読者を決める——コンテンツペルソナと発信テーマ
レッスン2:読者を決める——コンテンツペルソナと発信テーマ
このレッスンで学ぶこと
- 購買前の読者に限定したコンテンツペルソナを作れる
- 読者の「知りたいこと」から企画を組み立てる設計の考え方を理解する
- テーママップを作り、扱うテーマの範囲を可視化できる
- 扱わないテーマを先に決めることの効果を理解する
- 既存コンテンツの棚卸しの進め方を身につける
前のレッスンでは、オウンドメディアが広報や広告とどう違うのか、そしてコンテンツマーケティングが向く事業とはどのようなものかを整理しました。あわせて、コース全体を貫く 6 つの中核メッセージも提示しました。本レッスンでは、その 2 つ目のメッセージ、「読者を決めないと、テーマは無限に増えて破綻する」を具体的な手順に落とし込みます。誰に向けて発信するのかを決めることが、コンテンツマーケティングの最初の、そして最も重要な設計作業です。
なぜ読者を決める必要があるのか
コンテンツマーケティングを始めたばかりの編集部でよく起きるのが、テーマの発散です。最初は明確な狙いを持って始めたはずなのに、担当者が変わるたびに、あるいは会議で誰かのアイデアが採用されるたびに、扱うテーマが少しずつ広がっていきます。半年もすると、当初の狙いとは無関係な記事が並び、読者から見て「結局、何のメディアなのか分からない」状態に陥ります。
この発散を防ぐ最も効果的な方法が、読者を先に決めることです。誰に向けて書くかが明確であれば、その読者にとって価値があるかどうかという 1 つの基準で、企画の採用と却下を判断できるようになります。逆に読者が曖昧なままだと、あらゆる企画が「誰かの役には立つかもしれない」という理由で採用されてしまい、歯止めが効きません。
読者を決めずに運用を続けると、編集部の会議の質にも影響が出ます。企画会議で「これは面白そうだ」という感覚的な賛否だけが交わされ、なぜその企画を採用するのかという理由を言葉にできなくなっていきます。逆に読者が具体的に定まっていれば、企画会議は「この読者にとって役立つかどうか」という共通の物差しを持った議論に変わります。議論の質が上がるだけでなく、判断にかかる時間そのものも短くなるという効果があります。
コンテンツペルソナ——購買前の読者像
読者を具体的に描くための道具が、コンテンツペルソナです。コンテンツペルソナとは、自社の発信を読んでほしい読者を、年齢や役職といった属性だけでなく、どのような疑問や悩みを抱えているかまで含めて具体的に描いた人物像を指します。
本コースが扱うコンテンツペルソナには、明確な範囲の限定があります。それは、まだ購入や契約に至っていない、認知から検討までの段階にいる読者に絞るという限定です。すでに契約した顧客への情報提供や、契約直前の個別商談で使う資料は、コンテンツペルソナの対象には含めません。オウンドメディアが担うのは、あくまで「まだ検討中の読者との関係づくり」だからです。この範囲の限定を最初に共有しておかないと、企画会議で「契約後のサポート記事も書くべきでは」という話が混ざり込み、テーマの境界が崩れていきます。
💡 ポイント コンテンツペルソナは、営業やマーケティング全体で使う顧客像とは目的が異なります。全社的な顧客像は契約後の利用や解約防止まで視野に入れますが、本コースのコンテンツペルソナは「まだ検討している読者が、今どんな情報を探しているか」だけに焦点を絞ります。範囲を狭めることで、記事の企画判断に直接使える実用的な人物像になります。
コンテンツペルソナの作り方
コンテンツペルソナは、以下の 4 つの要素で構成すると、企画会議で実際に使える形になります。
- 基本属性:業種、役職、経験年数など、読者の立場を特定する情報
- 抱えている課題:日々の業務で困っていること、解決したいと感じていること
- 知りたいこと:課題を解決するために、今どんな情報を探しているか
- 情報を探す場面:検索するのか、同僚に相談するのか、どのタイミングで情報収集するか
年収や趣味といった、記事の企画判断に直接結びつかない属性まで細かく設定する必要はありません。作り込みすぎたペルソナは、時間をかけた割に企画会議で参照されなくなるという結果に終わりがちです。大切なのは、企画を出し合う場で「このペルソナなら、この記事を読むだろうか」と全員が同じ基準で判断できることです。
例えば、業務システムを扱う事業であれば、「現場の課題は把握しているが、システムの専門用語には詳しくない中堅企業の管理部門担当者。日々の業務で紙とファイルの管理に時間を取られており、他社がどう解決しているかを知りたいと考えている」というように、1 段落程度の文章にまとめると、企画会議で読み上げて共有しやすくなります。図表やスライドに整えることよりも、関係者全員が同じ人物像を思い浮かべられることの方が重要です。
