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スキルアップカレッジ

名前とかたちを守る——商標・意匠の実務プロセス

レッスン7:名前とかたちを守る——商標・意匠の実務プロセス

このレッスンで学ぶこと

  • 新しい商品名やロゴを決める前に踏むべき手順を理解する
  • 自分でできる商標の事前調査の方法を身につける
  • 商標の「区分」という考え方をざっくり理解する
  • 意匠が守るものの範囲と、社内から専門家へ相談を上げるタイミングを把握する

レッスン6では、社員や外部の協力者が作ったものの権利がどこに帰属するかを扱いました。今回は、自社が新しく生み出す「名前」と「かたち」、つまり商標と意匠を扱います。新商品や新サービスの立ち上げに関わったことがある方なら、「この名前、他社が使っていないだろうか」と一瞬でも考えたことがあるはずです。その一瞬の疑問を、具体的な行動につなげる方法を学びます。

新しい商品名・サービス名・ロゴを決める前に踏むべき5ステップ

新しい名称やロゴを決定する場面では、次の5ステップを踏むことをすすめます。これは法務部門が担う出願実務そのものではなく、名前を決める立場の人が、決定の前に踏んでおきたい準備の流れです。

ステップ1:候補を複数出す 最初から1案に絞らず、複数の候補を出しておきます。後述する調査で候補が使えないとわかった場合に備え、代替案を持っておくことが重要です。

ステップ2:候補ごとに簡易な事前調査を行う 特許情報プラットフォームなどを使い、同じ、または似た名称がすでに商標登録されていないかを、自分たちである程度確認します。詳しい方法は次のセクションで扱います。

ステップ3:調査結果をもとに候補を絞り込む 明らかに似た登録商標が見つかった候補は除外し、比較的リスクが低そうな候補を絞り込みます。

ステップ4:最終候補について、専門家による詳細調査を依頼する 自分たちで行った簡易調査はあくまで一次的なスクリーニングです。最終候補が固まった段階で、法務担当者や弁理士に、より専門的で網羅的な調査を依頼します。

ステップ5:調査結果を踏まえて、最終決定と出願の判断をする 専門家の調査結果を踏まえて、最終的な名称を決定します。必要であれば、商標としての出願手続きに進みます。

flowchart LR
  A[候補を複数出す] --> B[簡易な事前調査]
  B --> C[候補を絞り込む]
  C --> D[専門家による詳細調査]
  D --> E[最終決定・出願判断]

この5ステップの中で、現場の担当者が主体的に動けるのはステップ1から3までです。ステップ4以降は専門家の領域ですが、そこにたどり着くまでの準備を丁寧に行っておくことで、専門家との打ち合わせもスムーズに進みます。

💡 ポイント 「名前を決めてから調査する」のではなく、「複数の候補を出した段階で、並行して調査を始める」という順序が実務的です。1つの候補に思い入れが強くなってから問題が見つかると、方向転換の心理的なハードルが上がります。

自分でできる商標の事前調査

特許庁が提供する「特許情報プラットフォーム」(J-PlatPat)は、誰でも無料で利用できる、特許・商標・意匠などの情報を検索できるデータベースです。専門家でなくても、基本的な検索機能を使えば、簡易な事前調査を行うことができます。

事前調査で確認したいことは、大きく分けて2点です。

確認点1:まったく同じ名称が、すでに商標登録されていないか 候補の名称をそのまま検索し、同一または酷似した登録がないかを確認します。

確認点2:似た響き・似た表記の名称が登録されていないか 表記が完全に一致していなくても、発音が似ている、漢字とひらがなの違いだけといった名称は、混同を招くとして問題になる可能性があります。ひらがな・カタカナ・漢字・アルファベットなど、複数の表記パターンで検索してみることをすすめます。

🔰 初学者の方へ 特許情報プラットフォームでの検索は、慣れないと操作が難しく感じるかもしれません。まずは候補の名称をそのまま入力して検索してみるところから始めましょう。検索結果に似た名称の登録が多数見つかった場合、それだけでも「この名前は競合が多い領域だ」という気づきが得られます。

自分たちで行う調査には限界があります。表記が異なっていても類似と判断される場合や、まだ公開されていない出願中の商標との衝突などは、専門家による詳細調査でなければ見つけられないこともあります。あくまで「明らかな問題を早期に発見するための一次スクリーニング」として活用しましょう。

