変えることです。「この決算書を作ってください」という作業の依頼だけでなく、「今、こういう投資を検討しているが、資金繰りへの影響をどう見るか」という、判断そのものへの意見を求める依頼を増やします。顧問税理士は、日常的に自社の数字に触れている立場だからこそ、この種の相談に的確に応じられます。
2つ目は、聞き方を変えることです。「これで大丈夫でしょうか」という漠然とした問いではなく、「この投資案の期待値をこう見積もっているが、ほかに考慮すべき要素はあるか」というように、レッスン3で学んだ具体的な数字や仮説を示した上で意見を求めます。具体的な材料を示すほど、相手からも具体的な意見が返ってきます。
3つ目は、報酬の考え方を見直すことです。決算や申告といった定型業務の報酬とは別に、経営相談への対応に見合った報酬を上乗せする、あるいは相談の頻度に応じた顧問料を再設定することを、率直に提案します。多くの税理士は、経営相談に応じる用意があっても、依頼側から求められない限り、自分から踏み込んだ意見を出すことを控えがちです。対価を明確にすることで、相手も安心して踏み込んだ助言をしやすくなります。
顧問弁護士についても、同様の考え方が当てはまります。契約書のチェックといった作業依頼だけでなく、「この契約を結んだ場合、将来どのような選択肢が狭まるか」といった、レッスン2で学んだ可逆・不可逆の判断材料を求める相談へと、関係を広げていくことができます。
📝 補足 顧問税理士や顧問弁護士を、作業者から相談相手に変える過程では、最初は戸惑われることもあります。長年「言われたことをきちんとやる」関係が続いていた場合、急に踏み込んだ意見を求められても、相手も勝手がわからないことがあります。焦らず、小さな相談から始めて、関係を少しずつ広げていく姿勢が現実的です。
具体的な会話の例で確認しましょう。ある経営者は、決算報告の場で顧問税理士から「今期は黒字でした」と伝えられた際、それまでは「ありがとうございます」で終わらせていました。ある年から、「この黒字を踏まえると、来期は設備投資に回す余力がどれくらいあると考えますか」と、判断への意見を求める質問に変えました。最初、顧問税理士は「投資の判断は経営者が決めることなので」と遠慮がちでしたが、数回のやり取りを重ねるうちに、「資金繰りの観点では、この時期に大きな投資をするなら、この程度の借入で抑えるのが無難です」といった、具体的な意見を出してくれるようになりました。関係は一朝一夕には変わらず、繰り返し踏み込んだ質問を投げかける中で、少しずつ深まっていくものです。
疑似取締役会・社外アドバイザリーボードの作り方
顧問税理士や顧問弁護士は、それぞれの専門分野からの助言者ですが、事業全体を俯瞰した議論の相手としては、別の仕組みが必要です。ここで有効なのが、疑似取締役会、あるいは社外アドバイザリーボードと呼ばれる仕組みです。
これは、法律上の取締役会ではなく、経営者が自主的に招集する、事業全体について議論する場です。レッスン1で扱った「合議体の不在」を、非公式な形で補う装置と言えます。
作り方は、次の4つの要素を決めることから始まります。
第1は、誰を招くかです。事業内容を理解できる程度の知見を持ちながら、自社の利害関係者ではない人物が理想的です。異業種の経営者、引退した経営者、専門分野を持つ士業などが候補になります。人数は、3人から5人程度が、議論の深さと運営のしやすさのバランスが取れる規模です。
第2は、頻度です。四半期に1度、半年に1度など、定期的な開催を決めておきます。不定期にすると、忙しさを理由に開催そのものが先延ばしになりがちです。
第3は、報酬です。無償で継続的な関与を求めることは、長期的には難しくなります。会合ごとの謝礼、あるいは年間契約としての顧問料など、事前に明確な対価を決めておきます。金額は、専門家への相談料の水準を参考にしつつ、自社の規模に見合った範囲で設定します。
第4は、守秘義務です。会社の内部情報に触れる以上、招く相手とは事前に守秘義務の合意を交わしておきます。口頭の約束だけでなく、簡単な覚書のような形で残しておくと、双方にとって安心材料になります。
flowchart TD
B[社外アドバイザリーボード]
B --> E1[誰を招くか<br/>3〜5名、利害関係者以外]
B --> E2[頻度<br/>四半期〜半年に1度]
B --> E3[報酬<br/>謝礼または年間契約]
