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スキルアップカレッジ

カネ①:資金繰り——利益が出ていても会社は潰れる

レッスン2:カネ①:資金繰り——利益が出ていても会社は潰れる

このレッスンで学ぶこと

  • 利益と現金がずれる 3 つの理由(売掛金・在庫・支払サイト)
  • 資金繰り表の作り方(実績 3 か月と予定 6 か月)と、日繰り表を作るべき局面
  • 賞与・納税・決算・季節変動という 4 つの資金繰りの山と、手元資金の目安
  • 入金が遅れたときに最初にやるべきこと

前回のレッスンでは、中小企業が大企業の縮小版でもスタートアップでもない、独自の設計原理を持つ経営体であることを学びました。株主と代表取締役と個人保証人が同一人物であるという構造、そして中核メッセージの第 1「中小企業は第 3 の生き物である」を確認しました。今回は、中核メッセージの第 2「利益ではなく現金が会社を生かす」を掘り下げます。

「黒字倒産」はなぜ起きるのか

決算書が黒字であることと、会社が存続できることは、同じではありません。この事実を、多くの経営者は頭では理解していても、実感として持てていません。利益が出ている月は「経営は順調だ」と感じやすく、資金繰りへの警戒がゆるみがちだからです。

会計上の利益は、売上が計上された時点で発生します。しかし、その売上に対応する現金が実際に会社の口座に入るのは、多くの場合、数週間から数か月先です。この「利益計上のタイミング」と「現金が動くタイミング」のずれこそが、黒字であっても資金繰りに窮する、いわゆる黒字倒産の正体です。

私が信用金庫で融資担当をしていた時期、決算書の損益計算書だけを見て安心し、資金繰り表を作っていない社長に何人も出会いました。損益計算書は「稼ぐ力」を映しますが、資金繰り表は「今この瞬間、会社が現金でどれだけ持ちこたえられるか」を映します。両者は異なる問いに答える、別の道具です。

💡 ポイント 利益は「会社の稼ぐ力」を示す指標であり、現金は「会社が今日を生き延びられるか」を示す指標です。中小企業の経営では、後者への意識を切らさないことが、何より重要です。

なお、貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書といった財務諸表そのものの詳しい読み方は、本コースの範囲外です。財務諸表を専門に扱う入門コースに譲り、本コースでは、資金繰りという「日々の現金の管理」に的を絞って解説します。


利益と現金がずれる 3 つの理由

利益と現金のずれには、主に 3 つの原因があります。順番に見ていきます。

第 1 は、売掛金です。商品やサービスを提供した時点で売上は計上されますが、代金の入金は、取引先との契約条件に従って後日になります。例えば、月末締め翌月末払いの取引先が多い会社では、今月計上した売上の現金が実際に入ってくるのは、翌月末です。売上が伸びている会社ほど、この「まだ入金されていない売上」である売掛金が積み上がり、帳簿上は好調でも手元の現金は増えないという状態が起こりやすくなります。

第 2 は、在庫です。商品を仕入れる、または製造するためには、先に現金を払う必要があります。仕入れた商品が売れて、さらにその代金が入金されるまでには、相応の時間がかかります。売れ行きが良い会社ほど、欠品を防ぐために在庫を厚めに持とうとする傾向があり、これも現金を先に押し出す要因になります。逆に、売れ残った在庫は、現金化されないまま倉庫に眠り続けます。

第 3 は、支払サイトです。仕入先への支払いと、得意先からの入金は、それぞれ別々の条件で契約されています。仕入先への支払いが早く、得意先からの入金が遅い会社は、支払いが入金に先行する期間が長くなり、その間の運転資金を自己資金や借入で埋める必要があります。逆に、支払いが遅く入金が早い会社は、資金繰りにゆとりが生まれやすくなります。

flowchart LR
  Sale[売上計上] --> AR[売掛金として計上]
  AR -->|入金サイト分の遅れ| Cash[現金として入金]
  Buy[仕入・製造] --> Stock[在庫として保有]
  Stock -->|販売サイト分の遅れ| Sale
  Pay[仕入先への支払い] -.->|支払サイトが早いほど資金負担増| Cash

図1:利益と現金がずれる構造。売上計上から現金化まで、売掛金・在庫・支払サイトの 3 つの段階で時間差が生まれる

🔰 初学者の方へ 「支払サイト」とは、商品やサービスの代金を、取引が発生してから何日後、または何か月後に支払う、または受け取るかという条件のことです。「月末締め翌月末払い」であれば、支払サイトはおおむね 30 日から 60 日です。