⚠️ 注意 コンテンツペルソナは 1 つに絞る必要はありませんが、増やしすぎると発想の限定効果が薄れます。最初は 1 つか 2 つに絞り、運用しながら必要に応じて増やす進め方をおすすめします。最初から 5 つも 6 つも作ると、結局「誰にでも当てはまる」状態に逆戻りしてしまいます。
「知りたいこと」から入る設計
企画を考えるとき、多くの編集部は「何を伝えたいか」から出発しがちです。自社の強みを伝えたい、新しい取り組みを紹介したい、という発信側の都合が先に立ちます。しかし、この出発点には落とし穴があります。読者は、発信側が伝えたいことではなく、自分が知りたいことを探して記事にたどり着くからです。
本コースが推奨するのは、逆の順番です。まずコンテンツペルソナが「知りたいこと」を具体的に洗い出し、そこに自社の強みや知見をどう重ねられるかを後から考えます。読者の疑問に答える形を保ったまま、その回答の中に自社ならではの視点を織り込む、という組み立て方です。
📝 補足 「知りたいこと」を洗い出す方法はいくつかあります。営業担当者やカスタマーサポート担当者が日々受ける質問を集める、検討中の顧客との商談記録を読み返す、社内の勉強会で出た疑問をメモしておく、といった地道な方法が、遠回りに見えて最も精度の高い情報源になります。
編集部だけで頭を悩ませるより、社内の他部門が既に持っている情報を集める方が、はるかに効率的です。特に営業担当者は、検討段階の読者と直接会話をしている当事者です。月に 1 回、15 分程度でよいので「最近よく聞かれる質問」を共有してもらう場を設けるだけで、テーママップの材料は継続的に補充されていきます。
テーママップの作り方
コンテンツペルソナの「知りたいこと」が集まったら、それを整理してテーママップを作ります。テーママップとは、扱うテーマ全体を俯瞰できるように階層化した一覧図です。
テーママップは、まず大きな括りとなる「大テーマ」を 3 つから 5 つ程度定め、それぞれの下に具体的な記事の種となる「小テーマ」をぶら下げる 2 階層で作ると扱いやすくなります。この段階で、それぞれの小テーマが、読者の検討段階のどこに向けたものかを軽く割り当てておくと、後の編集カレンダーの計画がしやすくなります。
| 検討段階 | 読者の状態 | 記事の役割の例 |
|---|---|---|
| 認知 | 課題があることに気づき始めた | 課題そのものを言語化し、背景を説明する |
| 検討 | 解決策の選択肢を探している | 選択肢の種類や考え方の違いを整理する |
| 比較 | 具体的な条件で絞り込んでいる | 判断基準や確認すべき観点を提示する |
flowchart TD
T[大テーマ] --> A[小テーマ 1<br/>認知向け]
T --> B[小テーマ 2<br/>検討向け]
T --> C[小テーマ 3<br/>比較向け]
A --> A1[記事の種 1]
A --> A2[記事の種 2]
B --> B1[記事の種 3]
C --> C1[記事の種 4]
この図は、1 つの大テーマから複数の小テーマが枝わかれし、さらにそれぞれが具体的な記事の種にわかれていく構造を表しています。大テーマの数が絞られていれば、企画会議で新しいアイデアが出るたびに「どの大テーマに属するか」を確認するだけで、テーマ全体がどこまで広がっているかを常に把握できます。属する大テーマが見当たらない企画は、テーママップの対象外として扱うか、テーママップ自体を見直す判断のきっかけにします。
テーママップを作る際は、いきなり網羅的な一覧を目指す必要はありません。最初はコンテンツペルソナの「知りたいこと」を思いつく限り書き出し、似た内容をグループにまとめていく進め方が現実的です。グループが自然と 3 つから 5 つ程度にまとまったところで、それぞれに大テーマの名前を付けます。名前を先に決めてから小テーマを当てはめようとすると、無理に当てはめる作業になりがちなので、下から積み上げる順番の方がうまくいきます。
📝 補足 テーママップは、一度完成させたら固定するものではありません。読者からの反応や、営業担当者から新しく上がってくる質問をもとに、小テーマは継続的に追加されていきます。大テーマの数だけは絞ったまま維持し、小テーマの入れ替えで柔軟性を保つという運用が、境界を保ちながら発信の幅を広げるバランスの取り方です。
扱わないテーマを先に決める
