チームコーチング——複数を相手にする
レッスン7:チームコーチング——複数を相手にする
このレッスンで学ぶこと
- 1 対 1 のコーチングと、チームコーチングの構造的な違いを理解する
- 場に問いを置くという技術と、全員が話す設計を理解する
- チームコーチングとファシリテーションの違いを説明できる
- チームの沈黙を、個人の沈黙とは違う角度で読めるようになる
前回のレッスンでは、セルフコーチングとピアコーチングという、一人か二人の小さな規模の実践を扱いました。中核メッセージの 6 つ目は、コーチングは 1 対 1 の技術から始まるが、チームと組織にも広がる、というものでした。今回は、複数人を同時に相手にするチームコーチングを扱います。
1 対 1 のコーチングに慣れてきた人が、チームを相手にする場面に呼ばれると、多くの場合、同じやり方をそのまま人数分に広げようとします。一人ひとりに順番に問いを向け、一人ひとりの答えを丁寧に受け止める。これ自体は悪いことではありませんが、チーム全体としての気づきにはつながりにくいことがあります。チームには、個人の集まりとは別の、チームそのものの性質があるからです。
1 対 1 との構造的な違い
チームコーチングは、1 対 1 のコーチングを人数分だけ同時に行うことではありません。構造そのものが異なります。
1 対 1 では、コーチと相手という 1 本の関係だけを扱えば済みます。チームでは、コーチとメンバー一人ひとりの関係に加えて、メンバー同士の関係も同時に存在します。5 人のチームなら、コーチを含めて 15 通り以上の関係が同時に働いています。コーチが特定の一人とだけ深い対話をすると、ほかのメンバーは置き去りにされたと感じ、チーム全体の力学に影響します。
もう一つの違いは、扱う目標の性質です。1 対 1 では、個人の目標や気づきを扱います。チームコーチングでは、個人の目標だけでなく、チームとしての目標——このチームが何を成し遂げようとしているのか、どう協働しようとしているのか——を扱います。個人の成長を積み上げてもチームの成果に直結するとは限らず、チームというまとまりそのものに働きかける視点が必要になります。
💡 ポイント チームコーチングでは、コーチ自身の位置取りも重要な要素です。チームの内部にいる人物(そのチームのリーダーなど)がコーチ役を務める場合と、外部から招かれたコーチが務める場合とでは、見える景色も、言える言葉も変わります。内部コーチは日常の文脈を熟知している強みがあり、外部コーチは利害関係から離れた視点を提供できる強みがあります。
チームコーチングは、コーチングという発想を、対人支援の実務だけでなく、組織を一つのまとまりとして捉える視点(システムコーチングの視点)と重ね合わせたときに、最も効果を発揮します。個々のメンバーがどれほど優れていても、関係の持ち方やチームとしての習慣が噛み合っていなければ、チームは力を発揮できません。チームコーチングは、この関係と習慣そのものに働きかけます。
具体的な場面で考えてみます。あるチームで、会議のたびに特定の一人が最初に発言し、ほかのメンバーはその意見に同調する形で議論が終わる、という習慣が続いていたとします。個々のメンバーに 1 対 1 で話を聞くと、それぞれが違う意見を持っていることがわかります。問題は個人の能力ではなく、「最初の発言に同調する」というチームの習慣そのものにあります。この習慣に気づき、変えていく働きかけこそが、チームコーチングの中心的な役割です。
チームコーチングを始める前には、チーム全体との合意を交わす手順も欠かせません。レッスン 2 で扱った「合意を交わす」視点をチーム向けに広げると、何を扱い、何を扱わないか、話した内容を誰にどこまで共有するか、メンバー全員が同じ理解を持てるよう、初回に時間を取って確認します。個人との合意と違い、チームでは一人が同意しても、ほかのメンバーが同じ理解を持っているとは限りません。全員の前で合意を確認する一手間が、後々の対話の土台になります。
場に問いを置く——個人にではなく全体に向ける技術
1 対 1 では、問いは常に目の前の相手に向けられます。チームコーチングでは、問いを特定の個人にではなく、「場」そのものに向けるという技術が重要になります。
具体的には、「〇〇さんはどう思いますか」と個人を指名するのではなく、「今の議論を聞いて、どう感じましたか」と、部屋全体に問いを投げかけます。誰が最初に答えるか、誰が黙ったままか、どんな順番で発言が続くか——この一連の流れそのものが、チームの状態を映し出す手がかりになります。
📝 補足 場に問いを置くと、最初は沈黙が続くことがあります。1 対 1 の対話に慣れていると、この沈黙に耐えられず、つい特定の人を指名したくなります。しかし、指名する前に少し待つことで、普段は発言の少ないメンバーが自分から口を開く瞬間が生まれることがあります。
場に置かれた問いに、いつも同じ人が最初に答える、特定の人だけが黙り続ける、というパターンが見えてきたら、それ自体を問いにして返すこともできます。「気づいたのですが、いつも同じ順番で発言が続いていますね。これについてはどう思いますか」というように、パターンそのものをチームに提示し、チーム自身に気づいてもらいます。
