効果測定と、続ける体制
レッスン8:効果測定と、続ける体制
このレッスンで学ぶこと
- 社内広報の効果を、届いたか・読まれたか・動いたかという 3 層で捉える発想を理解する
- 閲覧数だけを追わない理由と、定性的な指標との組み合わせ方を扱う
- 人事・経営企画との連携と、年間発信計画の立て方を理解する
- 生成 AI の使いどころと、修了後の学習方向を確認する
前回のレッスンでは、社内 SNS とナレッジ共有の文化を扱いました。最終レッスンとなる今回は、これまで扱ってきたすべての発信と対話の取り組みを、どう測定し、どう続けていくかを扱います。
社内広報の指標をどう考えるか
社内広報の効果を測るとき、多くの担当者がまず思い浮かべるのは、社内報の閲覧数や、社内ポータルへのアクセス数といった数値です。これらは重要な手がかりですが、それだけでは効果の全体像を捉えきれません。
本コースでは、社内広報の効果を、次の 3 つの層で捉える発想を提案します。
第 1 層:届いたか
発信した情報が、対象となる社員のもとに物理的・情報的に届いたかどうかです。閲覧数、開封率、参加人数といった数値が、この層の手がかりになります。
第 2 層:読まれたか
届いた情報が、実際に読まれ、内容が理解されたかどうかです。ページの滞在時間や、最後まで読まれた割合、あるいは社員へのヒアリングでの理解度の確認などが、この層を把握する手がかりになります。
第 3 層:動いたか
理解された情報が、社員の行動や意識の変化につながったかどうかです。これは 3 層の中でもっとも把握が難しく、数値だけでは測りきれない層です。行動の変化や、対話の中で出てくる社員の言葉の変化などから、間接的に読み取っていくことになります。
💡 ポイント 多くの会社が、第 1 層の「届いたか」までしか測っていません。しかし本コースの中核メッセージである「伝えたことと、伝わったことは違う」を体現するには、第 2 層、第 3 層まで意識を広げる必要があります。すべてを厳密に数値化できなくても、3 層があるという発想を持つだけで、測定の視野が広がります。
⚠️ 注意 社内広報の効果測定について、確立した業界標準の指標体系というものは存在しません。会社の規模や文化によって、何を測るべきかは変わります。本コースでは、特定の指標の枠組みを唯一の正解として示すのではなく、届いたか・読まれたか・動いたかという 3 層で考える発想そのものを持ち帰っていただきたいと思います。
3 層の関係を図にすると、次のようになります。
flowchart LR
A[発信する] --> B[届いたか<br/>閲覧数・参加人数]
B --> C[読まれたか<br/>滞在時間・理解度]
C --> D[動いたか<br/>行動や意識の変化]
図 1:社内広報の効果を捉える 3 層の関係。層が進むほど測定は難しくなりますが、発信の本来の目的に近づいていきます。数値で測りやすい層だけに頼らず、3 層すべてを意識することが、効果測定の出発点です。
閲覧数だけを追わない理由
閲覧数は、もっとも測定しやすい指標であるがゆえに、社内広報の評価の中心に置かれがちです。しかし、閲覧数だけを追うことには、いくつかの落とし穴があります。
第 1 に、閲覧数は「読まれたか」「動いたか」までは保証しません。ページを開いた記録は残っても、実際に最後まで読んだか、内容を理解したかはわかりません。
第 2 に、閲覧数を追い求めすぎると、発信の中身が閲覧数を稼ぎやすい内容に偏っていく危険があります。話題性のある企画ばかりが増え、地道だが重要な発信が後回しにされる、という本末転倒が起こり得ます。
第 3 に、閲覧数は、発信の努力と必ずしも比例しません。丁寧に作り込んだ企画が閲覧数を伸ばさない一方、軽い話題が思いがけず多く読まれることもあります。閲覧数の増減だけで、担当者の努力や企画の価値を評価してしまうと、正しい評価にならないことがあります。
🔰 初学者の方へ 閲覧数を測ること自体は否定されるものではありません。問題は、閲覧数「だけ」を唯一の物差しにしてしまうことです。ほかの指標と組み合わせて、多面的に効果を捉える姿勢が大切です。
定性的な指標との組み合わせ
数値だけでは捉えきれない部分を補うのが、定性的な指標です。
対話の量と質
タウンホールでの質問の数、社内 SNS への書き込みの数だけでなく、その内容がどれだけ具体的で、踏み込んだものかという質にも注目します。表面的な質問ばかりであれば、社員がまだ本音を話せる関係になっていない可能性があります。
行動の変化
トップメッセージで示した方針に沿った行動が、現場でどれだけ見られるようになったか。管理職からのヒアリングや、日々の業務の中でのエピソードから、間接的にではありますが読み取ることができます。
社員の言葉の変化
社内報のインタビューや、タウンホールでの発言、サーベイの自由記述欄などに表れる、社員の言葉そのものの変化も、重要な手がかりです。以前は他人事のような言葉づかいだった話題が、自分ごととして語られるようになれば、それは発信が伝わっている 1 つのサインです。
