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スキルアップカレッジ

人材データ基盤とタレントマネジメントシステム

レッスン4:人材データ基盤とタレントマネジメントシステム

このレッスンで学ぶこと

  • 人事マスタの統合とは何かを理解する
  • 人材データのデータモデルの考え方を理解する
  • タレントマネジメントシステムと既存の人事給与システムの役割分担を理解する
  • 導入の進め方と移行時の落とし穴、人事データのガバナンスの基本を学ぶ

前回のレッスンでは、スキルマップを使ってスキルを可視化する方法を学びました。今回は、可視化した情報を組織全体で扱うための土台となる、人材データ基盤とタレントマネジメントシステムを扱います。

なぜデータ基盤から始める必要があるのか

タレントマネジメントシステムの導入を検討する際、多くの組織は最初に「どのシステムを選ぶか」という製品選定から議論を始めがちです。しかし、製品を選ぶ前に確認すべきことがあります。それは、自組織の人材データが、そもそもシステムに正しく取り込める状態になっているかどうかです。

どれほど高機能なシステムを導入しても、取り込むデータの側が部署ごとにバラバラで、同じ社員が複数の異なるコードで管理されているような状態では、システムは正しく機能しません。本レッスンでは、システムそのものの前に、データ基盤の整備から扱います。

💡 ポイント システムはデータを活用するための道具にすぎません。土台となるデータが整っていなければ、どんなに高機能な道具を導入しても、宝の持ち腐れになります。

人事マスタの統合

人事マスタとは、社員の基本情報を一元的に管理する台帳のことです。社員番号、氏名、所属組織、役職、雇用形態などの基本項目を持ちます。人材データ基盤を整備するうえで、まず取り組むべきなのが、この人事マスタを組織全体で統一することです。

多くの組織では、人事マスタが複数のシステムに分散しています。給与計算のためのシステム、勤怠管理のためのシステム、健康管理のためのシステムが、それぞれ独自に社員の情報を保持しているケースが少なくありません。この状態で、新たにタレントマネジメントシステムを導入すると、4つ目の独立した社員情報が生まれることになります。

分散した人事マスタを統合するために、特に重要になるのが3つのコードの整合です。

第1に、社員番号です。同一人物が、システムによって異なる番号で管理されていないかを確認します。合併や買収の経験がある組織では、旧会社ごとに異なる採番体系が残っていることがあります。

第2に、組織コードです。部署や課の単位を示すコードが、システムごとに異なる粒度や体系になっていないかを確認します。ある人事システムでは「営業本部」という単位で管理し、別のシステムでは「営業第一課」という単位まで細かく管理している、といったずれが典型的です。

第3に、職務コードです。同じ職務であっても、システムによって異なる名称やコードで登録されている場合があります。「エンジニア」と「技術職」が、実際には同じ職務を指しているのに別コードとして扱われているようなケースです。

⚠️ 注意 これら3つのコードがずれたままシステムを連携させると、同一人物や同一組織のデータが分裂し、集計や検索が正しく機能しません。人事マスタの統合は、地味で時間のかかる作業ですが、タレントマネジメントシステムを機能させるための最も基礎的な工程です。

データモデルの考え方

人事マスタの統合が済んだら、次はデータをどんな構造で持つかというデータモデルを設計します。データモデルとは、どんな種類の情報を、どんな単位で、どうつなげて持つかという設計図のことです。

タレントマネジメントの文脈でよく使われる基本的なデータモデルは、次の4つの情報を中心に組み立てられます。

1つ目は社員の基本情報です。人事マスタに含まれる、社員番号や所属といった情報です。

2つ目はスキル情報です。レッスン2と3で扱った、スキルカテゴリ・スキル項目・習熟レベルの情報です。

3つ目は経歴情報です。過去の異動履歴、担当してきたプロジェクト、経験してきた職務の履歴です。

4つ目は評価・資格情報です。人事評価の結果や、保有資格、研修受講歴です。

flowchart TD
  A[社員の基本情報] --> B[スキル情報]
  A --> C[経歴情報]
  A --> D[評価・資格情報]
  B --> E[検索・分析]
  C --> E
  D --> E

図1:人材データ基盤の基本構造です。社員の基本情報を中心に、スキル情報・経歴情報・評価と資格の情報がひもづき、これらを組み合わせて検索や分析に使います。

このデータモデルの設計で重要なのは、それぞれの情報を社員番号という共通の鍵で結びつけることです。社員番号がすべての情報の共通の鍵として機能して初めて、「あるスキルを持ち、特定の経歴があり、一定の評価を得ている社員」という複合的な検索が可能になります。

