効果測定と PDCA——数字を次の企画につなぐ
レッスン7:効果測定と PDCA——数字を次の企画につなぐ
このレッスンで学ぶこと
- コンテンツ単位で KPI を設計する考え方を理解する
- 「読まれた」が持つ到達・滞在・行動という 3 つの意味を区別できる
- 記事の棚卸しとリライトの判断基準を身につける
- 営業側の指標との接続点を理解する
- 数字を次の企画につなげる PDCA の回し方を身につける
前のレッスンでは、メルマガの設計と運用を、オプトインの原則から配信頻度の調整まで学びました。ここまでのレッスンで、記事・SNS ・メルマガという 3 つのチャネルの作り方と回し方が一通りそろいました。本レッスンでは、その発信がどう読まれているかを数字で捉え、次の企画に活かす方法を扱います。中核メッセージの 5 番目、「数字は順位づけのためではなく、次の企画を決めるために見る」を、具体的な手順に落とし込んでいきます。
編集の現場では、数字を見ることに苦手意識を持つ担当者が少なくありません。文章を書くことと数字を分析することは、必要とされる感覚が違うように感じられるためです。しかし、本レッスンで扱う数字の見方は、専門的な分析の技術を必要とするものではありません。どこで読者が離れているかを大づかみに把握し、次にどこを直すかを決めるための、実務的な確認作業です。難しく捉えすぎず、企画会議の一部として無理なく組み込める形を目指します。
コンテンツ単位で KPI を設計する
KPI とは、目標の達成度合いを測るための指標を指します。コンテンツマーケティングにおける KPI は、コース全体の総括的な数字だけでなく、記事 1 本ごと、企画テーマごとに設定することで、初めて次の企画判断に役立つ情報になります。
コンテンツ単位の KPI を設計する際は、まずレッスン 2 で決めたコンテンツペルソナと、記事が向けられている検討段階を思い出してください。認知段階に向けた記事であれば、多くの読者に届いたかどうかを重視する指標が適し、比較段階に向けた記事であれば、少数であっても深く読み込まれたかどうかを重視する指標が適します。すべての記事に同じ物差しを当てはめると、記事ごとの役割の違いが見えなくなってしまいます。
💡 ポイント KPI を設計する目的は、記事同士を比較して順位をつけることではありません。ある記事が期待した役割を果たせているかどうかを確認し、果たせていなければ次にどう手を打つかを考えるための材料として使います。数字を見る目的をこの一点に絞っておくと、数字に振り回されにくくなります。
指標の数を増やしすぎないことも、コンテンツ単位の KPI 設計では重要です。到達、滞在、行動に加えて、共有された回数や登録につながった数など、測定できる数字は探せばいくらでも増やせます。しかし、確認する指標が多すぎると、毎回の振り返りに時間がかかりすぎ、結局は形骸化してしまいます。記事の役割ごとに、最も重視すべき指標を 1 つか 2 つに絞り、それ以外は必要に応じて掘り下げる程度にとどめておくと、無理なく継続できます。
「読まれた」の 3 つの意味
「この記事はよく読まれた」という一言には、実は複数の異なる意味が含まれています。本コースでは、これを到達・滞在・行動という 3 つの意味に分けて捉えます。
- 到達:どれだけ多くの読者が記事にたどり着いたか。閲覧数や訪問者数として表れる
- 滞在:たどり着いた読者が、どれだけ内容を読み込んだか。滞在時間やページの読了状況として表れる
- 行動:記事を読んだ読者が、その後どんな行動を取ったか。資料請求やメルマガ登録、問い合わせといった具体的な動きとして表れる
到達だけを見ていると、多くの人の目に触れたものの内容がほとんど読まれていない記事を「成功」と誤認してしまうことがあります。逆に行動だけを見ていると、到達が少なく、そもそも十分な機会を得られていない記事の問題を見落とすことがあります。3 つの意味をそれぞれ別の指標として確認することで、記事のどこに課題があるのかを具体的に特定できます。
flowchart LR
A[到達<br/>見つけてもらえたか] --> B[滞在<br/>読み込まれたか]
B --> C[行動<br/>次の動きにつながったか]
この図は、読者が記事に触れてから行動に至るまでの 3 段階を表しています。ある記事の到達は十分でも滞在が短ければ、見出しやリード文と本文の内容にずれがある可能性を疑います。滞在は十分でも行動につながっていなければ、記事の終盤に次の一歩を示す案内が足りていない可能性を疑います。このように、3 段階のどこで数字が落ち込んでいるかを見ることで、次に何を直すべきかが具体的に見えてきます。
📝 補足 到達・滞在・行動のすべてを毎回細かく分析する必要はありません。日常的な運用では到達と行動を中心に確認し、思うような結果が出ていない記事に絞って滞在の状況まで掘り下げる、という濃淡のつけ方が現実的です。
