GROW を超えて——場面で型を使い分ける
レッスン4:GROW を超えて——場面で型を使い分ける
このレッスンで学ぶこと
- 解決志向のアプローチという発想を理解する
- OSKAR、CLEAR、WOOP という 3 つの型の構造を理解する
- ミラクルクエスチョンとスケーリングクエスチョンを使えるようになる
- 使い慣れた型が向かない場面を見極め、状況に応じて型を使い分けられるようになる
前回のレッスンでは、ラポールという信頼関係の技術的な基盤を扱いました。関係ができていれば、次に必要になるのは、対話をどう構造化するかという型です。本コースの前提として、対話を段階的に進める型はすでに学んでいることとしていますが、その型が万能ではないという点から、今回は話を始めます。
長く対話の実務に携わっていると、決まった型を一つ覚えて、それをあらゆる相手に当てはめたくなる時期があります。型を覚えたばかりの頃は、その型さえ守れば対話がうまくいくように感じられるためです。しかし実際には、同じ型を使い続けていると、うまくいく相手とうまくいかない相手が出てきます。うまくいかない相手に出会ったとき、型が悪いのか、自分の使い方が悪いのか、あるいはそもそも別の型が必要なのかを見分けられることが、次の段階への入り口になります。
なぜ 1 つの型では足りないのか
中核メッセージの 4 つ目は、型は 1 つでは足りず、相手と場面で使い分けるためにいくつか持っておく必要がある、というものでした。段階を踏んで目標から行動へ向かう型は、多くの場面で有効ですが、万能ではありません。
例えば、相手がまだ何を目標にすればよいか見えていない場面では、目標から始まる型は空回りします。目標が明確でも、頭ではわかっていながら体が動かない場面では、行動計画を立てるだけでは足りません。30 分に満たない短い対話で重い段階をすべて踏もうとすると、時間切れになります。問題の分析にはまり込みやすい相手には、現状を深掘りする段階がかえって逆効果になることもあります。
💡 ポイント 型そのものに優劣はありません。目の前の相手が今どんな状態にあるかによって、適した型が変わります。複数の型を知っておくことは、道具箱の中の道具を増やすことに似ています。ドライバーしか持っていなければ、すべてをネジとして扱おうとしてしまいます。
解決志向のアプローチ——問題ではなく解決を大きくする
対話の設計には、大きく分けて 2 つの向き方があります。一つは、問題の原因を掘り下げ、原因を取り除くことで解決に近づこうとする向き方です。もう一つは、すでにうまくいっている部分や、解決した状態そのものに焦点を当てる向き方で、これを「解決志向」と呼びます。
解決志向の発想は、1980 年代にアメリカの臨床家であるスティーブ・ド・シェイザーとインスー・キム・バーグらが確立したとされる短期療法に由来するとされています。彼らは、問題の原因を深く分析しなくても、うまくいっている例外的な状況を見つけて増やすことで、変化が起きることに着目しました。
コーチングにこの発想を取り入れると、「なぜうまくいかないのか」ではなく、「うまくいっているときは何が違うのか」「解決した状態は、具体的にどんな様子か」という問いが中心になります。原因を掘り下げる対話が向いている場面もありますが、相手がすでに何度も原因を考え尽くして疲れている場面では、解決志向の問いのほうが、対話に新しい風を通します。
📝 補足 解決志向は「問題を無視する」という意味ではありません。問題があること自体は認めたうえで、そこに留まる時間を短くし、解決した状態や、すでにうまくいっている部分に対話の力点を移す、という発想の転換です。
問題志向と解決志向は、同じ状況を扱っていても、出てくる問いがまったく違う形になります。
| 場面 | 問題志向の問い | 解決志向の問い |
|---|---|---|
| 目標が達成できていない | なぜ達成できなかったのですか | 達成に近づけたときは、何が違いましたか |
| チームの雰囲気が悪い | 何が原因で雰囲気が悪いのですか | 雰囲気が良かった時期は、何をしていましたか |
| 自信が持てない | 自信が持てない理由は何ですか | 少しでも自信が持てた場面は、いつでしたか |
表 1:同じ状況に対する、問題志向と解決志向の問いの違い。どちらの問いが正しいというわけではなく、相手が原因分析に疲れているか、まだ十分に原因を語れていないかによって、使い分けます。
OSKAR——短い対話でも使える解決志向の型
解決志向の発想を対話の型に落とし込んだものの一つが「OSKAR」です。コーチのマーク・マカーゴウらが提唱したとされる型で、5 つの段階の頭文字を取っています。
Outcome(目指す状態):この対話を通じて、どんな状態になっていたいかを確認します。
Scale(尺度):目指す状態を 10 点、今の状態を 0 点として、今は何点くらいかを相手に尋ねます。
Know-how(すでにある強み):その点数まで来られた理由、すでにできていること、これまでに使ってきた強みを掘り起こします。
Affirm and Action(認めると次の一手):強みを認めたうえで、点数を 1 つ上げるとしたら何をするかを具体的に決めます。
Review(振り返り):次の対話の冒頭で、何が変わったか、その変化のために何をしたかを振り返ります。