B --> E4[守秘義務<br/>事前に合意]
図1:社外アドバイザリーボードを作る4つの要素。誰を・どれくらいの頻度で・どんな対価で・どう情報を守るかを、事前に決めておく
⚠️ 注意 社外アドバイザリーボードは、法律上の決定権を持たない場です。招いたメンバーの意見に必ず従う必要はなく、最終的な決定権は経営者自身にあります。この点を、招くメンバーにも事前に明確に伝えておくことで、「意見を聞いたのに従わなかった」という不満を防げます。あくまで、判断の材料を増やすための場だと位置づけましょう。
会合の進め方についても、簡単な型を決めておくと運営しやすくなります。例えば、90分の会合であれば、最初の20分で業績の全体像と主要な数字を共有し、次の40分で事前に決めた1つか2つの議題について意見を交わし、最後の30分で自由な質疑応答に充てる、という流れです。議題は、レッスン2で扱った「人に当てるレーン」に入る決定、つまり不可逆な決定や判定に迷う決定を優先的に取り上げます。毎回すべての事業領域を扱おうとすると議論が浅くなるため、1回の会合につき論点を絞り込むことが、実のある議論につながります。
📝 補足 社外アドバイザリーボードのメンバー選びでは、自分の意見に賛同してくれそうな人だけを集めないよう、意識的に注意する必要があります。レッスン1で扱った「イエスマンの台頭」は、社内だけでなく、自分で選ぶ社外の相談相手にも起こりえます。あえて自分とは異なる視点や経験を持つ人物を、意識して加えることをおすすめします。
社外の同格者を持つ意味
社外アドバイザリーボードが、事業全体を議論する公式に近い場であるのに対し、もう少し気軽な形で持てる相談相手が、社外の同格者です。同格者とは、自分と同じ立場、つまり同規模で別業種のオーナー経営者を指します。
同格者との対話が価値を持つ理由は、立場の対称性にあります。顧問税理士や顧問弁護士は、専門知識では自分より詳しくても、経営の最終決裁を担う重みそのものは経験していません。社外アドバイザリーボードのメンバーも、多くの場合は助言する側であり、決裁の責任を負う側ではありません。同格者だけが、「決裁の重みを実際に背負っている」という一点で、対等な対話ができる相手です。
同格者との関係は、経営者コミュニティや異業種交流の場で自然に生まれることもありますが、意図的に築くこともできます。共通の取引先や金融機関の紹介、地域の商工団体の集まりなど、きっかけは多様です。重要なのは、関係ができた後、単なる社交の場にとどめず、「今こういう判断で悩んでいる」という率直な話ができる関係にまで、意識的に深めていくことです。
🔰 初学者の方へ 同格者に相談する際は、自社の詳細な財務情報まで開示する必要はありません。「今こういう種類の判断で迷っている」という、判断の構造だけを共有するだけでも、相手の経験に照らした示唆を得られることがあります。守秘の範囲を自分で決めながら、少しずつ関係を深めていく姿勢で十分です。
例えば、製造業を営むある経営者は、月に1度、異業種のサービス業を営む経営者と、互いの近況を話す昼食の場を10年近く続けています。話す内容は業界も規模も異なるため、直接的な助言をもらえる場面は多くありません。それでも、「決裁を1人で背負う重さ」という共通の経験があるからこそ、業種を超えて「今こういう決定で迷っている、あなたならどう感じるか」という率直な対話ができます。この経営者は、大きな設備投資を決める前には必ずこの同格者に話を聞いてもらうことを、自分なりの習慣にしています。
有償の壁打ちという選択
顧問税理士、社外アドバイザリーボード、社外の同格者のいずれとも異なる、もう1つの選択肢が、経営顧問への有償の相談、いわゆる壁打ちです。壁打ちとは、自分の考えを相手に話し、質問や指摘を受けながら、思考を整理していく対話の形式を指します。
有償の壁打ちの利点は、相手との関係に、業務上の利害や個人的な貸し借りが生じにくいことです。顧問税理士や社外の同格者との関係は、長期的な信頼関係の上に成り立ちますが、その分、率直に言いにくいことも出てきます。対価を払って一度きり、あるいは数回限定で相談する関係であれば、相手も遠慮なく踏み込んだ指摘をしやすく、自分も気兼ねなく率直な悩みを話しやすいという側面があります。
壁打ちの相手としては、経営顧問として独立して活動する元経営者や、特定分野の専門コンサルタントなどが候補になります。1回限りの相談でも構いませんし、月に1度など、定期的な契約として続けることもできます。
