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スキルアップカレッジ

人を写す・名前を使う——肖像権とパブリシティ権

レッスン5:人を写す・名前を使う——肖像権とパブリシティ権

このレッスンで学ぶこと

  • 肖像権とパブリシティ権の違いを理解する
  • 社員を撮影して社内報や採用ページに掲載する際の同意の取り方を身につける
  • イベントでの参加者の写り込みや、顧客の声を紹介する際の許諾の考え方を理解する
  • 同意書に盛り込むべき項目を把握する

レッスン2〜4では、素材やツールを「使う」実務を扱いました。ここからは、視点を変えて「人」に関わる知的財産、正確には知的財産そのものではないものの、業務で切り離せない関連の深い権利である、肖像権とパブリシティ権を扱います。写真や動画に「人」が写る場面は、資料作成でもSNS投稿でも非常に多く、業務のあらゆる場所に潜んでいます。

肖像権とパブリシティ権の違い

肖像権とパブリシティ権は、どちらも「人の姿や名前」に関する権利ですが、性質が異なります。

肖像権 自分の容姿を、承諾なく撮影されたり、公表されたりしない権利です。誰もが持つ人格的な権利であり、有名かどうかは関係ありません。一般の社員であっても、顧客であっても、街を歩く一般の人であっても、等しく肖像権を持ちます。

パブリシティ権 氏名や肖像が持つ、顧客を惹きつける経済的な価値を、本人が独占的にコントロールする権利です。有名な人物の氏名や写真には、商品の販売促進などに活用できる「顧客吸引力」が備わっており、その経済的価値を無断で利用されない権利として、判例の積み重ねによって認められてきました。日本の最高裁判所は、著名な芸能人グループが写真集の無断使用を訴えた事案において、この権利を明確に認める判断を示しています。

この2つの違いを整理すると、肖像権はすべての人が持つ「知られたくない権利」、パブリシティ権は主に著名人が持つ「経済的価値を守る権利」と理解できます。ただし、一般の社員であっても肖像権は当然に持っているため、「有名人ではないから権利を気にしなくてよい」という考え方は誤りです。

💡 ポイント 一般の社員の写真を使う場面では肖像権、著名人の名前や画像を資料に使う場面ではパブリシティ権を意識する、という使い分けが実務的です。両方が同時に関わる場面もあります。

社員を撮影して社内報や採用ページに載せるときの同意の取り方

社員の写真を社内報や採用ページに掲載する場面は、業務の中で頻繁に発生します。ここでの基本は、「撮影の同意」と「掲載の同意」を分けて考えることです。

撮影そのものに同意していても、その写真がどこに、どんな目的で使われるかまで、本人が理解して同意しているとは限りません。「社内報に載せるつもりで撮影したが、後から採用ページにも転用した」という場面では、当初の同意の範囲を超えている可能性があります。

同意を取る際に確認しておきたい項目を整理します。

  • 撮影する目的(社内報、採用ページ、SNS、外部への提出資料など)
  • 掲載する媒体(社内限定か、社外にも公開されるか)
  • 掲載する期間(いつまで使用する予定か)
  • 改変の有無(トリミングや加工を行うか)
  • 同意を撤回したい場合の連絡先

これらを毎回、詳細な書面で取り交わすのは現実的でない場合もありますが、少なくとも「どこで、どんな目的で使うか」を口頭または簡単な書面で伝え、本人が納得したうえで撮影に応じてもらうという手順は、どんな組織でも実践できます。

🔰 初学者の方へ 「撮影に応じてくれたのだから、掲載にも同意している」と決めつけないことが大切です。撮影の場では断りにくい雰囲気が生まれることもあります。掲載直前にもう一度、本人に確認を取る一手間が、後のトラブルを防ぎます。

退職後も使い続けてよいか

在職中に撮影した写真を、その社員が退職した後も使い続けてよいかという問題は、実務でよく直面する論点です。

採用ページに掲載していた在職中の社員インタビューが、退職後もそのまま公開され続けているケースは少なくありません。本人が退職後に「もう自分の写真を使わないでほしい」と申し出た場合、会社側には掲載を止める対応が求められます。

この問題を避けるためには、次のような運用が考えられます。

  • 社員が退職する際のチェックリストに、「使用中の写真・インタビューの取り扱い」の項目を含める
  • 退職者の写真は、原則として一定期間内(例えば退職から一定の周期での見直し時)に削除・差し替えを検討する運用にする
  • 撮影時の同意の段階で、「在職中に限る」のか「退職後も一定期間使用する」のかを明確にしておく

これらの運用は、法律で一律に定められた期間があるわけではなく、組織ごとに現実的なルールを設計する領域です。重要なのは、「一度掲載したら永久にそのまま」という前提を持たず、退職という節目で見直す機会を組み込んでおくことです。

