見積——「たぶん3日」から抜け出す
レッスン4:見積——「たぶん3日」から抜け出す
このレッスンで学ぶこと
- 類推見積・パラメトリック見積・ボトムアップ見積の3手法を使い分けられる
- 三点見積とPERTの式で、見積の幅を数値化できる
- プランニングポーカーの進め方を理解する
- 見積が外れる4つの心理的な原因を把握する
- バッファの置き方の基本的な考え方を持つ
- 工数と期間の違いを説明できる
レッスン3では、WBSによって作業をワークパッケージまで分解する技術を扱いました。ワークパッケージが揃ったら、次はそれぞれに「どのくらいの時間がかかるか」を見積もる番です。「たぶん3日くらい」という感覚だけの見積もりから抜け出し、根拠のある見積もりを立てる技術を学びます。
なぜ「たぶん3日」では足りないのか
多くの現場で、見積もりは「経験と勘」に頼って行われています。担当者に「これ、どのくらいでできそう?」と尋ね、「たぶん3日くらいです」という返事をそのままスケジュールに組み込む——このやり方の何が問題なのでしょうか。
問題は、見積もりの根拠が担当者の頭の中にしかなく、後から検証できない点にあります。3日という数字が、過去の似た作業の実績に基づくものなのか、それとも「なんとなくそのくらいだろう」という直感なのか、他人には区別がつきません。根拠が共有されていないと、見積もりが外れたときに「なぜ外れたのか」を振り返ることができず、次の見積もりの精度も上がっていきません。
本レッスンで扱う見積の技術は、見積もりを完璧に当てるための魔法ではありません。むしろ、見積もりには必ず不確実性が伴うことを前提に、その不確実性を扱いやすい形にする技術です。
3つの見積手法
見積もりの立て方には、大きく分けて3つの手法があります。それぞれ、必要な情報の量と、得られる精度が異なります。
類推見積
類推見積は、過去に行った似たプロジェクトやワークパッケージの実績をもとに、今回の見積もりを類推する方法です。「前回の社内イベントでは、会場確保に1週間かかったので、今回も1週間程度だろう」というように、経験や記録をもとに見積もります。
短時間で見積もれる反面、精度は比較的粗くなります。プロジェクトの初期段階で、全体のおおまかな規模感をつかみたいときに向いています。
パラメトリック見積
パラメトリック見積は、単価や作業効率といった「パラメータ(変数)」を使って、数量に応じて見積もる方法です。「案内状の発送は、1件あたり10分かかるので、100件なら1,000分(約17時間)」というように、単位あたりの作業量に数量を掛け合わせて算出します。
類推見積よりも精度が高くなりやすい一方、信頼できる単価やパラメータのデータが必要です。定型的な繰り返し作業(発送作業、データ入力、印刷物の校正など)との相性がよい手法です。
ボトムアップ見積
ボトムアップ見積は、WBSで分解したワークパッケージそれぞれの見積もりを、下から積み上げて全体の見積もりを算出する方法です。レッスン3で作成したWBS辞書の見積工数の列を、すべて合計するイメージです。
最も精度が高くなる一方、見積もりに時間と手間がかかります。プロジェクトの計画段階で、ある程度WBSが固まった後に行うのが一般的です。
3つの手法を比較すると、次のようになります。
| 手法 | 必要な情報 | 精度 | かかる手間 | 向いている場面 |
|---|---|---|---|---|
| 類推見積 | 過去の類似実績 | 粗い | 少ない | プロジェクト初期の概算 |
| パラメトリック見積 | 単価・作業効率のデータ | 中程度 | 中程度 | 定型的な繰り返し作業 |
| ボトムアップ見積 | WBSの詳細な分解 | 高い | 多い | 計画確定段階の詳細見積 |
💡 ポイント 実務では、この3つを使い分けます。プロジェクトの立ち上げ段階では類推見積でおおまかな規模感をつかみ、WBSが固まった計画段階でボトムアップ見積に切り替える、という進め方が一般的です。定型作業が多く含まれる場合は、その部分だけパラメトリック見積を併用します。
