スケジュール——クリティカルパスとガントチャート
レッスン5:スケジュール——クリティカルパスとガントチャート
このレッスンで学ぶこと
- 依存関係の4種類(FS・SS・FF・SF)とリード・ラグを理解する
- ネットワーク図から最早開始日・最遅開始日を求められる
- クリティカルパスとフロートの考え方を理解する
- ガントチャートを作図し、読み取れるようになる
- マイルストーンの設計方法を把握する
- クラッシングとファストトラッキングという2つの短縮手法を理解する
- 山積みと山崩しの考え方を把握する
レッスン4では、ワークパッケージごとの見積もりを立てる技術を扱いました。今回は、見積もったワークパッケージを時間軸に並べ、依存関係を踏まえてスケジュールを組む技術を学びます。プロジェクトマネジメントの中でも、最も「図」として目に見えやすい部分です。
依存関係の4種類——作業のつながり方
ワークパッケージは、それぞれ独立して進むわけではありません。「デザイン案が完成してから、印刷会社に発注する」というように、ある作業の完了や開始が、別の作業に影響を与えます。この関係を「依存関係」と呼びます。
依存関係には、次の4つの種類があります。
- FS(Finish to Start、終了後開始):先行作業が終わってから、後続作業が始まる。最も一般的な依存関係で、「デザイン案の完成」が終わってから「印刷発注」が始まる、という関係
- SS(Start to Start、同時開始):先行作業が始まったら、後続作業も同時に始められる。「会場の装飾準備」が始まったら、「受付準備」も並行して始められる、という関係
- FF(Finish to Finish、同時終了):先行作業が終わるのと同時に、後続作業も終わる必要がある。「原稿の最終確認」が終わるのと同時に「印刷データの入稿」を終える、という関係
- SF(Start to Finish、開始後終了):後続作業は、先行作業が始まるまでに終わっている必要がある。実務での使用頻度は低いものの、「新システムの稼働開始」までに「旧システムの運用」を終える、という関係が該当する
4種類のうち、実務で圧倒的に多く使われるのはFS(終了後開始)です。多くのプロジェクトでは、FSだけを意識しておけば、大部分のスケジュールを組み立てられます。
| 依存関係 | 読み方 | 意味 |
|---|---|---|
| FS | 終了後開始 | 先行作業が終わってから、後続作業が始まる |
| SS | 同時開始 | 先行作業の開始と同時に、後続作業も開始できる |
| FF | 同時終了 | 先行作業の終了と同時に、後続作業も終える必要がある |
| SF | 開始後終了 | 後続作業は、先行作業の開始までに終えている必要がある |
リードとラグ——依存関係に加える時間差
依存関係には、単純な「終わったら始める」だけでなく、時間的な余白や重なりを持たせることもあります。この調整幅を「リード」と「ラグ」と呼びます。
ラグは、先行作業が終わってから、後続作業が始まるまでの「待ち時間」を指します。例えば、「印刷物の校正確認」が終わってから、印刷会社での「印刷作業」が始まるまでに、印刷会社の受注処理で2日かかる場合、この2日間がラグです。
リードは、逆に先行作業が終わる前に、後続作業を前倒しで始める「重なり」を指します。例えば、「案内状の最終デザイン確認」が完全に終わる3日前から、「宛名リストの準備」を並行して始められる場合、この3日間の重なりがリードです。
依存関係にリードやラグを加えることで、単純な「一列に並んだ工程」よりも、現実に近いスケジュールを組み立てられます。
📝 補足 リードとラグは、次に説明するネットワーク図の中で、矢印に添える形で表現します。多くのプロジェクト管理ツールでは、依存関係の設定時に「FS + 2日」のように、依存関係の種類と日数をあわせて入力できます。
ネットワーク図と最早・最遅
依存関係が整理できたら、それをもとに「ネットワーク図」を作成します。ネットワーク図は、各ワークパッケージを矢印でつなぎ、プロジェクト全体の作業の流れを図示したものです。