調べずに走ったときに起きること

事前調査を省略して名称やロゴを決定し、そのまま製品化やサービス開始を進めてしまうと、どんな事態が起こりうるかを整理しておきます。

  • 発売直前になって、既存の登録商標と類似していることが発覚し、名称の変更を迫られる
  • すでに市場に出した後で、商標権者から使用の差し止めや損害賠償を求められる
  • パッケージ・Webサイト・広告物など、すでに制作済みの資材をすべて作り直す必要が生じる
  • 取引先や消費者に、名称変更の混乱が生じ、ブランドイメージに影響する

これらの事態は、事業の規模が大きいほど、発覚のタイミングが遅いほど、影響が甚大になります。数百万円規模の広告費をかけてキャンペーンを展開した直後に商標の問題が発覚すれば、金銭的な損失だけでなく、事業計画そのものの見直しにもつながりかねません。

⚠️ 注意 「発売直前まで名称を確定させず、直前になって初めて商標調査を依頼する」という進め方は、非常にリスクの高い進め方です。調査の結果、問題が見つかっても、その時点では代替案を検討する時間的な余裕がなく、リスクを承知のまま発売するか、発売延期という難しい判断を迫られます。

区分という考え方をざっくり理解する

商標を理解するうえで欠かせないのが「区分」という考え方です。商標権は、名称そのものだけでなく、「どんな商品・サービスに使うか」という組み合わせで登録されます。この「どんな商品・サービスか」を分類したものが区分です。

例えば、同じ「〇〇」という名称でも、菓子の区分で登録されている場合と、ITサービスの区分で登録されている場合とでは、別の商標として扱われることがあります。極端な例でいえば、まったく異なる業種で同じ名称が使われていても、商標法上は問題にならないケースがあります。

このため、事前調査を行う際は、「まったく同じ名称が登録されているか」だけでなく、「自社が展開しようとしている商品・サービスの区分で、似た名称が登録されていないか」という視点を持つことが重要です。区分の分類は専門的で細かいため、詳細な判断は専門家に委ねるべき領域ですが、「業種によって、同じ名前でも扱いが変わることがある」という大枠だけは押さえておきましょう。

📝 補足 区分の詳細な分類体系や、複数区分にまたがる出願の実務は、法務部門が担う専門的な領域です。本コースでは、「区分という考え方がある」という前提知識を持つことを目標にしています。

意匠が守るもの

商標が名前やロゴを守るのに対し、意匠は「かたち」、つまり製品のデザインを守る権利です。意匠が保護する対象は、物品の形状だけにとどまりません。

  • 物品——製品そのものの形状・模様・色彩の組み合わせ
  • 画像——機器の操作画面など、物品に表示される画像デザイン
  • 建築物——建物の外観や内装のデザイン
  • 内装——店舗や施設の内装デザイン(統一的なコンセプトを持つ空間デザイン)

新しい製品の外観デザインを検討している場合はもちろん、店舗の内装や、アプリの操作画面のデザインを一新する場合にも、意匠の保護対象になりうるという意識を持っておくとよいでしょう。特に、独自性の高いデザインで差別化を図ろうとしている場合、意匠として保護する価値があるかどうかを、早い段階で検討することをすすめます。

📖 もっと詳しく 意匠の保護対象が、物品の形状だけでなく画像や建築物・内装にまで広がってきた背景には、製品のデザインが、必ずしも「触れる形のあるもの」だけにとどまらなくなってきたという社会の変化があります。アプリの画面デザインや、体験全体を設計する店舗デザインなど、デザインの対象が広がるにつれて、保護の枠組みも広がってきました。

ドメイン・SNSアカウント名との関係

新しい名称を決める際、商標や意匠と並んで確認しておきたいのが、ドメイン名やSNSアカウント名の取得可否です。これらは商標権とは別の仕組みですが、実務では切り離せない関係にあります。

  • 候補の名称で、希望するドメイン名(.co.jpや.comなど)が取得可能かを確認する
  • 主要なSNSプラットフォームで、同じアカウント名がすでに使われていないかを確認する
  • ドメインやアカウント名が取得できても、商標としては他社の権利と衝突する可能性があるため、両方を並行して確認する

ドメインやSNSアカウント名が空いているからといって、商標的な問題がないとは限りません。逆に、商標として問題がなくても、ドメインやアカウント名がすでに他社に使われていれば、ブランド展開に支障が出ます。名称決定のプロセスでは、この2つの確認を並行して進める必要があります。

実務では、「商標は問題なさそうだが、希望するドメインがすでに取得されている」という場面にもよく出会います。この場合、綴りを少し変える、地域や事業内容を示す語を付け加えるといった代替案を検討することになりますが、名称に手を加えると、商標調査もやり直しになる可能性がある点に注意が必要です。名称・商標・ドメイン・SNSアカウント名は、それぞれ別の確認先を持つ独立した要素でありながら、1つを変えるとほかにも影響が及ぶ、相互に関連し合う要素だと捉えておきましょう。