3つの手法を組み合わせる例として、社内イベント運営プロジェクトを考えてみましょう。企画の初期段階では、「前回の周年イベントは準備に約2か月かかった」という類推見積で、大まかな全体スケジュールをつかみます。その後、レッスン3で作成したWBSが固まった段階で、「案内状の発送」のような繰り返し作業には、「1件あたり10分×参加予定150人分で25時間」というパラメトリック見積を使います。会場確保や進行台本の作成のような、繰り返しのきかない個別性の高い作業には、担当者へのヒアリングをもとにしたボトムアップ見積を使います。このように、作業の性質に応じて手法を使い分けることで、見積もり全体の手間と精度のバランスを取ります。
三点見積とPERTの式——「幅」で見積もる
ボトムアップ見積を行う際、1つのワークパッケージに対して「3日」という単一の数字だけを出すのではなく、「幅」を持たせて見積もる方法があります。これが「三点見積」です。
三点見積では、1つのワークパッケージについて、次の3つの値を見積もります。
- 楽観値:すべてが順調に進んだ場合にかかる時間
- 最頻値:最も可能性が高いと考えられる時間
- 悲観値:トラブルが重なった場合にかかる時間
この3つの値から、期待される見積もり時間を算出する式が「PERTの式」です。PERTは、Program Evaluation and Review Techniqueの略で、1950年代に米国海軍のミサイル開発プロジェクトで考案された見積手法に由来します。PERTの式は、次のとおりです。
見積時間 =(楽観値 + 4 × 最頻値 + 悲観値)÷ 6
具体例で計算してみましょう。ある販促物のデザイン作業について、楽観値を2日、最頻値を4日、悲観値を10日と見積もったとします。この場合の計算は、次のようになります。
(2 + 4 × 4 + 10)÷ 6 =(2 + 16 + 10)÷ 6 = 28 ÷ 6 = 約4.7日
単純に3つの値を平均すると(2+4+10)÷3で約5.3日になりますが、PERTの式では最頻値に4倍の重みをつけることで、「最も起こりやすいシナリオ」に近づけた見積もりになります。同時に、悲観値も式に組み込まれているため、単なる最頻値の1点見積もりよりも、リスクを織り込んだ数字が得られます。
📝 補足 三点見積の効果は、正確な数値を出すことよりも、「この作業には、どのくらいの幅があるか」を関係者と一緒に考えるプロセスにあります。楽観値と悲観値の差が大きいワークパッケージほど、不確実性が高く、注意して進捗を追う必要がある作業だと判断できます。
プランニングポーカー——チームで見積もる
三点見積やボトムアップ見積を、1人の担当者だけで行うと、その人の経験や思い込みに偏りがちです。この偏りを減らす方法として、適応型の開発現場を中心に広まったのが「プランニングポーカー」です。
プランニングポーカーは、複数のメンバーが、それぞれ個別に見積もりの数値を記したカードを選び、全員が同時に公開する見積もり方法です。進め方は、次のとおりです。
- 見積もる対象のワークパッケージを、全員で確認する
- 各メンバーが、自分の見積もり(フィボナッチ数列に近い1・2・3・5・8・13などの数字が使われることが多い)を、他人に見せずにカードで選ぶ
- 全員が同時にカードを公開する
- 見積もりに大きなばらつきがあれば、最も高い数字を選んだ人と、最も低い数字を選んだ人が、その理由を説明する
- 説明を踏まえて再度見積もり、ばらつきが収束するまで繰り返す
この進め方の狙いは、声の大きい人の意見にほかのメンバーが引きずられることを防ぐ点にあります。全員が同時にカードを公開するため、最初の見積もりには他人の意見が影響しません。また、見積もりが大きくばらついた場合こそ、そのワークパッケージについて、メンバー間で前提の認識がズレている可能性が高いというシグナルになります。「なぜそんなに時間がかかると思うのですか」という問いかけから、見落としていた作業や、想定していなかったリスクが表面化することも少なくありません。
🔰 初学者の方へ プランニングポーカー専用のカードがなくても、付箋に数字を書いて一斉に見せる、チャットツールで同時に数字を投稿する、といった簡易的な方法でも同じ効果が得られます。重要なのは「他人の見積もりを見る前に、自分の見積もりを決める」という順番です。