3 つの意味を区別する習慣は、企画会議での会話の質にも影響します。「この記事は読まれていない」という一言だけでは、到達が少ないのか、来てはいるが読み込まれていないのか、読み込まれてはいるが次の行動につながっていないのかがわかりません。会議の場で「到達は十分だが行動が少ない」というように具体的に言葉にする習慣を作ることで、次に打つ手も自然と具体的になっていきます。
検索からの流入という到達の経路は、時間をかけて積み上がっていく性質を持ちます。公開してすぐの記事より、半年、1 年と経過した記事の方が、検索を通じた到達が伸びていることも珍しくありません。到達の数字を見る際は、公開からの経過期間が異なる記事同士を単純に比較せず、同じくらいの経過期間にある記事同士で比べるようにすると、より正確な判断につながります。
記事の棚卸しとリライトの判断
記事は公開して終わりではありません。時間が経つと、内容が古くなったり、読者の関心とのずれが生じたりします。定期的に記事全体を見直し、書き直すべき記事を判断する作業が、記事の棚卸しとリライトです。
棚卸しでは、公開済みの記事を一覧にし、それぞれの到達・滞在・行動の状況を確認します。その上で、以下のような観点でリライトの要否を判断します。
- 内容が古くなっていないか:制度や実務の状況が変わり、記載内容が実態と合わなくなっていないか
- 到達はあるが行動につながっていないか:読者は来ているのに、次の一歩を示せていない記事ではないか
- テーママップの重要な位置にあるか:小テーマの中核にあたる記事で、今のコンテンツペルソナに古い記述が残っていないか
すべての記事をリライトする必要はありません。到達も行動も少なく、テーママップ上の重要性も低い記事は、無理にリライトするより、新しい記事に力を注いだ方が効果的なこともあります。限られた時間の中で、どの記事に手を入れるかを選ぶこと自体が、棚卸しの重要な役割です。
⚠️ 注意 リライトは、文章を書き直すだけの作業ではありません。公開後にどう読まれたかという実績を踏まえて手を入れる分、最初の執筆よりも精度の高い記事に仕上げられる機会でもあります。単なる誤字修正で終わらせず、見出しや構成そのものを見直す視点を持って取り組んでください。
リライトを編集カレンダーに載せる際は、新しい記事の企画と同じレーンで管理します。リライトは公開済みの記事に手を入れるため、つい優先順位が下がりがちですが、すでに一定の到達がある記事を改善する方が、ゼロから新しい記事を育てるより短い期間で成果につながることも少なくありません。新規の企画とリライトの企画を、同じテーブルの上で比較しながら優先順位を決める運用が、限られた制作時間を有効に使う工夫になります。
営業側の指標との接続点
オウンドメディアの成果は、記事単体の数字だけで完結するものではありません。最終的には、検討段階にいた読者が、問い合わせや商談といった営業側の動きにどうつながったかを確認することも重要です。
営業側の指標との接続点を作るには、記事や資料請求のフォームから、どの記事をきっかけに問い合わせに至ったかを追える仕組みが必要です。完全に自動化された仕組みがなくても、問い合わせのきっかけを尋ねる項目をフォームに設けたり、営業担当者が商談の最初に「何をきっかけに知ったか」を確認したりするだけでも、大まかな傾向はつかめます。
🔰 初学者の方へ 編集部と営業部門が定期的に情報を交換する場を持つことも、接続点を作る有効な方法です。営業担当者が商談で受ける質問を編集部にフィードバックし、編集部が公開した記事を営業担当者が商談で活用する、という双方向のやり取りが習慣になると、記事の成果が数字だけでなく現場の実感としても共有されるようになります。
営業側の指標との接続点を作る際に注意したいのは、コンテンツマーケティングの成果を、問い合わせの件数だけで評価しようとしないことです。検討段階の早い読者に向けた記事は、その場で問い合わせにつながることは少なく、数か月後の検討の後押しとして効いてくることもあります。営業側の指標は、あくまで発信全体が正しい方向に向かっているかを確認する参考情報として位置づけ、記事単体の成果はレッスンの前半で扱った到達・滞在・行動を中心に見る、という役割分担を意識してください。
数字を次の企画につなげる PDCA
これまで見てきた数字は、それ自体が目的ではありません。数字を確認したら、次にどんな企画を行うかという判断につなげて初めて意味を持ちます。この一連の流れを、計画・実行・確認・改善という 4 つの段階で回すことを PDCA と呼びます。
コンテンツマーケティングにおける PDCA は、テーママップと編集カレンダーに直接結びつけて運用すると効果的です。到達が伸びなかった小テーマがあれば、テーママップ上でのその小テーマの優先度を見直します。行動にはつながったが到達が少なかった記事があれば、同じテーマをより多くの読者に届く切り口で作り直す企画を、次の企画会議の議題にします。数字の確認から次の企画への反映までを、企画会議という 1 つの場で完結させることで、数字を見る作業と企画を考える作業が分断されずに済みます。