3 つの原因は、それぞれ独立して発生することもあれば、同時に重なることもあります。売上が伸びている時期ほど、売掛金と在庫がともに増加し、資金繰りが最も苦しくなりやすい局面を迎えます。「業績が良いのに現金が足りない」という感覚は、多くの場合、この 3 つのずれが重なって起きています。

具体的な数字で考えてみます。月商 2,000 万円、売上原価率 70 %の卸売業の会社を例にします。仕入先への支払サイトが 30 日、得意先からの入金サイトが 60 日だとすると、仕入代金 1,400 万円を支払ってから、対応する売上 2,000 万円が実際に入金されるまでに、およそ 30 日の差が生まれます。この「立て替えている 30 日分」に相当する運転資金は、月商が伸びるほど比例して膨らみます。売上が順調に拡大している会社ほど、この立て替え額の増加に気づきにくく、資金繰りの悪化が決算書の数字よりも先に現場で表面化します。

📝 補足 この「立て替えている期間の資金」を運転資金と呼びます。運転資金は、売上が伸びるほど、そして支払サイトと入金サイトの差が大きいほど、必要な額が増えていきます。運転資金の増加分を見込まずに資金繰り表を作ると、成長期の会社ほど資金不足に驚くことになります。


資金繰り表の作り方——実績 3 か月と予定 6 か月

資金繰りを管理する基本の道具が、資金繰り表です。損益計算書が「利益」を示すのに対し、資金繰り表は「現金の入りと出」だけを、実際の動きに沿って記録・予測する表です。

資金繰り表の基本構成は、実績部分と予定部分の2つで構成されます。実績部分では、直近 3 か月程度の実際の入出金を、月ごとに記録します。売上入金、仕入支払、人件費、家賃、借入返済、税金の支払いなど、現金が動いた項目をすべて洗い出します。実績を積み重ねることで、自社の資金の動き方のクセが見えてきます。

予定部分では、今後 6 か月程度の入出金を見込みで記入します。受注済みの売上と、その入金予定時期、支払予定の仕入や経費、返済予定の借入元金と利息を、わかっている範囲で埋めていきます。見込みの数字は、確定情報に近いものと、不確実なものが混在しますが、まずは埋められる範囲で作成し、月が進むごとに実績で置き換えていきます。

  • 実績 3 か月:直近の入出金の実績を記録し、資金の動き方のクセを把握する
  • 予定 6 か月:今後の入出金の見込みを記入し、資金がショートしそうな月を事前に発見する

📝 補足 実績を 3 か月、予定を 6 か月とする組み合わせは、あくまで一般的な目安です。季節変動が大きい業種では、予定期間をさらに先まで延ばして作成する会社もあります。自社の資金繰りの波の大きさに応じて、期間は調整して構いません。

資金繰り表を作る最大の目的は、「何月にいくら足りなくなりそうか」を事前に把握することです。資金がショートしてから慌てて銀行に駆け込むのと、2 か月前から「このままでは足りなくなる」とわかった状態で相談するのとでは、銀行側の受け止め方も、選べる対応策の幅もまったく異なります。資金繰り表は、社長が未来の資金繰りを先回りして管理するための、最も基本的な経営ツールです。

⚠️ 注意 資金繰り表は、一度作って終わりにするものではありません。月が変わるごとに実績を反映し、予定を1か月ずつ先送りしながら、常に「今後 6 か月分の見通し」が手元にある状態を保つことが重要です。

簡略化した資金繰り表のイメージを示します。単位は万円です。

項目 4月(実績) 5月(実績) 6月(実績) 7月(予定) 8月(予定)
前月繰越 800 750 820 900 300
入金合計 1,900 2,050 2,100 1,950 2,000
支払合計 1,950 1,980 2,020 2,550 2,050
翌月繰越 750 820 900 300 250

この表では、7月の支払合計だけが突出して大きくなっています。夏季賞与の支給と、消費税の中間納付が同じ月に重なったためです。この表を作らずに月次の損益だけを見ていると、7月の資金繰りが厳しくなることに気づくのは、実際にその月を迎えてからになります。表を作っておけば、2か月前の5月の時点で「7月は繰越残高が大きく減る」とわかり、6月のうちに短期の借入を相談する、入金を早めてもらえないか得意先に相談するといった手を打つ余裕が生まれます。


日繰り表を作るべき局面

月単位の資金繰り表だけでは足りない局面もあります。それが、日繰り表が必要になる場面です。日繰り表とは、月単位ではなく、日単位で入出金を記録・予測する表です。

日繰り表が必要になるのは、主に資金繰りが逼迫している時期です。月次の資金繰り表では「今月は現金がプラスで着地する見込み」であっても、月の途中、特定の日に支払いが集中し、その日だけ一時的に手元資金がマイナスになる場合があります。給与の支払日と、大口の仕入支払日が同じ週に重なり、かつ主要な得意先からの入金がその週にない、といった状況です。

