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スキルアップカレッジ

組織図を描く——中規模組織の構造設計

レッスン2:組織図を描く——中規模組織の構造設計

このレッスンで学ぶこと

  • 「組織は戦略に従う」という考え方と、組織形態の 4 基本形を理解する
  • 事業部制の成り立ちと、自部門に適用する際の条件を把握する
  • 課・グループの数と規模、階層の増減をどう判断するかを学ぶ
  • 組織変更が引き起こす副作用と、組織図ドラフトの作り方を扱える

前回のレッスンでは、部長という職種の全体像と、課長からの階層転換で変化する 6 つの責任を扱いました。今回は、部長の仕事の中でも最も可視化された意思表示である「組織図を描く」ことを掘り下げます。

「組織は戦略に従う」

組織設計を考える出発点として、経営史家アルフレッド・D・チャンドラー・ジュニアが 1962 年の著書『Strategy and Structure(戦略と組織)』で示した「組織は戦略に従う」という命題があります。事業の戦略が変われば、それを実行するのに適した組織構造も変わるべきである、という考え方です。

この命題を部長の実務に置き換えると、次のようになります。「今の組織図は、今の戦略に合っているか」を問い続けることが、組織設計の出発点です。前任者から引き継いだ組織図をそのまま維持し続けるのではなく、事業の方向性が変わったタイミングで、組織構造も見直す対象として捉えます。

💡 ポイント 組織図は「一度決めたら固定するもの」ではなく、「戦略の変化に応じて見直すもの」です。部長は、組織図を描き直す権限を持つと同時に、その責任も負います。

組織形態の 4 基本形

組織構造の基本形として、4 つの型を整理します。実際の組織はこれらの純粋形ではなく、複数を組み合わせた形を取ることが多いですが、基本形を理解すると自部門の構造を分析しやすくなります。

第 1 に「機能別組織」です。営業、開発、製造、管理といった機能ごとに課やグループを分ける形です。専門性を深めやすく、重複投資を避けられる一方、機能間の連携に手間がかかり、顧客や製品への一体的な対応が弱くなる傾向があります。

第 2 に「製品別組織」です。製品カテゴリーやブランドごとに組織を分ける形です。製品ごとの意思決定が速く、収支責任が明確になる一方、機能を製品ごとに重複して持つため、組織全体で見ると非効率が生じやすくなります。

第 3 に「顧客別組織」です。大口顧客、業界、顧客セグメントごとに組織を分ける形です。顧客への一体的な対応がしやすい一方、同じ機能を顧客ごとに重複して持つコストが発生します。

第 4 に「地域別組織」です。国内・海外、地域ブロックごとに組織を分ける形です。現地の事情に即した意思決定ができる一方、地域を横断した知見の共有が弱くなりがちです。

組織形態 強み 弱み
機能別 専門性、効率性 機能間連携の手間
製品別 製品ごとの意思決定速度、収支責任の明確さ 機能の重複コスト
顧客別 顧客への一体対応 機能の重複コスト
地域別 現地適応 地域間の知見共有の弱さ

表 1:組織形態の 4 基本形。実際の組織は複数の形を組み合わせて設計されることが多い。

📝 補足 どの形を選ぶかは、事業の性質によって変わります。専門性が競争優位の源泉であれば機能別が有利になりやすく、顧客との関係性が競争優位の源泉であれば顧客別が有利になりやすいというのが、実務上の目安です。

4 つの基本形のどれを選ぶかは、「競争優位の源泉は何か」という問いに立ち返ると判断しやすくなります。

flowchart TD
  Q[自部門の競争優位の源泉は何か]
  Q -->|専門知識・技術の深さ| F[機能別組織]
  Q -->|製品ごとの意思決定速度| P[製品別組織]
  Q -->|顧客との関係の深さ| C[顧客別組織]
  Q -->|現地事情への適応| R[地域別組織]