OSKAR の特徴は、目標から現状の課題を深掘りする型に比べて軽く、30 分に満たない短い対話でも一巡できる点です。特に Know-how の段階を丁寧に扱うことで、相手は「自分にはすでに手持ちの力がある」という感覚を持ちやすくなります。
短い対話で OSKAR を使う場面を想像してみます。「来月のプレゼンを、落ち着いて話せるようになりたいです」という Outcome から始め、「今の落ち着き度合いは、10 点満点で何点ですか」と Scale で数字に落とします。「6 点です」という答えに対し、「6 点まで来られているのは、何をしてきたからですか」と Know-how を掘り起こすと、相手は「実は、資料の準備だけは早めに終わらせています」と、自分ではまだ強みだと気づいていなかった行動に気づきます。そこから「7 点に近づけるとしたら、次に何を加えますか」と Affirm and Action に進み、最後は次回の対話で Review します。15 分程度の対話でも、この流れは無理なく一巡します。
CLEAR——関係性を通した対話のリズム
もう一つの型が「CLEAR」です。コーチングの研究者であるピーター・ホーキンズが提唱したとされる型で、1 回の対話だけでなく、複数回にわたる関係のリズムを整えることに向いています。
Contract(合意を確認する):この対話で何を扱うかを、簡潔に確認します。
Listen(聴く):相手の状況や気持ちを、十分に聴きます。
Explore(探る):聴いた内容をもとに、選択肢や新しい視点を一緒に探ります。
Action(行動を決める):次に取る具体的な行動を決めます。
Review(振り返る):次回の対話で、行動の結果を振り返ります。
CLEAR は、段階を踏んで目標から行動へ向かう型と似た構造を持ちながら、聴くことと探ることに、より多くの時間を割く設計になっています。関係の初期段階や、相手がまだ何を目標にすべきか定まっていない段階で、この型は力を発揮します。
CLEAR がとりわけ役立つのは、相手がまだ何を目標にすべきかを言葉にできていない場面です。「異動してから、正直まだ何を目指せばいいのか自分でもわかりません」と話す相手に、いきなり目標を尋ねても答えは出てきません。Contract の段階で「今日は、目標を無理に決めようとせず、今感じていることを話す時間にしましょう」と合意を確認し、Listen と Explore にたっぷり時間を使う。目標が定まっていない段階では、この順番のほうが、相手にとって無理がありません。
WOOP——目標に立ちはだかる壁を先に見る
3 つ目の型が「WOOP」です。心理学者のガブリエレ・エッティンゲンが提唱した型で、4 つの段階の頭文字を取っています。
Wish(願い):達成したい、挑戦しがいのある目標を一つ定めます。
Outcome(最良の結果):目標が達成できたときの、最も良い状態を具体的に思い描きます。
Obstacle(内なる障害):その目標の達成を妨げている、自分自身の内側にある障害——先延ばしにする癖、特定の場面での不安など——を一つ特定します。
Plan(計画):その障害が現れたときに、どう対応するかを具体的に決めておきます。
WOOP の際立った特徴は、ポジティブな未来を思い描くことと、それを妨げる内なる障害を見つめることを、あえて両方行う点です。エッティンゲンの研究では、ポジティブな未来だけを思い描くと、かえって行動へのエネルギーが落ちることが示されています。未来と障害を対比させることで、初めて行動に向かう力が生まれるという発想です。行動計画だけを立てても実行に移せない相手には、その手前にある内なる障害に光を当てる WOOP が向いています。
⚠️ 注意 WOOP の Obstacle は、他人や環境のせいにできる外側の障害ではなく、自分自身の内側にある障害を指します。「上司の理解がない」ではなく「上司に相談することを先延ばしにしてしまう自分がいる」というように、自分の内側に焦点を当てることが、この型の効果を左右します。
具体的な場面で見てみます。あるメンバーが「部門を横断する提案をまとめたい」という Wish を語り、実現した Outcome を「役員会で承認され、関係部署が前向きに動いている場面」と生き生きと描写します。ここまでは順調です。しかし、Obstacle を尋ねると、「実は、反対されそうな部署の担当者に話を持ちかけるのを、ずっと先延ばしにしています」という答えが出てきます。目標もゴールの描写も明確なのに、動けずにいた理由がここで初めて見えます。そこで Plan として「先延ばしにしたくなったら、まず 5 分だけ話しかけてみる」という具体的な行動を決めておく。目標を再確認するだけでは出てこなかった一手が、Obstacle を経ることで見つかります。
ミラクルクエスチョンとスケーリングクエスチョン——単発で使える問い
型全体を使わなくても、単発で使える問いが 2 つあります。いずれも解決志向の伝統に由来するとされています。
ミラクルクエスチョンは、「今夜眠っている間に奇跡が起きて、抱えている問題がすべて解決したとします。次の日の朝、目が覚めたとき、何によってその奇跡が起きたとわかりますか」という形で、解決した未来を具体的に思い描いてもらう問いです。抽象的な「どうなりたいですか」よりも、驚くほど具体的な描写が引き出されることがあります。