具体的な場面で考えてみましょう。新商品発売プロジェクトで、「パッケージデザインの確認と修正」というワークパッケージを見積もる場面です。デザイン経験のあるメンバーは「3(日)」を、プロジェクトに入って日が浅いメンバーは「8(日)」を選びました。カードを公開したところ、ばらつきの理由を尋ねられた新しいメンバーは、「過去に、法務確認で表示ルールに関する差し戻しが何度もあったと聞いたので、その分を見込みました」と説明しました。デザイン経験のあるメンバーは、この点を見落としていたことに気づき、最終的に「5(日)」で全員の見積もりが収束しました。このように、ばらつきそのものが、見落とされていたリスクを表に引き出すきっかけになります。
見積が外れる4つの心理
見積もりの技術を身につけても、実際の作業が見積もりどおりに終わるとは限りません。ここでは、見積もりが実際の作業時間よりも長くかかってしまう、代表的な4つの心理的な要因を紹介します。
学生症候群
締め切りが十分に先にあると、着手そのものを先延ばしにしてしまう傾向を「学生症候群」と呼びます。夏休みの宿題を最終日近くまで手をつけない学生の様子になぞらえた呼び名です。せっかく余裕を持って見積もった時間も、着手が遅れれば、その余裕はまるごと失われてしまいます。対策としては、締め切りだけでなく「着手日」もあわせて明示し、着手日を過ぎたら早めに声をかける運用が有効です。
90%症候群
作業の残り10%になったところで、「あとは仕上げだけ」と油断し、進捗の報告が「90%完了」のまま長期間止まってしまう現象を「90%症候群」と呼びます。実際には、最後の10%に、細部の調整や想定外の不具合対応など、見えていなかった作業が集中していることが多く、報告上の数字と実態が大きく乖離します。対策としては、レッスン7で扱うように、進捗を「率」ではなく「残っている作業の内容」で報告させる習慣が有効です。
パーキンソンの法則
「作業は、与えられた時間をすべて満たすまで膨張する」という経験則を「パーキンソンの法則」と呼びます。3日で終わる作業に1週間の期限を与えると、結果的に1週間かけて終わる、という現象です。余裕を持たせた見積もりが、かえって作業のペースを緩めてしまうという、皮肉な側面を示しています。対策の1つが、後述する「バッファは個々の作業ではなく全体にまとめて置く」という考え方です。
楽観バイアス
自分の作業については、トラブルが起きる可能性を過小評価してしまう傾向を「楽観バイアス」と呼びます。過去に何度も同じような作業で遅れが出ていても、「今回は大丈夫だろう」と考えてしまう心理です。見積もりを行う本人が意識していなくても、無意識のうちに悲観値を軽く見積もってしまう原因になります。対策としては、見積もりを担当者1人に任せきりにせず、過去の実績記録と突き合わせて確認する、あるいはプランニングポーカーのように複数人で見積もる場を設けることが有効です。
⚠️ 注意 この4つの心理は、担当者の能力や意欲の問題ではなく、多くの人に共通して起こる自然な傾向です。「気をつければ防げる」という精神論で片付けるのではなく、次に説明するバッファの設計や、こまめな進捗確認の仕組みで対処するべき対象として扱ってください。
バッファの置き方
見積もりが外れる心理的な要因を踏まえると、個々のワークパッケージの見積もりに、あらかじめ余裕(バッファ)を持たせておくことが有効に思えます。しかし、単純に「念のため、それぞれのワークパッケージに1日ずつ余裕を足しておこう」というやり方には、落とし穴があります。個々の見積もりに余裕を足すと、その余裕自体がパーキンソンの法則によって使い切られてしまい、結局、全体のスケジュールは伸びたままになりやすいのです。
そこで、個々のワークパッケージにバッファを分散させるのではなく、プロジェクト全体、あるいは後述するレッスン5のクリティカルパスの末尾に、まとめてバッファを置くという考え方があります。個々の見積もりは楽観的すぎない範囲でタイトに設定し、その代わり、プロジェクト全体の終わりに、まとまった予備日数を確保しておくという発想です。