タレントマネジメントシステムと人事給与システムの役割分担

多くの組織にはすでに人事給与システムが存在します。ここで疑問が生じます。人事給与システムがあるのに、なぜ別にタレントマネジメントシステムが必要なのでしょうか。

両者の役割の違いを整理します。人事給与システムは、給与計算、社会保険、勤怠管理といった、法令に沿って正確に処理することが最優先される業務を担います。データの正確性と、法改正への対応が重視されます。

一方、タレントマネジメントシステムは、スキルや経歴、評価といった情報をもとに、人材の活用に関する意思決定を支援することを目的とします。検索のしやすさ、分析のしやすさ、可視化のわかりやすさが重視されます。

観点 人事給与システム タレントマネジメントシステム
主な目的 給与計算・社会保険・勤怠の正確な処理 人材活用の意思決定支援
重視される点 正確性、法令対応 検索性、分析のしやすさ
主なユーザー 人事労務担当者 人事企画、人材開発、現場管理職
データの性質 法定帳票のもとになる確定情報 スキルや経歴など変化し続ける情報

表1:人事給与システムとタレントマネジメントシステムの役割分担。両者は競合するものではなく、共通の人事マスタを軸に連携することで、それぞれの強みを発揮します。

両者を連携させる際は、人事マスタをどちらか一方が「正」として持ち、もう一方はそれを参照する形にするのが実務的です。多くの場合、社員番号や所属組織といった基本情報は人事給与システム側を正とし、タレントマネジメントシステムはそれを定期的に取り込む構成が採られます。

システム間の連携方式

人事給与システムとタレントマネジメントシステムを連携させる方式には、いくつかの選択肢があります。どの方式を選ぶかによって、データの鮮度や運用の負荷が変わります。

第1に、API連携です。2つのシステムがプログラムを通じて自動的にデータをやり取りする方式で、人事給与システム側で情報が更新されると、タレントマネジメントシステム側にも短い時間で反映されます。鮮度は高い一方、システム間の技術的な連携設定が必要で、導入の初期コストがかかります。

第2に、ファイル連携です。決まったタイミングで、一方のシステムからデータを書き出したファイルを、もう一方のシステムに取り込む方式です。1日1回、あるいは週1回といった頻度で更新されるのが一般的で、API連携ほど即時性はありませんが、比較的低コストで実現できます。

第3に、手動連携です。担当者が一方のシステムの画面を見ながら、もう一方のシステムに手作業で入力し直す方式です。システム間の技術的な連携を組まずに済む一方、入力の手間と誤入力のリスクが常につきまといます。

📝 補足 多くの組織では、まずファイル連携で運用を始め、データの流れや更新頻度に問題がないことを確認してから、必要に応じてAPI連携へ移行するという段階的なアプローチが現実的です。手動連携は、対象人数が少ない小規模な組織や、暫定的な運用に留めるのが望ましく、中長期的な運用には向きません。

導入の進め方と移行時の落とし穴

タレントマネジメントシステムの導入を進める際の一般的な流れと、そこで起きやすい落とし穴を整理します。

導入の流れは、要件の整理、データ移行の設計、試験運用、本稼働という段階を踏みます。この中で特に落とし穴になりやすいのが、データ移行の段階です。

1つ目の落とし穴は、移行するデータの範囲を絞らないことです。過去何十年分もの経歴情報をすべて移行しようとすると、作業が膨大になり、いつまでも本稼働にたどり着けません。直近数年分に絞る、あるいは今後の情報から新規に蓄積を始めるといった割り切りが必要です。

2つ目の落とし穴は、移行後の検証を軽視することです。大量のデータを移行した後、実際に正しく取り込まれているかをサンプル抽出で確認せずに本稼働へ進むと、後になって大量のデータ不整合が発覚することになります。

3つ目の落とし穴は、現場への説明を後回しにすることです。システムが変わることで入力の手順や画面が変わるにもかかわらず、現場への周知が本稼働の直前になると、社員が混乱し、初期の入力品質が下がります。

📖 もっと詳しく 具体的な製品の比較や、選定にあたっての評価軸は本コースでは扱いません。人事評価制度関連の実践コースが、HR Techの選定という切り口で製品比較と選定の考え方を扱っています。本コースは、選んだ後にどうデータを整え、どう運用するかに焦点を当てます。

人事データのガバナンス

タレントマネジメントシステムには、社員のスキルや経歴、評価といった機微な情報が集まります。だからこそ、データをどう扱うかというガバナンスの設計が欠かせません。3つの観点で整理します。