図 1:組織形態を選ぶ際の判断の起点。競争優位の源泉が複数ある場合は、優先順位の高いものを軸に選び、残りは運用上の工夫(横断会議体や兼務など)で補う。

例えば、ある専門商社の部門では、長年「機能別組織」を敷いていましたが、大口顧客からの要望が複雑化し、顧客ごとに営業・技術・物流の対応をまとめて素早く判断する必要が出てきました。この部門の部長は、機能別の骨格を維持しながら、主要な大口顧客だけを対象にした「顧客担当チーム」を新設し、機能別と顧客別を部分的に組み合わせる判断をしました。純粋な 4 基本形のどれか 1 つを選ぶのではなく、競争優位の源泉に応じて部分的に組み合わせるという判断も、実務ではよく行われます。

事業部制の成り立ちと適用条件

4 基本形のうち、製品別組織や顧客別組織を大規模に制度化したものが「事業部制」と呼ばれます。事業部制の歴史をたどると、その成り立ちが見えてきます。

米国では、1920 年代にゼネラルモーターズの経営者アルフレッド・P・スローンが、複数の自動車ブランドを製品ラインごとの事業部に分け、各事業部に権限を委譲しながら全社の財務・人事といった機能は本社に集約する「分権的な事業運営と集権的な方針統制」を打ち出しました。事業の急速な拡大に伴い、1 人の経営者がすべての意思決定を担うことが物理的に困難になったことが、この構造転換の背景にあります。

日本では、1933 年に松下電器が製品分野ごとに 3 つの事業部を設置し、研究開発から生産・販売・収支までを各事業部が一貫して担う体制を敷きました。事業の拡大に伴って処理すべき課題が増え、経営者 1 人がすべてを見ることが難しくなったことが導入の背景として伝えられています。米国と日本、それぞれの文脈は異なりますが、「組織の拡大に伴う意思決定の分散」という共通の動機が見て取れます。

⚠️ 注意 事業部制は「大企業だけの仕組み」ではありません。30〜100 名規模の部門であっても、製品や顧客セグメントごとに課を分け、それぞれに一定の裁量を持たせる発想は、事業部制の縮小版として応用できます。重要なのは規模の大小ではなく、「意思決定をどこまで分散させるか」という設計思想です。

事業部制を自部門に適用する条件を 3 つ整理します。第 1 に、製品や顧客セグメントごとに市場環境や競争条件が明確に異なること。第 2 に、各課の責任者に一定レベルの意思決定能力があること。第 3 に、機能の重複コストを許容できる規模であることです。これらが満たされない場合、機能別組織のまま各課を専門機能で束ねる方が適しています。

3 つの条件を、60 名規模の部門を例に確認してみます。この部門は 2 つの製品ライン(A 製品・B 製品)を抱え、それぞれ市場環境も競合も異なっていました。第 1 の条件(市場環境の違い)は満たしています。次に、A・B それぞれの製品ラインを率いる課長候補に、価格設定や在庫判断まで任せられる経験があるかを確認したところ、A 製品側の候補は経験十分でしたが、B 製品側は育成途上でした。第 2 の条件は部分的にしか満たされていません。この場合、いきなり両方を独立採算の事業部にするのではなく、A 製品側から段階的に事業部制へ移行し、B 製品側は課長候補の育成が進むまで機能別の体制を維持する、という判断が現実的になります。事業部制は「全部やるか、まったくやらないか」の二択ではなく、条件が整った領域から段階的に導入する選択肢もあります。

部門側から見たマトリクス構造の判断

複数の軸を同時に持つ組織形態として「マトリクス組織」があります。マトリクス組織そのものの詳しい構造や、プロジェクト側から見た運用は別のコースの領域であるため、本コースでは、部門長として「マトリクス構造を選ぶかどうか」という設計判断のみを扱います。

部門側からマトリクス構造を検討する場面は、主に 2 つあります。1 つは、機能別組織を基本としながら、特定の製品や顧客への対応を横断的に強化したい場合です。もう 1 つは、地域別組織を基本としながら、全社共通の機能標準を維持したい場合です。

マトリクス構造を採用する際に部門長が判断すべきことは、実線・破線のどちらの指揮系統を自部門の課長に持たせるかです。自部門の課長を実線(主たる評価権を持つ側)に置くのか、破線(連携先として関わる側)に置くのかによって、部門長自身の人事権の範囲も変わります。この判断は、レッスン 3 で扱う人事権の行使とも直結します。