スケーリングクエスチョンは、「0 点から 10 点までの尺度で、今の状態は何点ですか」と尋ねる問いです。抽象的な感覚を数字に変換することで、対話がしやすくなります。点数を尋ねた後は、「なぜその点数なのか」よりも「1 点上がったら何が変わっているか」を尋ねるほうが、次の行動につながりやすくなります。
この 2 つの問いは、組み合わせて使うこともできます。まずスケーリングクエスチョンで「今は 4 点です」と現在地を数字にしてもらい、続けてミラクルクエスチョンで「10 点の状態を具体的に描いてもらえますか」と未来像を引き出す。現在地と目指す状態の両方が具体的になることで、その間を埋める一歩も見えやすくなります。
💡 ポイント ミラクルクエスチョンとスケーリングクエスチョンは、特定の型に縛られず、OSKAR にも CLEAR にも、ほかのどんな型にも組み込める汎用の問いです。型そのものを変えなくても、対話の要所でこの 2 つの問いを差し込むだけで、対話に新しい角度が生まれます。
flowchart TD
S[相手はどんな状態か]
S -->|目標がまだ見えていない| MQ[ミラクルクエスチョンで<br/>解決像を具体化する]
S -->|目標は明確だが動けない| W[WOOP で<br/>内なる障害に光を当てる]
S -->|短い対話で一巡させたい| O[OSKAR で<br/>強みから次の一手へ]
S -->|複数回の関係を整えたい| C[CLEAR で<br/>聴くことに力点を置く]
図 1:型を選ぶ目安。実際には、これらの型を組み合わせて使うことも多く、対話の途中で型を切り替えることも自然です。大切なのは、相手の状態を観察しながら、今この対話に合う型を選ぶ姿勢です。
GROW が向かない場面
ここまでの内容を踏まえて、GROW が向かない場面を整理します。段階そのものの説明は、本コースでは扱いません。ここでは、機能しにくい状況を確認します。
第 1 に、相手の目標がまだ形になっていない場面です。目標を確認する段階から入る型では、相手はまだ何も答えられず、対話が止まってしまいます。この場面ではミラクルクエスチョンが役立ちます。
第 2 に、目標は明確なのに、相手が動けずにいる場面です。行動を決める段階まで進んでも、相手の内側にある障害が扱われないまま終わってしまいます。この場面では WOOP が役立ちます。
第 3 に、30 分に満たない短い対話で、重い段階をすべて踏もうとする場面です。時間が足りず、どの段階も中途半端になります。この場面では OSKAR のような軽い型が役立ちます。
第 4 に、相手が問題の分析に沈み込みやすい場面です。現状を深掘りする段階が、かえって問題への沈み込みを強めてしまうことがあります。この場面では解決志向の問いが役立ちます。
📖 もっと詳しく GROW が悪い型だという意味ではありません。目標が定まっていて、現状を整理する余地があり、対話に十分な時間を取れる場面では、今でも有効な型です。本レッスンが伝えたいのは、ほかの型も知っておくことで、機能しにくい場面でも対話を止めずに済む、ということです。
型は道具箱——選ぶ基準
最後に、型を選ぶ際の基準を整理します。相手の目標がどれくらい明確か、相手が問題志向と解決志向のどちらに寄っているか、対話にどれくらいの時間を確保できるか、一度きりの対話か、複数回続く関係かという 4 つの軸で考えると、選びやすくなります。
複数の型を知っていても、対話の最中に「今はどの型を使おう」と頭で選ぼうとすると、かえって対話がぎこちなくなります。まずは対話が終わった後に、どの型に近い進め方をしていたかを振り返る習慣から始めると、型の感覚が身についていきます。
型は、1 回の関係の中で組み合わせて使うこともできます。ある新任リーダーとの継続的な対話を例にすると、関係の初期は、目標がまだ定まっていないため CLEAR で聴くことに力点を置きます。数回の対話を経て目指す方向が見えてきたら、短い定例対話には OSKAR を使い、強みを積み上げていきます。大きな決断を控えた回には、行動計画だけでは動けなかった経験を踏まえて WOOP を使い、内なる障害に光を当てます。一つの関係の中で、複数の型を段階に応じて選び直すという発想が、実務では最も現実的です。
まとめ
このレッスンでは、以下のことを学びました。
- 型は 1 つでは足りず、相手と場面で使い分ける必要がある
- 解決志向とは、問題の原因を掘り下げるより、うまくいっている部分や解決した状態に焦点を当てる発想である
- OSKAR は短い対話でも一巡できる軽い型、CLEAR は複数回の関係のリズムを整える型である
- WOOP は、ポジティブな未来と、それを妨げる内なる障害を対比させることで行動につなげる型である
- ミラクルクエスチョンとスケーリングクエスチョンは、型全体を使わなくても単発で使える問いである
- 段階を踏んで目標から行動へ向かう型は、目標が定まっていない場面、動けない場面、短い対話、問題への沈み込みが強い場面では機能しにくい
次のレッスンでは、これらの型を使う際に、どこまで指示し、どこから引き出すかという、姿勢の幅を選ぶ力を扱います。
確認クイズ
このレッスンの理解度をチェックしましょう。