📝 補足 定性的な指標は、数値のように一目で比較できるものではありません。だからこそ、担当者が継続的に社員の声に触れ、変化を感じ取る感覚を養っておくことが重要になります。
定量的な指標と定性的な指標は、どちらか一方で足りるものではなく、補い合う関係にあります。
| 指標の種類 | 得意なこと | 苦手なこと |
|---|---|---|
| 定量的な指標(閲覧数など) | 傾向の変化を素早く把握できる | 理解度や行動の変化まではわからない |
| 定性的な指標(対話の質など) | 理解度や行動の変化を具体的に把握できる | 数値のように一目で比較できない |
表 1:定量的な指標と定性的な指標の特徴。片方だけに頼らず、両方を組み合わせて多面的に効果を捉えることが実務的です。
人事・経営企画との連携
社内広報の効果測定は、広報単独で完結するものではありません。人事や経営企画と連携することで、より立体的に社内の状態を把握できます。
人事が実施するサーベイの結果は、レッスン 6 で扱ったとおり、社内広報の取り組みの効果を映す鏡の 1 つになり得ます。経営企画が把握している事業の進捗や、現場からの意見の集約状況も、発信が実際に届いているかを判断する材料になります。それぞれの部署が個別に情報を集めていると、同じような調査や確認が重複し、社員の負担が増えてしまいます。定期的に情報を共有する場を持ち、指標や調査を重複させないようにする調整が、実務上重要です。
⚠️ 注意 連携を強めすぎて、広報が人事や経営企画の下請けのような立場になってしまうと、発信の経路設計という広報本来の役割が薄れてしまいます。連携と役割の独立性は、両立させる意識が必要です。
年間発信計画の立て方
社内広報の取り組みを、その場その場の思いつきではなく、年間を通じた計画として組み立てることで、抜け漏れや偏りを防げます。
定例と単発のバランス
月次のトップメッセージ、四半期ごとのタウンホールのように、定例で行う発信と、特定のタイミングでのみ行う単発の発信を組み合わせて年間計画を組みます。定例の発信が骨組みとなり、単発の発信がその年ならではの話題を補う、という関係です。
繁忙期への配慮
決算期や、大きなイベントが重なる時期は、社員が発信に注意を割く余裕が少なくなります。こうした繁忙期には発信の量を抑え、余裕のある時期に厚めに発信するなど、社員の状況に応じた調整も年間計画に組み込みます。
他部署の予定との調整
前述した人事・経営企画との連携を踏まえ、それぞれの部署が予定している発信やイベントを年間計画にあらかじめ組み込んでおくと、直前になって発信が重なる事態を防げます。
📖 もっと詳しく 年間計画は、一度作って終わりではなく、四半期ごとなど、定期的に見直す前提で運用します。事業環境や組織の状況は年間を通じて変化するため、計画に固執しすぎず、必要に応じて調整する柔軟さも重要です。
年間発信計画のイメージを、四半期単位で整理した例を示します。
| 時期 | 定例の発信 | この時期ならではの単発の企画 |
|---|---|---|
| 第 1 四半期 | 月次のトップメッセージ、タウンホール | 年度方針の翻訳企画、新入社員紹介 |
| 第 2 四半期 | 月次のトップメッセージ、タウンホール | サーベイ結果の共有と対話の場 |
| 第 3 四半期 | 月次のトップメッセージ、タウンホール | 上半期の振り返り企画 |
| 第 4 四半期 | 月次のトップメッセージ、タウンホール | 決算期に合わせた発信量の調整、次年度への橋渡し企画 |
表 2:年間発信計画のイメージ。定例の発信を骨組みとして年間を通じて維持しつつ、四半期ごとに単発の企画を組み合わせる構成です。実際の時期や内容は、会社の決算期や事業年度に合わせて調整します。
生成 AI をどこまで使うか
近年、文章の下書きや要約を作る場面で、生成 AI を活用する会社が増えています。社内広報の実務でも、活用できる場面は少なくありません。
生成 AI が役立つ場面としては、長い会議の議事録から要点をまとめる作業、複数の資料から社内報の下書きを作る作業、同じ内容を異なるチャネル向けに書き分ける作業などが挙げられます。人間が一から作業するよりも、短い時間で下書きにたどり着けることは、大きな利点です。
一方で、注意すべき点もあります。第 1 に、生成 AI が作った文章をそのまま発信することは避け、必ず人間が内容を確認します。事実と異なる内容が含まれていないか、経営者や現場の実態と乖離した表現になっていないかは、人間の目でしか判断できません。第 2 に、レッスン 2 で扱った「経営者の人柄と合った言葉づかい」のような、書き手の個性が問われる部分は、生成 AI に任せきりにすると失われがちです。下書きの効率化には使いつつ、最後の仕上げは人間が担うという役割分担が実務的です。