イベント・セミナーでの参加者の写り込み

社内外のイベントやセミナーを撮影する際、意図した被写体以外の参加者が写り込むことがあります。この写り込みへの対応も、実務でよく問題になる場面です。

一般的な考え方として、次のような整理がされています。

  • 会場の入口に「撮影を行い、写真を広報等に使用する場合があります」といった掲示をしておく方法
  • 参加登録の際に、撮影・利用に関する同意事項を含めておく方法
  • 特定の個人が大きく写っている写真(集合写真の一部を切り出して個人を強調するなど)は、より慎重な扱いをする
  • 遠景で、個人が判別しにくい規模の集合写真は、比較的リスクが低いとされる傾向がある

ただし、これらは「絶対に問題にならない」という保証ではありません。写り込みへの感覚は、時代とともに敏感になってきており、以前は問題にならなかった撮影が、今は事前の周知を求められるようになっています。イベントを主催する立場であれば、事前の掲示や同意取得を、標準的な準備項目として組み込んでおくことをすすめます。

⚠️ 注意 「大勢が写っている集合写真だから問題ない」という判断は、写真の使い方次第で成り立たなくなります。集合写真の一部をトリミングして、特定の参加者を目立つ形で広告に使うといった転用は、当初の想定を超えた利用になりえます。

顧客の声・導入事例で会社名や担当者名を出すときの許諾

BtoBの営業資料やWebサイトでよく使われる「導入事例」「お客様の声」というコンテンツにも、肖像権とパブリシティ権に近い配慮が必要です。取引先の会社名、担当者の氏名や写真、発言内容を掲載する場合、当然ながら相手方の許諾が必要です。

許諾を取る際に確認しておきたいポイントを整理します。

  • 会社名の掲載可否(部門名や担当者の役職まで含めてよいか)
  • 担当者の氏名・写真の掲載可否
  • 発言内容の文言について、事前に確認・修正の機会を設けるか
  • 掲載期間(契約終了後も掲載し続けてよいか)
  • 掲載を取り下げたい場合の連絡方法

特に注意したいのは、取引が終了した後の扱いです。契約が終了した取引先の事例を、許諾を得ないままWebサイトに掲載し続けると、関係が変化した後に「もう掲載をやめてほしい」という要望につながることがあります。事例を掲載する契約や合意の中に、取引終了後の扱いについても明記しておくと、後のトラブルを避けやすくなります。

SNS投稿で気をつけること

会社の公式SNSアカウントや、社員個人のSNS投稿でも、肖像権とパブリシティ権への配慮が必要です。SNSは公開範囲が広く、拡散のスピードも速いため、通常の資料作成以上に慎重さが求められます。

  • 社内イベントの様子を投稿する際、写っている社員全員に事前の確認を取っているか
  • 取引先の担当者が写り込んだ写真を、許諾なく投稿していないか
  • 著名人が来訪したイベントの様子を、本人や事務所の許諾なく投稿していないか
  • 投稿後に本人から削除の要望があった場合、速やかに対応できる体制があるか

SNSは一度公開されると、たとえ投稿を削除しても、閲覧した人によって画像が保存・再共有されている可能性があります。「後で消せばよい」という前提ではなく、「公開する前に確認する」という原則を徹底することが、SNS運用における基本姿勢です。

著名人の名前を資料に出す場合

社内資料や提案書の中で、著名人の名前や実績を引き合いに出す場面があります。「〇〇氏も推薦する製品です」といった表現や、著名人の写真を無断で資料に貼り付けるといった行為は、パブリシティ権の観点でリスクがあります。

著名人の顧客吸引力を利用して、自社の製品やサービスの魅力を高めようとする行為は、まさにパブリシティ権が保護しようとしている利益に触れる可能性が高い場面です。実際に契約関係のある著名人を起用する場合は、契約の範囲内での利用にとどめ、契約のない著名人の名前や写真を、宣伝目的で無断使用することは避ける必要があります。

一方、単なる事実の紹介(「〇〇氏が公の場で発言した内容を、報道された事実として紹介する」など)であれば、宣伝目的での利用とは性質が異なる場合もあります。ただし、この線引きは状況によって結論が変わる領域であり、資料の使い方次第でリスクの大きさが変わります。判断に迷う場合は、著名人の写真や名前を大きく扱う前に、社内の確認体制を通すことをすすめます。

同意書に入れるべき5項目

これまで見てきた場面に共通する、同意を取る際の基本項目を整理します。撮影や名前の使用について同意を取る際、次の5項目を押さえておくと、多くの場面に応用できます。

  1. 利用目的——何のために撮影・使用するか
  2. 利用媒体——どこに掲載するか(社内限定か、社外公開か)
  3. 利用期間——いつまで使用する予定か
  4. 改変の有無——加工・トリミングを行うか
  5. 同意撤回の方法——後から取り下げたい場合、どこに連絡すればよいか

