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スキルアップカレッジ

ICF コンピテンシーで自分の関わりを点検する

レッスン2:ICF コンピテンシーで自分の関わりを点検する

このレッスンで学ぶこと

  • ICF コンピテンシーという体系の全体像をつかむ
  • 基盤を体現する、信頼と安全を育む、存在感を示すという 3 つの視点を理解する
  • 積極的に聴くことを、情報の受け取り以上の行為として捉え直す
  • 合意を交わすことと、成長を促すことの関係を理解する

前回のレッスンでは、コーチングを「答えを持たない側の技術」として定義し、ティーチング・メンタリング・カウンセリング・ファシリテーションとの境界を整理しました。今回は、コーチングという関わり方の中身を、体系立てて自己点検するための地図を学びます。

「自分の関わり方は、コーチとしてどのくらいできているのか」という問いに、自己流の感覚だけで答えるのは難しいものです。日々の対話は流れていくので、後から振り返る手がかりが残りにくいためです。ここで役立つのが、国際的に共有されている体系を鏡として使うという発想です。自分の対話を録音して聴き直す代わりに、体系が示す視点に沿って記憶をたどるだけでも、見えていなかった癖に気づけます。

ICF コンピテンシーという体系

国際コーチング連盟(ICF、International Coaching Federation)は、コーチという関わり方に求められる行動指針を体系化しています。この体系は、4 つの分野の下に、合計 8 つの行動指針を置く構造になっています。資格取得のための試験対策として扱うのではなく、自分の関わり方を点検する鏡として使うのが、本レッスンの狙いです。

🔰 初学者の方へ 本レッスンは、コーチング資格の取得手順やカリキュラムを扱うものではありません。ICF コンピテンシーは、資格の有無にかかわらず、対人支援に関わるすべての人が自分の関わり方を振り返る道具として使えます。本コースは、この体系を「点検の視点」として借りるにとどめます。

4 つの分野は、次のように整理できます。第 1 の分野は、コーチとしての姿勢の土台に関わる領域です。第 2 の分野は、相手との関係をどう築くかに関わる領域です。第 3 の分野は、対話の中でどう伝え、どう聴くかに関わる領域です。第 4 の分野は、相手の学びと成長をどう促すかに関わる領域です。

分野 本レッスンで扱う視点
姿勢の土台 基盤を体現する
関係の構築 信頼と安全を育む、合意を交わす
伝えると聴く 存在感を示す、積極的に聴く
学びと成長の促進 成長を促す

表 1:4 つの分野と、本レッスンで扱う視点の対応。各分野にはこのほかにも指針が含まれますが、対話の型や気づきを促す関わりそのものについては、1on1 関連の実践コースがすでに扱った視点と重なるため、本レッスンでは深入りせず、点検の視点として扱う 6 つに絞ります。

flowchart TD
  ICF[ICF コンピテンシー]
  ICF --> F[姿勢の土台]
  ICF --> R[関係の構築]
  ICF --> C[伝えると聴く]
  ICF --> G[学びと成長の促進]
  F --> F1[基盤を体現する]
  R --> R1[信頼と安全を育む]
  R --> R2[合意を交わす]
  C --> C1[存在感を示す]
  C --> C2[積極的に聴く]
  G --> G1[成長を促す]

図 1:ICF コンピテンシーの構造。4 つの分野が土台となり、その下に具体的な行動指針が置かれています。本レッスンでは、この地図を使って自分の関わり方を点検します。

基盤を体現する——マインドセットとしてのコーチング

最初の視点は「基盤を体現する」ことです。これは、特定の場面での行動というより、コーチとしての在り方そのものを指します。

具体的には、自分の思い込みや価値観が対話にどう影響しているかを常に振り返ること、相手の答えを先回りして決めつけないこと、わからないことをわからないままにしておける余裕を持つことが含まれます。管理職として長く経験を積んだ人ほど、この視点でつまずきやすくなります。経験があるからこそ「たぶんこうだろう」という予測が働き、相手の話を最後まで聴く前に結論を出してしまうためです。

⚠️ 注意 「基盤を体現する」は、一度身につけたら終わりというものではありません。対話のたびに、自分が今どんな前提を持ち込んでいるかを点検する習慣そのものが、この視点の実践です。

具体的な場面で考えてみます。あるメンバーが「新しい企画がうまく進んでいません」と切り出したとき、経験豊富なコーチほど「きっと関係者との調整が難航しているのだろう」と瞬時に見立てを立ててしまいます。その見立てが当たっていることもありますが、外れていることも少なくありません。基盤を体現するとは、この見立てをいったん脇に置き、「うまく進んでいないというのは、具体的にはどういう状態ですか」と、相手の言葉で語ってもらう余白を残すことです。