📖 もっと詳しく マトリクス組織における「二人のボス」問題への具体的な対処や、プロジェクトリーダーの立ち回りに関心がある方は、プロジェクト推進をテーマにした別の実践コースを参照してください。本コースでは、部門長が組織形態を選択する判断にのみ焦点を当てます。

課・グループの数と規模の決め方

組織図を描く際、課やグループの数と規模をどう決めるかは、部長にとって具体的な悩みどころです。判断の目安を 3 つ示します。

第 1 の目安は、課長 1 人が直接マネジメントできる範囲です。既刊で扱われているスパン・オブ・コントロールの考え方が、ここで結論として使われます。1 人の課長が直接見られる人数には限界があるため、1 課あたりの人数が大きくなりすぎる場合は、課を分割する検討材料になります。

第 2 の目安は、業務の独立性です。ある業務のまとまりが、別の業務とほとんど連携せずに完結するなら、独立した課として切り出す合理性が高まります。逆に、日常的に密接な連携が必要な業務同士は、同じ課の中に置く方が、調整コストを抑えられます。

第 3 の目安は、育成の機会です。課を細かく分けるほど、課長というポジションの数が増え、育成対象となる人材に機会を提供しやすくなります。一方で、課を細かく分けすぎると、部長が直接マネジメントする課長の数が増え、部長自身のスパン・オブ・コントロールの限界に触れます。

💡 ポイント 課の数を決める作業は、部長自身の間接マネジメントの負荷設計でもあります。課長を何人置くかは、部長が「自分は何人の課長を直接見られるか」という自問と表裏一体です。

3 つの目安を、具体的な数字で確認してみます。45 名の部門を、3 課体制(1 課あたり平均 15 名)にするか、5 課体制(1 課あたり平均 9 名)にするかで迷う場面を考えます。3 課体制は、課長が直接見る人数がやや多く、育成対象となる課長ポストは 3 つに留まります。一方で部長自身が直接見る課長は 3 名で済み、部長の負荷は軽くなります。5 課体制は、1 課あたりの人数が絞られ、業務の独立性を活かした細かい役割分担がしやすくなりますが、部長は 5 名の課長を直接見ることになり、課長会の運営や個別の 1on1 にかかる時間が増えます。どちらが正しいということはなく、「部長自身が何人の課長までなら質の高い間接マネジメントができるか」という自己認識と、「育成すべき候補者が何人いるか」という人材面の事情を突き合わせて決める判断になります。

階層を増やす・減らす判断

組織の規模が大きくなると、部長と現場メンバーの間に「次長」「室長」「グループリーダー」のような中間階層を挟むかどうかの判断が生じます。

階層を増やす判断が妥当な場面は、部長 1 人では直接見るべき課長の数が多すぎる場合、または特定の領域に専門性の高い橋渡し役が必要な場合です。階層を減らす判断が妥当な場面は、組織のフラット化によって意思決定の速度を上げたい場合、または中間階層のポストを整理してコストを抑えたい場合です。

階層の増減は、単なる効率性の問題にとどまりません。階層を増やせば昇進機会が増える一方、意思決定に時間がかかりやすくなります。階層を減らせば意思決定は速くなる一方、昇進機会が減り、部長自身が見るべき範囲が広がります。トレードオフを理解した上で判断することが求められます。

組織変更の副作用

組織図を変更する判断は、意図した効果だけでなく、副作用を伴います。代表的な副作用を 3 つ整理します。

第 1 に、情報経路の混乱です。誰が誰に報告するかという経路が変わると、しばらくの間、情報が正しく届かなくなる時期が生じます。

第 2 に、評価の空白です。組織変更の直後は、新しい上司がメンバーの過去の実績を十分に把握できておらず、評価の質が一時的に下がる可能性があります。

第 3 に、キャリアパスの見え方の変化です。所属する課が変わることで、これまで見えていた昇進の道筋が見えにくくなり、メンバーの不安を招くことがあります。

⚠️ 注意 組織変更は「良い構造にする」という意図だけで評価してはいけません。変更によって生じる一時的な混乱と、変更後に得られる長期的な利益を天秤にかけ、変更のタイミングと移行期間の設計まで含めて計画することが、部長の責任です。