これらの5項目は、社員の撮影、イベントの写り込み、顧客の事例紹介など、本レッスンで扱ったどの場面にも共通して当てはめられます。毎回すべてを厳格な書面にする必要はありませんが、最低限この5項目を、本人が理解できる形で伝える姿勢を持つことが大切です。

同意が得にくい場面での代替手段

実務では、すべての場面で本人からきれいに同意を得られるとは限りません。イベントの規模が大きすぎて全員に声をかけられない、外部の参加者で連絡先がわからない、といった状況もあります。そうした場合に検討できる代替手段を紹介します。

代替手段1:個人が判別できない撮り方にする 遠景で撮影する、後ろ姿を中心にする、顔にモザイクやぼかしを入れるなど、個人が特定されにくい形に加工する方法です。集合写真であれば、特定の1人が大きく目立つ構図を避けるだけでも、リスクは下がります。

代替手段2:イラストや図解に置き換える 人物写真の代わりに、イラストやアイコンで表現する方法です。特に、社内資料や研修資料など、実写である必要性が高くない場面では有効な選択肢です。

代替手段3:モデル撮影に切り替える 社員や顧客ではなく、撮影を目的として契約したモデルを起用する方法です。あらかじめ利用目的・媒体・期間を含めた契約を結べるため、後から同意の範囲が問題になるリスクを大きく減らせます。

代替手段4:公開範囲を限定する 社外に広く公開するのではなく、社内限定の媒体にとどめることで、リスクの大きさを調整する方法です。ただし、社内限定であっても肖像権自体は存在するため、同意を省略してよいという意味ではありません。

場面 代替手段の例
大規模イベントで全員の同意が取りにくい 個人が判別できない構図、事前の掲示
実写にこだわる必要性が低い資料 イラスト・アイコンへの置き換え
広告など公開範囲が広く重要度が高い制作物 モデル撮影への切り替え
社内限定で使う想定の資料 公開範囲の限定(同意の省略にはならない)

どの代替手段を選ぶかは、制作物の目的や予算によって変わります。重要なのは、「同意が取りにくいから、なんとなく使ってしまう」のではなく、代替の選択肢を検討したうえで、それでも実写と同意が必要だと判断した場合に、丁寧に同意を取りにいくという順序です。

講師の現場メモ:採用ページの写真が引き起こした問い合わせ

知財法務の担当者として働いていたころ、採用ページに関する問い合わせが人事部から寄せられたことがあります。ある社員インタビュー記事が、その社員の退職から2年近く経っても、会社の採用サイトに掲載され続けていました。

きっかけは、その元社員からの連絡でした。転職先の同僚が、たまたま以前の会社の採用ページを見て、「まだここで働いているの?」と声をかけてきたというのです。本人にとっては、退職した会社に自分の顔と名前がいつまでも残っていることに、居心地の悪さを感じたようでした。すぐに写真とインタビューを削除する対応を取りましたが、人事部の担当者からは「そもそも、どのタイミングで見直せばよかったのか」という相談を受けました。

このとき私が整理したのは、退職者の写真管理を、退職手続きのフローに正式に組み込むという対応でした。退職時のチェックリストに「掲載中のインタビュー・写真の取り扱いを確認する」という項目を追加し、退職者本人に「掲載を続けてよいか、削除を希望するか」を確認する運用に変更しました。あわせて、新しく撮影する際の同意書にも、「在職中に限る」という利用期間の項目を明記するようにしました。

この一件から学んだのは、肖像権の問題は、撮影した瞬間だけでなく、時間の経過とともに姿を変えるという点です。撮影時には問題がなくても、本人の状況(退職、転職、独立など)が変わることで、以前は気にならなかった掲載が、本人にとって望ましくないものに変わることがあります。定期的な見直しの仕組みを持つことが、長期的なリスク管理につながると実感した出来事でした。

まとめ

このレッスンでは、以下のことを学びました。

  • 肖像権はすべての人が持つ権利、パブリシティ権は主に著名人の氏名・肖像が持つ経済的価値を守る権利という違いがある
  • 社員の撮影では、撮影の同意と掲載の同意を分けて考え、目的・媒体・期間を明確にする
  • 退職後の写真の扱いは、退職のタイミングで見直す仕組みを組み込むことが有効
  • イベントでの写り込みには事前の周知、顧客事例には取引終了後の扱いを含めた許諾が必要
  • 同意書には、利用目的・利用媒体・利用期間・改変の有無・同意撤回の方法という5項目を盛り込む

次のレッスンでは、視点を「使う」側から「守る」側に移し、社員や外部の業務委託者が業務で作ったものの権利が、誰にあるのかを扱います。


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