場に問いを置く技術を身につけるうえで難しいのは、コーチ自身が「早く誰かに答えてほしい」という焦りに耐えることです。1 対 1 の対話であれば、相手が黙っていても、待つべき相手は一人だけです。チームでは、複数人が同時に黙っている状態に向き合うことになり、その重さは 1 対 1 の比ではありません。この重さに慣れることも、チームコーチングの実践の一部です。
全員が話す設計
場に問いを置くだけでは、声の大きい人や発言に慣れている人ばかりが話し、ほかのメンバーは沈黙したままになりがちです。全員が話す機会を意図的に設計する工夫が必要です。
一つの方法は、発言する順番をあらかじめ決めておく「ラウンドロビン」です。全員が輪番で必ず一言ずつ発言する形式で、発言の偏りを防ぎます。もう一つの方法は、話す前に数分間、各自が考えを書き出す「サイレントワーク」です。声の大きさに左右されず、全員が自分の考えを一度言語化してから発言に進むため、静かなメンバーの考えも埋もれにくくなります。
| 設計の工夫 | 向いている場面 |
|---|---|
| ラウンドロビン | 全員に必ず発言の機会を作りたいとき |
| サイレントワーク | 声の大きい人に議論が引っ張られやすいとき |
| 少人数のペアでまず話す | いきなり全体では話しにくいテーマのとき |
表 1:全員が話す設計の工夫。チームの規模や、テーマの重さによって使い分けます。
⚠️ 注意 全員が話す設計は、話す量を平等にすること自体が目的ではありません。目的は、チームの中に眠っている視点をできるだけ多く場に出すことです。形式的に発言回数を揃えても、本音が出なければ意味がありません。設計はあくまで手段であり、目的はチームの気づきです。
サイレントワークを使う際の具体的な進め方も見ておきます。「今の議題について、まず 3 分間、一人で考えを書き出してください」と伝え、全員が静かに手を動かす時間を作ります。書き終えたら、いきなり全体で共有するのではなく、まず 2 人一組で 3 分ずつ共有し合い、そのうえで全体に戻る、という段階を踏むと、いきなり大人数の前で発言する負担が軽くなります。声の大きい人が多いチームほど、この段階を踏む価値が大きくなります。
📝 補足 ラウンドロビンを使うと、普段は発言の少ないメンバーの発言時間が保証される一方、順番が回ってくるまで自分の考えをまとめられず、形式的な一言で終わってしまうこともあります。事前にテーマを共有し、考える時間を与えたうえでラウンドロビンを行うと、この弱点を補えます。
ファシリテーションとの違い——進行ではなく気づきの促進
チームコーチングは、複数人を相手にするという点で、ファシリテーションと混同されやすい領域です。両者は共通点も多いですが、目的が異なります。
ファシリテーションは、主に会議や話し合いの進行を担い、限られた時間の中で結論や合意にたどり着くことに力点を置きます。議題を管理し、時間を守り、意見をまとめることが役割の中心です。
チームコーチングは、結論に早くたどり着くことよりも、チームが自分たちの関係や習慣に気づくことに力点を置きます。時には、あえて議論を先に進めず、「今、何が起きていると思いますか」と立ち止まって問いかけることもあります。効率よりも気づきを優先する場面が、ファシリテーションとの大きな違いです。
📖 もっと詳しく 実務では、一人が状況に応じてファシリテーションの役割とチームコーチングの役割を切り替えることもあります。時間内に結論を出す必要がある場面ではファシリテーションの発想に寄り、チームの関係性そのものに向き合う場面ではチームコーチングの発想に寄る、という使い分けです。どちらの役割を担っているかを自分自身と参加者に明確にしておくことが、混乱を防ぎます。
具体的な場面で比べてみます。四半期の予算配分を決める会議では、時間内に結論を出す必要があり、ファシリテーションの発想が中心になります。議題を整理し、選択肢を絞り込み、決を取る。一方、「このチームは、なぜいつも同じ人ばかりが意見を通しているのか」というテーマを扱う場では、時間内に結論を出すことより、チームがその構図に気づくことのほうが価値を持ちます。この場では、あえて結論を急がず、気づきが生まれるまで問いを重ねるチームコーチングの発想が中心になります。
同じ会議の中でも、両者は切り替わることがあります。予算配分の議論が行き詰まり、「そもそも、なぜこの議論はいつも平行線になるのか」という関係性そのものの話題に移った瞬間、コーチは進行役から一歩引き、チームコーチングの発想に切り替える判断が求められます。
チームの沈黙をどう読むか
1 対 1 の対話における沈黙は、レッスン 3 で「誰が黙っているか」「その後に何が起きるか」という角度から扱いました。チームの沈黙は、個人の沈黙とは異なる意味を持つことがあります。
チームが沈黙するとき、そこには「誰か一人が話せばよい」という暗黙の役割分担が働いていることがあります。いつも同じ人が発言し、ほかのメンバーはその人に任せる、という構図が固定化していると、場に問いを置いても、特定の人以外は沈黙したままになります。