1つ目は、取得目的の明示です。どんな目的でこのデータを集めるのかを、社員に対してあらかじめ明示します。目的が曖昧なまま情報を集めると、後になって「何のために使われるのかわからない」という不信感を招きます。

2つ目は、アクセス権限の設計です。誰が、どの情報まで閲覧・編集できるのかを役割ごとに設計します。人事企画の担当者がすべての情報を見られる一方、現場の管理職は自部門の社員の情報だけを見られる、といった権限の階層を設けるのが一般的です。

3つ目は、保存期間の設定です。退職者の情報をいつまで保持するか、古い評価情報をいつまで参照可能にするかを、あらかじめルールとして定めます。無制限に保持し続けることは、管理の負荷を増やすだけでなく、情報漏えい時のリスクも増大させます。

⚠️ 注意 人事データは、集めてよい理由を説明できる範囲でしか集めてはいけません。便利だからという理由だけで情報を広げていくと、収集の目的と実際の利用実態がずれていき、後になって組織自身が説明責任を果たせなくなります。個人情報保護法の実務そのものは、プライバシー関連の実践コースが扱う領域ですが、人材データを扱ううえでの基本姿勢として、この3観点は必ず押さえておく必要があります。

3観点が実際にどう機能するかを、1つの場面で確認します。ある組織が、社内公募の運営のためにスキルマップを活用したいと考え、現場の管理職からアクセス権限の拡大を求められました。ここで取得目的の明示に立ち返ると、そもそもスキルマップを集めた当初の目的は「配置と育成の検討のため」であり、社内公募の候補者選定という用途は、当初の目的の範囲内かどうかをまず確認する必要があります。範囲内と判断できるのであれば、アクセス権限の設計を見直し、社内公募の運営に関わる担当者に限定した閲覧権限を新設します。範囲外と判断されるのであれば、社員に対して利用目的の追加を改めて説明し、理解を得たうえで運用を広げるという手順を踏みます。このように、3観点は独立した作業ではなく、互いに連動しながら運用されるべきものです。

講師の現場メモ

上場メーカーでタレントマネジメントシステムの導入を主導した際、最初に着手したのが人事マスタの統合作業でした。当時、給与システム、勤怠システム、そして各事業部が独自に運用していたエクセルの人材管理表という、実に7つの異なる場所に社員情報が分散していました。

統合作業を始めてすぐに気づいたのは、同一人物が複数の異なる社員番号で登録されているケースが、想定よりはるかに多いという事実でした。合併前の旧会社時代の番号がそのまま残っていたり、育児休業からの復職時に新しい番号が発行されていたりと、原因はさまざまでした。突き合わせの作業だけで、当初の想定の3倍の工数がかかりました。

もう1つ苦労したのが、組織コードの粒度の違いでした。給与システムでは「本部」単位、事業部のエクセル管理表では「班」単位という、5階層分も粒度が異なる組織構造が並立していました。この違いを吸収するために、全社共通の組織コード体系を新たに定義し、既存の各システムのコードとの対応表を作成する作業に、結局4か月を要しました。

この経験を通じて痛感したのは、タレントマネジメントシステムの導入プロジェクトと聞くと、多くの人がシステムの機能や画面のデザインに関心を向けがちですが、実際にプロジェクトの成否を分けるのは、その手前にあるデータ統合の地道な作業だということです。システムの選定や導入は、いわば最後の1割の工程にすぎません。残りの9割は、人事マスタを整え、コードを統一し、移行データを検証するという、目立たない作業の積み重ねでした。今、支援先の企業にタレントマネジメントシステムの導入を提案する際は、最初にこの9割の作業量を正直に伝えるようにしています。

まとめ

このレッスンでは、以下のことを学びました。

  • タレントマネジメントシステムを導入する前に、社員番号・組織コード・職務コードという3つのコードの整合を取り、人事マスタを統合する必要がある
  • 人材データ基盤は、社員の基本情報を中心に、スキル情報・経歴情報・評価と資格の情報を社員番号でひもづけるデータモデルで構成する
  • 人事給与システムは正確性と法令対応を重視し、タレントマネジメントシステムは検索性と分析のしやすさを重視するという役割分担がある
  • 導入時の落とし穴は、移行データの範囲を絞らないこと、移行後の検証の軽視、現場への説明の遅れ
  • 人事データのガバナンスは、取得目的の明示、アクセス権限の設計、保存期間の設定という3観点で整える

次のレッスンでは、こうして整えたデータを実際に分析に活用する「ピープルアナリティクス」を扱います。


確認クイズ

このレッスンの理解度をチェックしましょう。