信頼と安全を育む——関係の土台をつくる

2 つ目の視点は「信頼と安全を育む」ことです。相手が本音を話しても評価されない、失敗を話しても責められないという感覚が、対話の質を大きく左右します。

この視点は、次のレッスンで扱う「ラポール」と深く関わります。信頼と安全は、対話の場全体に対する認識であるのに対し、ラポールは、今この瞬間に生まれる同調の感覚を指します。両者は重なり合いながらも、扱う範囲が異なります。この違いは、レッスン 3 で改めて整理します。

なお、チーム全体で「発言しても不利益を受けない」という認識を指す心理的安全性は、集団や組織の状態を表す言葉で、対 1 の対話の中で生まれる信頼や安全とは扱う範囲が異なります。本コースでは、対 1 の関わりに焦点を当てます。

信頼と安全を育む働きかけは、大きな仕掛けでなくても構いません。相手が話した内容を否定せずに一度受け止めること、コーチ自身も知らないことは「わかりません」と正直に認めること、約束した時間を守ることなど、地味な積み重ねが土台になります。逆に、一度でも「言ったことが人事評価に響いた」と相手が感じてしまうと、その後どれだけ丁寧に接しても、信頼を取り戻すには長い時間がかかります。

存在感を示す——コーチ自身の状態を整える

3 つ目の視点は「存在感を示す」ことです。これは、コーチ自身が今この瞬間に落ち着いて在り続け、相手の反応に振り回されず、かつ機械的にもならない状態を指します。

存在感が失われる典型的な場面は、相手の沈黙に耐えられず、コーチのほうから話し始めてしまうときです。相手が考えている途中で言葉を差し込むと、相手の思考は中断されます。存在感を示すとは、相手のペースに寄り添いながら、自分自身は動じずにその場にい続けることです。この感覚は、レッスン 3 のラポール、レッスン 5 の姿勢の選択、レッスン 7 のチームコーチングでも繰り返し登場します。

存在感を保つための工夫はいくつかあります。相手が話し終えてから一拍おいて答え始めること、対話の前に自分の肩や呼吸の状態を軽く確認すること、相手の話に驚いたり動揺したりしたときほど、表情や声のトーンを普段どおりに保とうと意識することです。どれも小さな工夫ですが、積み重ねることで、対話の場が落ち着いたものになります。

積極的に聴く——情報の先にあるものを聴く

4 つ目の視点は「積極的に聴く」ことです。聴くことの基本的な型や段階については、ファシリテーション関連の入門コースがすでに扱っています。本レッスンでは、その先にある「何を聴くか」を扱います。

第 1 に、相手が使う言葉そのものに耳を澄ませます。相手が同じ話題について、対話の前半と後半で違う言葉を選んでいたら、そこに気持ちの変化が表れています。

第 2 に、語られていないことに注意を向けます。ある話題になると急に話が短くなる、特定の人物の名前が一度も出てこないといった「語られない部分」が、重要な手がかりになることがあります。

第 3 に、声のトーンや話す速さの変化に注意を向けます。内容は前向きでも、声のトーンが沈んでいれば、そこにずれがあります。

第 4 に、相手が繰り返し使う言葉や比喩に注意を向けます。ある人が仕事の状況を「綱渡り」と何度も表現するなら、その人にとって仕事は常に落ちる危険と隣り合わせだと感じられている、という手がかりになります。コーチが同じ比喩を使って問いを返すと、相手は「わかってもらえている」という感覚を持ちやすくなります。

例えば、「最近の仕事は綱渡りみたいなものです」と話した相手に対して、「その綱渡りの中で、今、一番バランスを崩しそうになっているのはどこですか」と、相手が選んだ言葉をそのまま使って問いを返す。これだけで、対話は一段深いところに進みます。

💡 ポイント 「積極的に聴く」を情報収集として捉えると、内容の正確な理解で満足してしまいます。この視点が求めているのは、相手の言葉の選び方、語られない部分、声の調子まで含めて聴く姿勢です。テクニックというより、聴く対象を広げる発想の転換だと捉えてください。

合意を交わす——関係を形づくる約束

5 つ目の視点は「合意を交わす」ことです。対話の冒頭で目的を確認する習慣そのものは、1on1 関連の実践コースがすでに扱った内容です。本レッスンでは、その手前にある、関係全体を形づくる合意を扱います。

コーチングの関係を始める際には、何を扱い、何を扱わないか、話した内容をどこまで第三者に共有するか、関係をいつでも見直せることなど、関係の土台となる約束を交わす必要があります。これは 1 回の対話の冒頭で確認する内容というより、コーチングの関係そのものを支える約束です。経営層を相手にする場面ではこの約束がとりわけ重要になり、詳しくはレッスン 8 で扱います。