また、チームの沈黙は、対立を避けるために生まれることもあります。本音を言えば意見が割れるとわかっている話題では、誰も口火を切りたがらず、全員が沈黙します。この沈黙は、チームの中に潜在的な緊張があることを示すサインです。
flowchart TD
S[チームが沈黙している]
S --> A[誰か一人に任せる<br/>暗黙の役割分担]
S --> B[意見が割れることを<br/>避けたい緊張]
S --> C[問いの意味が<br/>まだ伝わっていない]
A --> N1[沈黙そのものを<br/>チームに提示する]
B --> N1
C --> N2[問いを言い換える]
図 1:チームの沈黙を読み解く視点。個人の沈黙と違い、チームの沈黙は関係の力学を映し出していることが多く、コーチはその沈黙自体をチームに返す働きかけができます。
チームの沈黙にコーチが対応する際、最も有効な一手は、沈黙そのものを話題にすることです。「今、部屋が静かになりましたね。ここで何が起きていると思いますか」と、沈黙を解消しようとするのではなく、沈黙そのものをチームへの問いに変えます。これによって、沈黙という現象自体が、チームの気づきの材料になります。
権力勾配が強く働くチームでは、この沈黙がとりわけ起きやすくなります。役職の高いメンバーが発言した直後の沈黙は、多くの場合、賛成しているからではなく、異論を挟みにくいからです。この構図に気づいたコーチは、役職の高いメンバーに「少しだけ、ほかのメンバーが考える時間を作ってもよいでしょうか」と断ったうえで、あえて先に沈黙を作り、ほかのメンバーの発言を引き出す工夫をすることもあります。
沈黙が生まれた瞬間に、その意味を決めつけないことも重要です。コーチが「これは権力勾配による沈黙だ」と早合点し、決めつけた前提で介入すると、実際には別の理由で黙っていたメンバーを戸惑わせます。沈黙の意味は、チーム自身に確かめてもらうのが一番確実です。
🔰 初学者の方へ チームの沈黙に直面すると、進行が止まった、失敗したと感じやすいものです。しかし、チームコーチングにおいては、沈黙こそがチームの実態を映す貴重な情報です。沈黙を急いで埋めようとせず、まずは何が起きているかを観察する姿勢を持ってください。
チームコーチングが崩れるとき
チームコーチングにも、機能しなくなる典型的なパターンがあります。コーチが議論の内容に踏み込みすぎて、実質的なチームリーダーのように振る舞い始めること。声の大きい一人の意見が、チーム全体の結論であるかのように扱われてしまうこと。チームコーチングのはずが、いつの間にか単なる研修やワークショップの進行に変わってしまうことです。チームの人数が多くなるほど、これらのパターンは起きやすくなります。
これらのパターンに共通するのは、コーチが「気づきを促す」という役割から外れ、「結論を出す」役割を引き受けてしまうことです。チームコーチングにおいても、中核メッセージの 1 つ目——コーチングは答えを持たない側の技術である——は変わらず生きています。チームの答えは、コーチではなく、チーム自身の中にあります。
崩れかけたチームコーチングを立て直す手がかりも、レッスン 3 で扱ったラポールの立て直しと共通しています。気づいた変化をそのまま言葉にして返すことです。「振り返ると、この 30 分、私が話す時間のほうが長くなっていた気がします。もう一度、皆さんの言葉で進めていきましょう」と、コーチ自身の行動を率直に開示することで、チームは安心して本来の主体性を取り戻せます。
💡 ポイント チームコーチングにおいてコーチが完璧である必要はありません。むしろ、コーチ自身が自分の関わり方の変化に気づき、それを率直に開示する姿は、チームにとって「自分の関わり方を振り返ってよい」という許可のメッセージになります。
チームコーチングは、対象が一人から複数人へと広がっただけで、根底にある発想は変わりません。相手が自分で答えにたどり着ける関係と場を設計するという背骨は、相手がチームになっても、変わらず本コースの土台であり続けます。
このレッスンでは、以下のことを学びました。
- チームコーチングは、1 対 1 の関係に加えて、メンバー同士の関係やチーム全体の目標を同時に扱う
- 場に問いを置くとは、個人にではなく、部屋全体に向けて問いを投げかける技術である
- ラウンドロビンやサイレントワークは、全員が話す機会を意図的に設計する工夫である
- ファシリテーションは進行と合意形成に力点を置き、チームコーチングは気づきの促進に力点を置く
- チームの沈黙は、暗黙の役割分担や対立の回避を映す、チームの力学を示すサインである
- チームコーチングが崩れるのは、コーチが答えを出す役割を引き受けてしまうときである
次のレッスンでは、対象をさらに広げ、経営層を相手にするエグゼクティブコーチングと、コーチングの限界を扱います。
確認クイズ
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