📖 もっと詳しく PDCA を機能させるには、確認の周期を決めておくことが重要です。毎日数字を追いかけても、日々の変動に振り回されるだけで、企画に落とし込む余裕が生まれません。月に 1 回程度、企画会議の冒頭で前月の数字をまとめて振り返る周期が、多くの編集部にとって扱いやすい頻度です。
PDCA を継続する上で見落とされがちなのが、改善した結果を確認する段階です。数字を見て仮説を立て、記事をリライトしたり企画を変えたりしたあと、その結果がどうなったかを追いかけずに次の企画に進んでしまう編集部は少なくありません。改善を実施した記事や企画には印をつけておき、次の振り返りのタイミングで必ず結果を確認する運用にしておくと、仮説が正しかったかどうかを積み重ねて学習でき、次の判断の精度が徐々に上がっていきます。
講師の現場メモ:4 つの発信窓口を 1 つに集約した経験
私(稲垣)が住宅設備メーカーの広報宣伝部にいた頃、数字を見ようとするたびに壁にぶつかっていました。当時、社外向けの発信は、広報部が担当するお知らせ、製品部が担当する製品情報、お客様相談室が担当するよくある質問、採用担当が担当する採用向けの発信という、4 つの窓口にばらばらにわかれていました。それぞれが別々のページや別々の配信の仕組みを使って発信しており、全体としてどれだけの記事が公開され、どれだけ読まれているのかを、誰も正確に把握できていませんでした。
数字を集めようとすると、4 つの部署にそれぞれ問い合わせ、手作業で数字を突き合わせる必要がありました。集計だけで数日かかり、集計が終わる頃には、次の企画会議の議題を考える時間がほとんど残っていませんでした。何より深刻だったのは、同じテーマの記事を複数の部署が知らずに別々に作ってしまい、読者から見ると同じような内容が別のページに重複して存在するという状態が続いていたことです。
この状態を変えるために、まず取り組んだのが、4 つの窓口を編集部という 1 つの体制に集約することでした。各部署の担当者に、これまで発信してきた内容とその狙いをヒアリングし、テーママップの中にそれぞれの役割を位置づけ直しました。窓口を統合した直後は、それぞれの部署から「自分たちの発信が編集部に取られるのでは」という警戒の声も上がりました。ここで効いたのが、各部署の担当者に企画会議へ定期的に参加してもらい、自分たちのテーマがどう読まれているかを一緒に確認する場を作ったことです。数字を編集部だけで抱え込むのではなく、関係者全員で見る場にしたことで、警戒は徐々に協力へと変わっていきました。
特にお客様相談室との連携は、想像以上に大きな発見につながりました。相談室が日々受けている質問の内容には、読者が本当に知りたいと感じている疑問がそのままの形で蓄積されていました。これはレッスン 2 で扱った「知りたいことから入る設計」の、最も豊かな情報源の 1 つでした。窓口がわかれていた頃は、この情報が編集部にほとんど共有されておらず、宝の持ち腐れになっていたのです。統合後は、相談室でよく聞かれる質問を毎月のテーマ候補として編集部に共有してもらう流れを作り、テーママップの精度が目に見えて上がっていきました。
窓口を集約してから半年ほどで、月ごとの到達と行動の数字を、初めて 1 つの表で見られるようになりました。重複していた記事が整理され、テーママップに空いていた領域が見えるようになり、企画会議はようやく「次に何を作るか」を建設的に議論できる場になりました。数字は、集める仕組みが整って初めて、次の企画につながる道具になるのだと、この経験を通じて実感しました。
振り返って思うのは、窓口を統合する作業そのものよりも、統合後に数字を「編集部が独占する情報」にしなかったことの方が、長い目で見て効いたということです。もし数字を編集部だけで抱え込んでいたら、各部署の協力は得られないまま、統合は形だけのものに終わっていたはずです。数字を、判断のための共通言語として関係者全員に開いたことが、属人化していた 4 つの発信を、1 つの続く仕組みに変える転換点でした。
まとめ
このレッスンでは、以下のことを学びました。
- KPI はコンテンツ単位で設計し、記事が向けられた検討段階に応じて重視する指標を変える
- 「読まれた」には到達・滞在・行動という 3 つの異なる意味があり、区別して確認することで課題を特定できる
- 記事の棚卸しでは、内容の古さ、到達と行動のずれ、テーママップ上の重要性を基準にリライトの要否を判断する
- 営業側の指標との接続点は、問い合わせのきっかけを尋ねる仕組みや、編集部と営業部門の情報交換によって作る
- 数字の確認は、企画会議に結びつけて周期的に行い、次の企画への反映まで一連の流れとして運用する
次のレッスンでは、コース全体のまとめとして、属人化を防ぐ組織づくりと、生成 AI 時代の編集のあり方を扱います。
確認クイズ
このレッスンの理解度をチェックしましょう。