例えば、社内で同僚にコーチング的な関わりを始める場合でも、「今日から数か月、この対話ではお互いに評価や人事の話は持ち込まない」「話した内容は、本人の同意なく上司には伝えない」といった約束を、関係の初期にはっきり言葉にしておくと、後々の対話がぶれにくくなります。約束を曖昧にしたまま始めると、対話が深まった段階で「これは誰かに伝わるのだろうか」という不安が相手の中に生まれ、率直さが失われます。

成長を促す——「答えを教えない」を支える最後のピース

6 つ目の視点は「成長を促す」ことです。対話の中で相手が得た気づきを、実際の行動につなげる働きかけを指します。

ここで役に立つ発想の一つが「フィードフォワード」です。過去の行動を振り返るフィードバックに対し、フィードフォワードは、これからどうするかという未来の行動に焦点を当てます。経営思想家のマーシャル・ゴールドスミス氏が広めたとされる考え方で、「次に同じ場面が来たら、何を試してみますか」といった問いかけが典型です。過去を裁かない分、相手は防御的にならずに次の一歩を考えられます。

フィードバックとの違いを比べると、性質の違いがはっきりします。フィードバックは「先週の会議での進め方は、少し性急に見えました」というように、すでに起きたことを評価する形を取ります。一方でフィードフォワードは、「次に似た会議があったら、どんな進め方を試してみたいですか」というように、まだ起きていない場面に向けて相手自身の案を引き出します。過去を扱うフィードバックが役立つ場面もありますが、コーチングの対話では、成長を促す視点として、未来に焦点を当てたフィードフォワードのほうが相性がよい場面が多くなります。

📝 補足 成長を促す関わりは、相手の中に気づきが生まれた後の一手です。気づきをどう起こすかという手前の部分は、マネジメント対話関連の実践コースがすでに扱っています。本コースは、気づきが生まれた後、それをどう行動につなげるかに焦点を当てます。

6 つの視点を、対話の前後で使う

6 つの視点は、対話が始まる前、対話の最中、対話が終わった後の、それぞれの場面で使えます。対話が始まる前には、基盤を体現する姿勢と、合意を交わす準備を整えます。対話の最中には、信頼と安全を育みながら、存在感を保ち、積極的に聴きます。対話が終わった後には、成長を促す一手が実際の行動につながったかを振り返ります。

この地図の使い方として大切なのは、6 つを常に均等に配分することではありません。関係を始めたばかりの時期は、合意を交わすことと、信頼と安全を育むことに比重が置かれます。関係が深まってからは、積極的に聴くことと成長を促すことの比重が増えていきます。関係の段階によって、力を入れるべき視点は変わります。

📖 もっと詳しく 6 つの視点をすべて完璧にこなそうとすると、かえって対話がぎこちなくなります。まずは自分が最も弱いと感じる 1 つか 2 つの視点を選び、そこだけを意識して対話に臨む方法が現実的です。慣れてきたら、意識する視点を増やしていきます。

自分の関わりを点検するチェックリスト

6 つの視点を、直近の対話を振り返るための問いに変換すると、次のようになります。

視点 振り返りの問い
基盤を体現する 相手の話を最後まで聴く前に、結論を決めつけていなかったか
信頼と安全を育む 相手が本音を話しても評価されないと感じられる場を作れていたか
存在感を示す 相手の沈黙に耐えられず、自分から話し始めていなかったか
積極的に聴く 言葉の選び方の変化や、語られなかったことに気づけていたか
合意を交わす 何を扱い、何を扱わないかを、相手とはっきり共有できていたか
成長を促す 気づきを、具体的な次の一歩につなげる問いを渡せていたか

表 2:6 つの視点を振り返りの問いに変換した一覧。対話を終えたあとに、この一覧を数分眺めるだけでも、次の対話への準備が変わります。すべての項目に高得点をつける必要はなく、今の自分がどの視点で伸びしろを持っているかを知ることが目的です。

まとめ

このレッスンでは、以下のことを学びました。

  • ICF コンピテンシーは、4 つの分野の下に 8 つの行動指針を置く体系で、資格取得ではなく自己点検の道具として使える
  • 基盤を体現するとは、自分の思い込みを常に振り返るコーチとしての在り方である
  • 信頼と安全を育むことと、次のレッスンで扱うラポールは、扱う範囲が異なる
  • 存在感を示すとは、相手のペースに寄り添いながら自分自身は動じずにその場にい続けることである
  • 積極的に聴くとは、言葉の選び方、語られない部分、声の調子まで含めて聴く姿勢である
  • 合意を交わすことは、関係全体を形づくる約束であり、成長を促すことは、気づきを行動につなげる働きかけである

次のレッスンでは、信頼と安全のさらに手前にある、ラポールという技術的な基盤を厚く扱います。


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