📖 もっと詳しく 壁打ちを依頼する際は、相手に何を期待しているかを、事前に明確に伝えることをおすすめします。「答えを出してほしい」のか、「考えを整理する手伝いをしてほしい」のかで、相手の関わり方は大きく変わります。目的を伝えないまま相談を始めると、双方の期待がずれたまま対話が終わってしまうことがあります。
壁打ちの費用は、決して安いものではないと感じる経営者もいます。しかし、レッスン3で扱った期待値の考え方をここでも応用できます。不可逆な決定を誤って実行してしまった場合の損失額と、壁打ちにかかる費用を比較すれば、多くの場合、後者ははるかに小さい金額です。数万円から数十万円の壁打ち費用を惜しんで、数百万円、数千万円の判断を独りよがりのまま進めてしまうことの方が、長期的には高くつくと考えることもできます。
社内の右腕に何を相談してよいか
最後に、社内の人材との関係を扱います。オーナー経営者の中には、長年信頼してきた右腕と呼べる幹部社員がいることがあります。この右腕に何を相談してよいか、何を相談すべきでないかを整理しておきます。
相談してよいのは、実行の現場に関わる判断です。長年一緒に働いてきた右腕は、社外の相談相手が持ち得ない、自社の現場感覚と歴史を知っています。「この方針をどう社内に伝えるべきか」「この取引先との交渉をどう進めるべきか」といった、実務の視点が生きる論点は、社内の右腕だからこそ的確な意見を持っています。
相談に慎重になるべきなのは、右腕自身の処遇や、会社の将来的な体制に関わる判断です。右腕を将来どこまで昇進させるか、右腕の給与をどう設計するかといった、右腕自身が当事者となる論点を、その本人に相談することはできません。この種の論点は、社外アドバイザリーボードや、顧問税理士・顧問弁護士といった、利害関係のない相手に相談すべき領域です。
もう1つ注意したいのが、右腕への依存度です。信頼する右腕がいることは心強い一方、その1人にすべての相談を集中させてしまうと、レッスン1で扱った「合議体の不在」を、社外の複数の視点ではなく、社内の特定の1人だけで埋めることになります。右腕の意見に偏りがあった場合、それに気づく機会そのものが失われます。右腕への相談は、あくまで相談相手の1つの層として位置づけ、社外の層と組み合わせて使うことが大切です。長年連れ添った右腕であっても、その人自身が異動や独立で会社を離れる可能性はゼロではありません。特定の1人だけに相談の窓口を集中させないことは、その意味でも、長期的な安定につながります。
💡 ポイント 相談相手の4つの層、顧問税理士・顧問弁護士、社外アドバイザリーボード、社外の同格者、社内の右腕は、それぞれ異なる視点を提供します。1つの層に偏らず、論点の性質に応じて使い分けることが、レッスン1で扱った「検証されない」という代償を補う、最も実践的な方法です。
まとめ
このレッスンでは、以下のことを学びました。
- 「専門家に相談しましょう」という一般論は、誰に・何を・どんな対価で相談するかが具体化されて初めて、実際の行動につながる
- 顧問税理士・顧問弁護士は、依頼の仕方・聞き方・報酬の考え方を見直すことで、作業者から相談相手に変えられる
- 社外アドバイザリーボードは、誰を招くか・頻度・報酬・守秘義務の4要素を決めて設計する
- 社外の同格者は、決裁の重みを実際に背負っているという一点で、対等な対話ができる相手になる
- 有償の壁打ちは、利害関係が薄いからこそ率直な対話ができる選択肢で、不可逆な決定を誤って実行した場合の損失と比較すれば費用は多くの場合小さい
- 社内の右腕には実行の現場に関わる判断を相談し、右腕自身の処遇や体制に関わる判断は社外の相談相手に委ねる。右腕への依存度が高くなりすぎないよう、複数の層と組み合わせて使う
相談相手の設計は、一度作って終わりではありません。会社の規模や事業の局面が変わるにつれ、必要な相談相手の顔ぶれも変わっていきます。年に1度程度、自分の相談相手の4つの層を見直し、偏りがないかを確認する習慣を持つことをおすすめします。
次のレッスンでは、本コースの最終回として、決めた後の自分をどう守るかという、記録と歯止めの仕組みを扱います。
確認クイズ
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