組織変更を発表する際の言葉の選び方も、副作用を和らげる要素になります。「効率化のために組織を変えます」という説明だけでは、聞いた側は「自分の仕事が減らされるのではないか」という不安を抱きやすくなります。「今期、A 領域の成長を最優先にする方針に合わせて、体制を組み替えます。B 課の皆さんが積み上げてきた専門性は、新しい体制でも中核として活かします」のように、変更の理由と、変更後も引き継がれる価値の両方を伝えることで、キャリアパスへの不安を一定程度和らげられます。

組織図ドラフトの作り方

実際に組織図を描く際の手順を、5 ステップで整理します。

第 1 ステップは、現状の棚卸しです。現在の課・グループの構成、それぞれの人数と役割、指揮命令系統を書き出します。

第 2 ステップは、戦略との照合です。今期・来期の事業方針に照らして、現状の組織構造が適合しているかを検証します。

第 3 ステップは、基本形の選択です。機能別・製品別・顧客別・地域別のどれを軸にするか、あるいは組み合わせるかを決めます。

第 4 ステップは、課・グループの数と規模の設計です。前述の 3 つの目安(スパン・オブ・コントロール、業務の独立性、育成の機会)を踏まえて設計します。

第 5 ステップは、副作用の見積もりと移行計画です。情報経路、評価、キャリアパスへの影響を見積もり、いつ、どう発表し、どう移行するかの計画を立てます。

これら 5 ステップを経たドラフトは、そのまま実行するのではなく、上司や関連部署との対話を経て磨き上げます。組織図の最終決定には、多くの場合、部長単独ではなく上位者の承認が必要です。

組織図設計でよくある失敗

組織図の設計には、共通して陥りやすい失敗のパターンがあります。

第 1 の失敗は、現状追認型のドラフトです。5 ステップの「戦略との照合」を省略し、現在の組織図を微修正しただけのドラフトを作ってしまうケースです。これでは「組織は戦略に従う」という出発点に立ち返れず、単なる名称変更や小規模な人繰りに終わります。

第 2 の失敗は、理想形に寄せすぎることです。教科書的に「機能別が最適だ」と判断しても、現在の課長たちの経験や実績を無視した配置転換を伴う場合、移行そのものが破綻するリスクがあります。理想の構造と、今いる人材で実現できる構造の間で、現実的な落としどころを探る視点が欠かせません。

第 3 の失敗は、副作用の見積もりを最後まで省略することです。良い構造を思いついた高揚感から、情報経路や評価、キャリアパスへの影響を検討せずに発表してしまうと、レッスン 1 で触れた「早く成果を出したい」という焦りが裏目に出て、現場の混乱を長引かせます。

🔰 初学者の方へ 組織図のドラフトを初めて作るときは、5 ステップを一度に完璧にこなそうとせず、まず現状の棚卸しと戦略との照合だけを丁寧に行い、そこから基本形の選択に進むという順序を守ることをおすすめします。焦って最終形を先に描いてしまうと、後から根拠を後付けする形になり、周囲への説明力が弱くなります。

まとめ

このレッスンでは、以下のことを学びました。

  • 「組織は戦略に従う」という考え方に立ち、組織図は戦略の変化に応じて見直す対象として扱う
  • 組織形態の 4 基本形は機能別・製品別・顧客別・地域別で、それぞれ強みと弱みが異なる
  • 事業部制は 1920 年代の米国大企業、1933 年の日本企業(松下電器)に見られるように、組織拡大に伴う意思決定の分散という動機から生まれた
  • マトリクス構造は、部門長として「採用するかどうか」を判断する対象であり、プロジェクト側の運用は別領域
  • 課・グループの数は、スパン・オブ・コントロール、業務の独立性、育成の機会の 3 つの目安で設計する
  • 階層の増減にはトレードオフがあり、組織変更には情報経路・評価・キャリアパスへの副作用が伴う
  • 組織図ドラフトは、現状の棚卸しから副作用の見積もりまで 5 ステップで作成する

次のレッスンでは、部長が実際に持つ人事権の行使を扱います。採用の最終決裁、昇格・登用の判断軸、異動・降格という選択肢、人事権を行使する 4 原則を学びます。


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