ネットワーク図を使うと、それぞれのワークパッケージについて、「最も早く開始できる日(最早開始日)」と「これ以上遅らせるとプロジェクト全体の完了に影響する、最も遅い開始日(最遅開始日)」を計算できます。最早開始日は、先行するすべての作業が終わるタイミングを起点に、前から順番に計算します(フォワードパス)。最遅開始日は、プロジェクト全体の完了予定日を起点に、後ろから逆算します(バックワードパス)。
新商品発売プロジェクトの一部を単純化して、ネットワーク図で示すと、次のようになります。
flowchart LR
A[デザイン案作成<br/>3日] --> B[印刷発注<br/>1日]
B --> C[印刷<br/>5日]
A --> D[法務確認<br/>2日]
D --> B
C --> E[納品<br/>1日]
図1:デザイン案作成が終わると、印刷発注と法務確認の両方が始められます。印刷発注は、印刷発注そのものの前提であるデザイン案作成に加え、法務確認も終わっていなければ着手できません。この図から、印刷発注は「デザイン案作成の直後」ではなく「法務確認の完了を待つ」タイミングで始まる可能性があることがわかります。
この図が示すとおり、複数の経路がある場合、それぞれの経路にかかる日数の合計が異なります。「デザイン案作成→印刷発注→印刷→納品」の経路は、3+1+5+1で10日です。一方、「デザイン案作成→法務確認→印刷発注→印刷→納品」の経路は、3+2+1+5+1で12日です。印刷発注は、両方の経路が終わってからでないと着手できないため、プロジェクト全体の所要日数は、より長い経路である12日で決まります。
クリティカルパスとフロート
ネットワーク図の中で、最も日数がかかる経路を「クリティカルパス」と呼びます。先ほどの例では、「デザイン案作成→法務確認→印刷発注→印刷→納品」の12日間の経路が、クリティカルパスにあたります。
クリティカルパスの重要な性質は、この経路上のワークパッケージが1日でも遅れると、プロジェクト全体の完了日がそのまま1日遅れる、という点です。一方、クリティカルパス上にないワークパッケージには、「フロート(余裕時間)」と呼ばれる、遅れても全体に影響しない猶予があります。
先ほどの例で言えば、「印刷発注」は、デザイン案作成からの経路(3+1=4日の時点で着手可能)と、法務確認を経由する経路(3+2=5日の時点で着手可能)のうち、遅いほうの5日目に合わせて着手する必要があります。デザイン案作成が終わった直後の4日目時点では、まだ法務確認が終わっていないため、印刷発注はどのみち始められません。つまり、デザイン案作成から印刷発注までの経路には、1日のフロートがあることになります。
💡 ポイント 中核メッセージの1つ「クリティカルパス上にない遅れは、遅れではない」は、このフロートの存在に基づきます。フロートのある作業が多少遅れても、フロートの範囲内であれば、プロジェクト全体には影響しません。逆に、クリティカルパス上の作業は、1日の遅れも即座に全体に波及するため、優先して目を配る必要があります。
ガントチャートの作図と読み方
ネットワーク図が「作業のつながり」を示す図であるのに対し、「ガントチャート」は、各作業を時間軸に沿った横棒で表現し、スケジュール全体を視覚的に把握するための図です。1910年代にヘンリー・ガントが考案したことに由来する名前で、現在でもプロジェクトのスケジュール管理で最も広く使われている図の1つです。
先ほどの新商品発売プロジェクトの一部を、ガントチャートで表すと、次のようになります。
gantt
title 新商品発売プロジェクト(一部)
dateFormat YYYY-MM-DD
section 準備
デザイン案作成 :a1, 2026-09-01, 3d
法務確認 :a2, after a1, 2d
印刷発注 :a3, after a2, 1d
section 製造
印刷 :a4, after a3, 5d
納品 :a5, after a4, 1d