📖 もっと詳しく この「個々の見積もりを引き締め、プロジェクト全体にまとめてバッファを置く」考え方を体系化した手法に、CCPM(クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント)があります。CCPMは、複数の作業が同じ担当者やリソースを奪い合う場面まで考慮に入れた、より高度な手法です。本コースでは詳細な手順までは扱いませんが、「バッファは個々の見積もりに分散させるより、まとめて置いたほうが機能しやすい」という発想だけ、ここで押さえておいてください。
具体的な運用イメージとしては、例えば10個のワークパッケージそれぞれの見積もりを、悲観値寄りではなく最頻値に近い、やや引き締めた数字で設定します。そのうえで、プロジェクト全体の完了予定日の手前に、全体の見積もり期間の1〜2割程度を目安とした「プロジェクトバッファ」を、1つのまとまった予備日数として設けます。個々のワークパッケージが多少遅れても、このプロジェクトバッファの中で吸収できていれば、全体としては計画どおりに進んでいると判断できます。バッファの消費具合を定期的に確認することで、「遅れの兆候」を早い段階でつかむこともできます。
工数と期間の違い
見積もりを扱ううえで、混同しやすいのが「工数」と「期間」です。この2つは、似ているようで意味が異なります。
- 工数:ある作業を終えるのに必要な、作業量そのもの。人数と時間の掛け算で表され、「16時間」「2人日」のように表現する
- 期間:ある作業の開始から終了までの、カレンダー上の長さ。「3日間」「1週間」のように表現する
例えば、「16時間の工数」を持つ作業は、1人が2日間(1日8時間として)かけて行えば期間は2日間になりますが、2人で分担すれば期間は1日に短縮できます。逆に、1人が1日2時間しか作業に充てられない状況であれば、期間は8日間に延びます。
工数と期間を混同すると、「この作業は16時間だから2日で終わる」と決めつけてしまい、実際にはほかの業務と兼務していて1日2時間しか充てられない、という現実を見落とすことがあります。見積もりを立てる際は、まず工数を見積もり、そのうえで「誰が」「1日に何時間充てられるか」を確認してから、期間に変換するという順序を意識してください。
💡 ポイント 「3日でできます」という返事を受け取ったときは、「それは工数として3日分なのか、それともほかの業務と兼務しながらの期間として3日なのか」を確認する習慣をつけましょう。この2つを区別するだけで、見積もりの精度が大きく変わります。
工数から期間へ変換する際に見落とされやすいのが、「稼働率」です。稼働率とは、1日の勤務時間のうち、そのプロジェクトの作業にどれだけの時間を充てられるかの割合を指します。例えば、ほかの定常業務と兼務しているメンバーの稼働率が50%であれば、1日8時間勤務のうち、実際にプロジェクトの作業に充てられるのは4時間程度です。16時間の工数を持つ作業を、稼働率50%のメンバーが担当する場合、期間は16時間÷4時間で4日間になります。稼働率を確認せずに「1人でやるなら2日」と見積もってしまうと、実際の期間との間に大きなズレが生まれます。見積もりの精度を上げるには、工数の見積もりと同じくらい、担当者の稼働率を確認することが重要です。
まとめ
このレッスンでは、以下のことを学びました。
- 見積手法には、過去の実績を使う類推見積、単価やパラメータを使うパラメトリック見積、WBSを積み上げるボトムアップ見積の3つがあり、プロジェクトの段階に応じて使い分ける
- 三点見積は、楽観値・最頻値・悲観値の3つを見積もり、PERTの式「(楽観値+4×最頻値+悲観値)÷6」で幅を持たせた見積もりを算出する
- プランニングポーカーは、複数のメンバーが同時にカードを公開して見積もることで、声の大きい人への偏りを防ぐ
- 見積が外れる心理的な要因として、学生症候群・90%症候群・パーキンソンの法則・楽観バイアスの4つがある
- バッファは個々のワークパッケージに分散させるより、プロジェクト全体にまとめて置くほうが機能しやすい
- 工数(作業量)と期間(カレンダー上の長さ)は異なる概念であり、混同しないよう注意する
次のレッスンでは、見積もった作業を時間軸に並べ、依存関係を踏まえてスケジュールを組む技術を扱います。クリティカルパスとガントチャートという、スケジュール管理の中核となる道具を学びます。
確認クイズ
このレッスンの理解度をチェックしましょう。