⚠️ 注意 生成 AI の活用範囲は、会社ごとの情報管理の方針によっても異なります。社内の機密情報や、公開前の経営情報を外部のサービスに入力してよいかどうかは、あらかじめ会社のルールを確認した上で判断する必要があります。
例えば、あるタウンホールの内容を、社内報向けの要約記事、社内ポータルに掲載する議事メモ、部門ごとの補足説明という 3 つの異なる形に書き分ける必要がある場面を考えてみます。すべてを一から手作業で書き分けると時間がかかりますが、まず生成 AI に大まかな書き分けの下書きを作らせ、そこから担当者が事実確認と表現の調整を加えるという進め方であれば、作業時間を大きく短縮できます。重要なのは、生成 AI を「執筆者」ではなく「下書きを速く作る道具」として位置づけ、最終的な言葉の責任は人間が持つという線引きを崩さないことです。
本コースのまとめ
本コースでは、レッスン 1 でインターナルコミュニケーションの全体像と、コースを貫く 6 個の中核メッセージを確認しました。レッスン 2 で経営の言葉を翻訳するトップメッセージの設計、レッスン 3 で社内報・社内メディアの編集設計、レッスン 4 で社内ポータルの情報設計という、発信の型を扱いました。レッスン 5 で全社集会・タウンホールの設計、レッスン 6 でサーベイ結果を対話に変える技術という、対話の設計を扱いました。レッスン 7 で社内 SNS とナレッジ共有の文化を扱い、本レッスンで効果測定と続ける体制を扱いました。
8 つのレッスンを通じて一貫していたのは、発信の量を増やすことではなく、受け取る側の経路を設計するという視点です。経営の言葉をどう翻訳するか、社内報や社内ポータルをどう構造化するか、対話の場をどう設計するか、聞いた声にどう応えるか、そして効果をどう測り続けるか——これらはすべて、「伝えたことと、伝わったことは違う」という出発点に立ち返る作業です。
💡 ポイント 本コースを通じて繰り返し取り上げた 6 個の中核メッセージを、最後にもう一度振り返ります。伝えたことと伝わったことは違う。経営の言葉は翻訳が要る。チャネルを増やすほど届かなくなることがある。社内報は会社を語り直す場である。聞いたのに返さないのが、いちばん信頼を損なう。測れないものは続かない、社内広報にも指標が要る。この 6 つは、それぞれ独立した教訓ではなく、互いにつながり合った一続きの発想です。
修了後の学習方向
本コースを修了した後、さらに学びを広げたい方に、いくつかの方向を案内します。
社内の制度や組織開発により深く関わりたい方は、人材マネジメントや組織開発に関する分野を学ぶと、本コースで扱った発信の技術と、制度設計の知識を組み合わせられるようになります。経営の意思決定プロセスや、中期的な事業計画の立案に関わりたい方は、経営企画に関する分野を学ぶことで、翻訳の元となる「中身」を作る側の視点を得られます。文章や編集の技術そのものをさらに深めたい方は、ライティングや編集に関する分野を学ぶと、社内報や経営メッセージの原稿の質を高める土台になります。社外への発信にも関心が広がった方は、報道機関への発信や、投資家向けの発信に関する分野もあわせて視野に入るでしょう。
🔰 初学者の方へ どの方向に進むにしても、本コースで扱った「伝わって、動いたかどうかで測る」という発想は、応用の利く土台になります。焦らず、自分の会社や立場に合った領域から、少しずつ学びを広げていってください。
いずれの方向に進むとしても、共通して大切なのは、発信を「作って終わり」にせず、届いた後の反応を確かめ、次の発信に反映させ続ける姿勢です。本コースで扱った技術や型は、あくまで出発点であり、それぞれの会社の文化や規模、社員の性質に合わせて、少しずつ調整しながら使いこなしていくものです。
社内コミュニケーションは、一度仕組みを整えたら終わるものではありません。組織は変化し続け、社員も入れ替わっていきます。だからこそ、発信と対話の経路を、継続的に見直し、育て続ける姿勢そのものが、この仕事の本質だと言えます。本コースで扱った発想と技術を、それぞれの現場で少しずつ形にしていっていただければと思います。
まとめ
このレッスンでは、以下のことを学びました。
- 社内広報の効果は、届いたか・読まれたか・動いたかという 3 層で捉える
- 閲覧数だけを追うと、発信の中身が偏ったり、正しい評価にならなかったりする危険がある
- 定性的な指標として、対話の量と質、行動の変化、社員の言葉の変化に注目する
- 人事・経営企画と連携し、指標や調査の重複を防ぐ
- 年間発信計画は、定例と単発のバランス、繁忙期への配慮、他部署との調整を組み込んで立てる
- 生成 AI は下書きや要約の効率化に活用しつつ、最終確認と仕上げは人間が担う
本コースは、これで全 8 レッスンを終えます。ここまで学んだトップメッセージの翻訳、社内報・社内ポータルの設計、タウンホールとサーベイ結果の対話、社内 SNS の文化、効果測定という一連の技術を、それぞれの現場で少しずつ実践していっていただければと思います。
確認クイズ
このレッスンの理解度をチェックしましょう。