図2:横軸が日付、各行がワークパッケージを表します。棒の長さが作業の期間を、棒の位置が開始日と終了日を示します。デザイン案作成が終わってから法務確認が始まり、法務確認が終わってから印刷発注が始まる、という依存関係が、棒の並びからそのまま読み取れます。
ガントチャートを読むときのポイントは、単に「いつ何をやるか」を確認するだけでなく、「棒と棒のつながり方」に注目することです。棒と棒の間に隙間があれば、そこにフロート(余裕)があることを示し、隙間なく詰まっていれば、その経路がクリティカルパスに近いことを示唆します。
⚠️ 注意 ガントチャートは、依存関係を表現できる一方で、ワークパッケージの数が多くなると、図全体が縦に長くなり、全体像をつかみにくくなります。実務では、上位の成果物レベルではガントチャートで概要を示し、詳細なワークパッケージレベルはレッスン3で扱った表形式のWBSと合わせて管理する、という使い分けが有効です。
マイルストーン設計
ガントチャートの中に、期間を持たない「点」として配置されるのが「マイルストーン」です。マイルストーンは、作業ではなく、プロジェクトの重要な節目や、確認すべきタイミングを示す印です。「デザイン案の確定」「法務確認の完了」「印刷データの入稿」「発売日」といった、プロジェクトの進行を測るうえで重要な区切りに置きます。
マイルストーンを設計する際のポイントは、次の3つです。
- 数を絞る:マイルストーンを増やしすぎると、本当に重要な節目が埋もれてしまいます。プロジェクト全体で5〜10個程度に絞るのが目安です
- 検証可能な状態で置く:「順調に進んでいる」のような曖昧な状態ではなく、「デザイン案について部門長の承認を得た」のように、達成したかどうかを客観的に判断できる状態で設定します
- クリティカルパス上の節目を優先する:クリティカルパス上のワークパッケージの完了地点を、優先的にマイルストーンとして設定すると、遅れの兆候をいち早く察知できます
短縮の2手法——クラッシングとファストトラッキング
プロジェクトの途中で、「もっと早く終わらせられないか」という要望が上がることがあります。クリティカルパスを短縮する代表的な方法として、次の2つがあります。
クラッシングは、クリティカルパス上の作業に、追加の人員やリソースを投入して、作業期間そのものを短くする方法です。「印刷」の作業に、通常1台の印刷機で行うところを2台に増やし、期間を5日から3日に短縮する、というような対応が該当します。クラッシングは、追加のコストがかかる代わりに、依存関係の構造そのものは変えません。
ファストトラッキングは、本来は順番に行うはずの作業を、一部重ねて並行して進める方法です。先ほど紹介した「リード」を活用し、「法務確認が完全に終わる前に、印刷発注の準備を並行して始める」というような対応が該当します。ファストトラッキングは、追加のコストをかけずに期間を短縮できる可能性がある一方、本来は前工程の結果を踏まえて行うはずの作業を並行させるため、手戻りのリスクが高まります。
| 手法 | 方法 | メリット | デメリット |
|---|---|---|---|
| クラッシング | 人員・リソースを追加投入する | 依存関係の構造を変えずに済む | 追加コストがかかる |
| ファストトラッキング | 作業を並行させる | 追加コストなしで短縮できる場合がある | 手戻りのリスクが高まる |
🔰 初学者の方へ クラッシングもファストトラッキングも、クリティカルパス上の作業にのみ効果があります。クリティカルパス上にない作業(フロートのある作業)をいくら急いでも、プロジェクト全体の完了日は早まりません。短縮を検討する際は、必ずクリティカルパスを確認してから着手する作業を選んでください。
山積みと山崩し
スケジュールを組む際、もう1つ見落としがちなのが、「同じ担当者に、複数の作業が同じ時期に集中していないか」という視点です。ガントチャート上では別々の作業として問題なく並んでいても、実際に担当する人が同じであれば、その人は同時に2つの作業をこなすことはできません。