社内から法務・弁理士へ相談を上げるタイミングと持っていく情報

現場の担当者が、専門家への相談をいつ、どんな情報を持って上げればよいかを整理します。相談のタイミングが早すぎても遅すぎても、効率的な連携にはなりません。

相談を上げるタイミング 候補が2〜3案に絞り込まれ、自分たちでの簡易調査が一通り終わった段階が、専門家に相談する適切なタイミングです。候補が多すぎる段階(10案以上など)で相談すると、専門家側の調査負荷が大きくなり、絞り込みが1案の段階で相談すると、代替案がなく身動きが取れなくなるリスクがあります。

相談時に持っていく情報

  • 候補の名称一覧(表記のバリエーションを含む)
  • 展開予定の商品・サービスの内容(区分の判断材料になる)
  • 展開予定の地域(国内限定か、海外展開も予定しているか)
  • 展開予定の時期(発売までの猶予期間)
  • 自分たちで行った簡易調査の結果

これらの情報をあらかじめ整理して持っていくことで、専門家とのやり取りが効率化され、調査から結果が出るまでの時間を短縮できます。特に「展開予定の時期」は重要な情報です。時間的な余裕がどれだけあるかによって、専門家が提案できる選択肢の幅も変わってきます。

🔰 初学者の方へ 「まだ社内で正式決定していないから相談しにくい」と感じる方もいるかもしれませんが、専門家への早めの相談は、むしろ歓迎されることがほとんどです。正式決定してから相談すると、方向転換が難しくなる分、専門家にとっても対応の選択肢が狭まってしまいます。

ケーススタディ:3案から1案に絞り込むまで

新規事業担当のEさんのチームは、新しいサブスクリプション型サービスの名称を検討していました。ブレインストーミングの結果、候補は「A案」「B案」「C案」の3つに絞られました。

Eさんはまず、3案それぞれについて、特許情報プラットフォームで簡易な検索をかけました。A案は、まったく異なる業種(食品分野)で既に商標登録されている名称と完全に一致していました。B案は、似た響きの名称がIT分野で複数登録されており、競合が多い印象を受けました。C案は、検索しても目立った類似登録が見つかりませんでした。

この結果を受けて、Eさんのチームは、A案とB案を候補から外し、C案を軸に検討を進めることにしました。あわせて、C案の名称でドメインとSNSアカウント名が取得可能かも確認し、いずれも空いていることを確かめました。

次に、EさんはC案を持って法務担当者に相談しました。相談の際には、C案の名称、展開予定のサービス内容(サブスクリプション型のITサービス)、展開予定地域(まずは国内、将来的に海外展開の可能性あり)、発売までの残り期間(3か月)を整理して伝えました。法務担当者は、この情報をもとに弁理士へ詳細調査を依頼し、2週間ほどで「大きな問題は見当たらない」という結果が戻ってきました。

このケースでポイントとなったのは、Eさんが最初から1案に絞らず、3案を並行して簡易調査にかけたことです。もしA案だけに絞って進めていたら、既存の登録商標との衝突が発覚した時点で、代替案を1から検討し直す必要があり、スケジュールに大きな遅れが生じていたはずです。複数候補を並行して調べる姿勢が、結果的にスケジュールを守ることにつながりました。

📝 補足 このケースのように、複数候補を同時に調査すると、「候補ごとの相対的なリスクの高さ」を比較できるという利点もあります。C案が「目立った類似登録がない」とわかったのも、A案・B案との比較があったからこそ、はっきりと認識できた面があります。

まとめ

このレッスンでは、以下のことを学びました。

  • 新しい名称・ロゴの決定前には、候補を複数出し、簡易調査を行い、絞り込んでから専門家に詳細調査を依頼する5ステップを踏む
  • 特許情報プラットフォームを使えば、専門家でなくても簡易な事前調査は可能だが、あくまで一次スクリーニングにとどまる
  • 事前調査を省略すると、発売直前や発売後に名称変更を迫られるなど、影響の大きいトラブルにつながる
  • 商標は「区分」という業種の組み合わせで登録され、同じ名称でも区分が異なれば扱いが変わることがある
  • 意匠は物品だけでなく、画像・建築物・内装のデザインも保護対象に含まれる
  • ドメイン名・SNSアカウント名の確認は、商標調査と並行して進める必要がある
  • 専門家への相談は、候補が2〜3案に絞り込まれた段階で、必要な情報を整理して持っていくと効率的である

次のレッスンでは、本コースの最終レッスンとして、権利を侵害された、あるいは侵害してしまったときの初動と、社内ルールづくりを扱います。


確認クイズ

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