テーママップを作る作業と同じくらい重要なのが、扱わないテーマを先に言語化しておくことです。多くの編集部は「扱うテーマ」だけを決めて満足してしまいますが、これでは境界があいまいなままです。境界があいまいだと、後から出てきた魅力的な企画を、断る根拠がないまま採用してしまいます。
扱わないテーマの決め方は簡単です。コンテンツペルソナの「知りたいこと」に含まれないテーマ、自社の知見が薄く責任を持って発信できないテーマ、そして本コースの守備範囲の外にあるブランドの声づくりや使いやすさの検証といった隣接領域のテーマを、企画会議の場で明文化しておきます。文章にして残しておくことで、新しいメンバーが加わったときにも、同じ基準で企画を判断できるようになります。
扱わないテーマのリストは、一度作って終わりではありません。企画会議で「これは扱うべきか」という議論が起きるたびに、その結論を追記していく生きた文書として育てていきます。数か月もすると、扱うテーマのリストよりも扱わないテーマのリストの方が、編集部の判断基準を雄弁に語るようになります。新しく加わったメンバーに編集方針を説明するときも、扱うテーマの説明だけより、扱わないテーマとその理由を合わせて伝えた方が、境界の感覚が早く身につきます。
⚠️ 注意 扱わないテーマを決める作業は、一度限りの制限ではなく継続的な調整です。事業の状況が変われば、以前は扱わないとしていたテーマが必要になることもあります。半年に 1 回程度、テーママップの見直しと合わせて扱わないテーマのリストも点検すると、形骸化を防げます。
🔰 初学者の方へ 「扱わないテーマを決めると、発信の幅が狭くなって損をするのでは」と感じるかもしれません。しかし実際には逆です。境界がないメディアは、読者から見て「何の専門性もない発信元」に映ります。扱う範囲を絞ることは、その範囲における専門性を際立たせる選択でもあります。狭く始めて後から広げることはできますが、広く始めたものを後から狭めるのは、読者の期待とのずれが生まれるため難易度が上がります。
テーマの棚卸し
コンテンツマーケティングを一定期間続けると、当初のテーママップと、実際に公開してきた記事の間にずれが生じます。定期的にこのずれを確認する作業が、テーマの棚卸しです。
棚卸しでは、これまで公開した記事を大テーマごとに分類し直し、テーママップに存在しない記事がどれだけあるかを数えます。想定外の記事が一定数を超えていたら、それは 2 つの意味を持ちます。1 つは、企画の採用基準が緩んでいるという兆候です。もう 1 つは、テーママップ自体が読者の実際の関心を反映しきれていない、という兆候でもあります。後者の場合は、テーママップ側を読者の実態に合わせて更新する判断も必要になります。棚卸しは、企画側を正すためだけでなく、設計図そのものを見直すための機会でもあります。
棚卸しの作業自体は、記事の一覧表に「該当する大テーマ」の列を追加し、1 本ずつ照らし合わせていくだけの単純な作業です。単純である分、担当者 1 人の主観に頼らず、複数人で分類の判断を持ち寄ると精度が上がります。1 人だけで進めると、その人が普段関心を持っているテーマの記事を無意識に「該当あり」と甘く判定してしまうことがあるためです。棚卸しの結果は、次の企画会議の冒頭で共有し、テーママップの更新やテーマの再配分の議題につなげます。
📖 もっと詳しく 棚卸しの頻度に決まった正解はありませんが、四半期に 1 回程度のペースで実施している編集部が多く見られます。あまり頻繁だと記事の蓄積が少なく傾向が見えにくく、逆に年に 1 回程度では、ずれに気づいたときには軌道修正の労力が大きくなりすぎます。
まとめ
このレッスンでは、読者を決めることから始まる一連の設計作業を学びました。以下に要点を整理します。
- 読者を先に決めることで、企画の採用と却下を 1 つの基準で判断できるようになる
- コンテンツペルソナは、認知から検討までの購買前の読者に限定して描く
- 企画は「伝えたいこと」ではなく、読者の「知りたいこと」から組み立てる
- テーママップは大テーマと小テーマの 2 階層で作り、検討段階への軽い割り当てを添える
- 扱わないテーマを先に言語化しておくことで、企画の境界を保てる
- 定期的なテーマの棚卸しで、テーママップと実際の記事のずれを確認する
次のレッスンでは、決めた読者とテーマを、実際にどう記事として世に出していくかという編集体制と編集カレンダーの設計に入ります。企画会議の回し方から公開までの流れまで、本コースの中でも特に重点を置いて扱う領域です。
確認クイズ
このレッスンの理解度をチェックしましょう。