この「ある期間に、特定の担当者へ作業が偏って積み上がっている状態」を確認する作業を「山積み(リソースの積み上げ)」と呼びます。山積みの確認は、横軸を時間、縦軸を担当者ごとの作業量として棒グラフのように可視化すると、負荷の偏りが一目でわかります。
山積みによって特定の担当者に負荷が集中していることがわかったら、それを解消する調整を行います。この調整を「山崩し」と呼びます。山崩しの具体的な方法には、次のようなものがあります。
- 担当を分散させる:同じ作業を、別のメンバーに一部任せる
- 時期をずらす:フロートのある作業を、負荷の少ない時期に移動させる
- 順序を入れ替える:依存関係を崩さない範囲で、作業の着手順を調整する
山積みと山崩しは、クリティカルパスの計算だけでは見えてこない、「人」というリソースの制約を、スケジュールに反映させるための重要な確認作業です。
📝 補足 山積みと山崩しは、担当者の割り当てそのものを扱う技術であり、レッスン1で扱った「人と権限の側面」に踏み込む一歩手前の領域です。本コースでは、負荷が偏っていないかを表やグラフで可視化する技術に絞って扱います。
講師の現場メモ:「クリティカルパスを見誤った1週間」
私(但馬)がプラントエンジニアリング会社で工程管理を担当していた頃、ある改修工事で、こんな出来事がありました。工程表の上では、外部の配管工事業者が担当する作業に、3日間の遅れが出ていました。現場の担当者は「配管工事が遅れているので、全体も3日遅れます」と報告してきました。
私はその報告を鵜呑みにせず、まずネットワーク図を確認しました。すると、配管工事の経路には、もともと4日間のフロートがあったことがわかりました。配管工事の3日間の遅れは、フロートの範囲内に収まっており、実はプロジェクト全体の完了日には影響していなかったのです。一方で、同じ時期に、別の経路にある電気設備工事のほうが、わずか1日の遅れであるにもかかわらず、その経路にはフロートがまったくない、つまりクリティカルパス上にありました。
もし私が配管工事の3日間の遅れだけに注目し、電気設備工事の1日の遅れを見過ごしていたら、対応の優先順位を完全に取り違えていたことになります。実際には、配管工事の遅れは経過観察で十分であり、電気設備工事の遅れにこそ、追加の人員を投入するクラッシングで即座に対応する必要がありました。
このとき私が痛感したのは、「遅れの大きさ」と「プロジェクト全体への影響の大きさ」は、必ずしも一致しないという事実です。現場からの報告は、しばしば「遅れている日数」だけを伝えてきます。しかし、その遅れがクリティカルパス上にあるかどうかを確認しない限り、本当に手を打つべき箇所を見誤ります。私が本コースで「クリティカルパス上にない遅れは、遅れではない」と繰り返し伝えているのは、この経験があるからです。工程表を作ったら、それで終わりではありません。遅れの報告を受けるたびに、「それはクリティカルパス上の遅れか」を確認する習慣こそが、プロジェクトを計画どおりに導く力になります。
まとめ
このレッスンでは、以下のことを学びました。
- 依存関係にはFS(終了後開始)・SS(同時開始)・FF(同時終了)・SF(開始後終了)の4種類があり、実務ではFSが最も多く使われる
- リードとラグは、依存関係に加える時間的な重なりと待ち時間である
- ネットワーク図から、最早開始日と最遅開始日を計算できる
- 最も日数のかかる経路をクリティカルパスと呼び、この経路上の遅れはそのままプロジェクト全体の遅れになる。クリティカルパス上にない作業にはフロート(余裕)がある
- ガントチャートは、各作業を時間軸の横棒で表し、スケジュール全体を視覚的に把握する図である
- マイルストーンは、数を絞り、検証可能な状態で、クリティカルパス上の節目を優先して設計する
- 短縮の手法には、追加リソースを投入するクラッシングと、作業を並行させるファストトラッキングがある
- 山積みは特定の担当者への作業の偏りを確認する作業、山崩しはその偏りを解消する調整である
次のレッスンでは、プロジェクトの進行を脅かす「リスク」と、すでに起きてしまった「課題」を区別し、それぞれを表で管理する技術を扱います。
確認クイズ
このレッスンの理解度をチェックしましょう。