日繰り表を作ることで、月内のどの日に資金が最も薄くなるかを可視化できます。薄くなる日が事前にわかれば、その日までに入金を早めてもらえないか得意先に相談する、一時的に短期の借入で乗り切る、支払いを数日ずらしてもらえないか仕入先に相談するといった対応を、余裕を持って準備できます。

⚠️ 注意 日繰り表は、常時作成する必要はありません。手元資金に十分な余裕がある時期は、月次の資金繰り表で足ります。手元資金が薄くなってきた、返済や納税が重なる月が近づいている、といった局面に限って、日繰り表に切り替えるのが実務的な使い方です。


手元資金は月商の何か月分あればよいか

「手元にどれくらいの現金を持っておけば安心か」は、多くの社長が抱く疑問です。厳密な正解があるわけではありませんが、一般的な目安として語られるのは、月商の 1 か月分から 3 か月分程度です。

業種や事業の性質によって、必要な手元資金の水準は変わります。売掛金の回収サイトが長い業種、季節による売上変動が大きい業種、大口の設備投資を控えている会社では、より厚めの手元資金を持つ必要があります。逆に、現金商売に近く、売上のほとんどが即日入金される業種であれば、必要な手元資金は相対的に少なくて済みます。

手元資金が薄い状態が続くと、突発的な出費や、取引先からの入金遅延といった不測の事態に対応できず、経営の自由度が大きく損なわれます。逆に、必要以上に現金を積み上げすぎることも、事業への再投資の機会を逃すことにつながるため、一概に「多ければ多いほど良い」とも言えません。自社の資金繰りの波の大きさを踏まえて、無理なく耐えられる水準を見極めることが実務上のポイントです。

例えば、月商 2,000 万円の会社であれば、目安となる手元資金は 2,000 万円から 6,000 万円の範囲に収まります。この会社が先ほどの資金繰り表の例のように、7月に繰越残高が 300 万円まで落ち込む見通しであれば、目安の下限である 2,000 万円にすら遠く及びません。目安の数字をそのまま鵜呑みにするのではなく、自社の資金繰り表から見えてきた最も厳しい月の繰越残高と、目安の水準を照らし合わせて、どこまで手元資金を積み増す必要があるかを具体的に判断する姿勢が実務では役立ちます。

📖 もっと詳しく 手元資金の適正水準を考える際は、過去に資金繰りが最も苦しかった月の資金不足額を振り返ってみることも有効です。その月をしのぐために、いくらの現金があれば安心できたかを逆算すると、自社にとって現実的な目安が見えてきます。


資金繰りの 4 つの山——賞与・納税・決算・季節変動

多くの会社では、1 年を通じて資金繰りが特に苦しくなる時期が、ある程度パターン化しています。代表的な 4 つの山を押さえておくと、資金繰り表の予定部分を作る際の見落としを減らせます。

第 1 の山は、賞与です。夏季と冬季に賞与を支給する会社では、その月に人件費が通常月の数倍に膨らみます。賞与の支給額と時期は、事前に確定していることが多いため、資金繰り表への反映漏れがないよう注意が必要です。

第 2 の山は、納税です。法人税、消費税、事業税、固定資産税など、会社が負担する税金には、それぞれ納付時期が決まっています。とくに決算後の法人税と消費税の納付は、まとまった金額になりやすく、資金繰りへの影響が大きい山です。

第 3 の山は、決算そのものに伴う支払いです。決算賞与や、翌期に向けた在庫の一括仕入れなど、決算のタイミングで発生する特有の支出があります。会社によっては、この時期に大型の設備投資を行うこともあり、複数の支出が重なりやすい局面です。

第 4 の山は、季節変動です。夏物や冬物を扱う業種、観光や行事に関連する業種など、売上そのものが季節によって大きく変動する事業では、繁忙期に向けた仕入れや人員増強のための支出が、売上の入金より先行して発生します。

  • 賞与の山:夏季・冬季の賞与支給月
  • 納税の山:法人税・消費税・事業税・固定資産税の納付月
  • 決算の山:決算賞与、在庫の一括仕入れ、設備投資が重なりやすい時期
  • 季節変動の山:繁忙期に向けた仕入れや人員増強の先行支出

💡 ポイント 4 つの山は、いずれも「毎年ほぼ同じ時期に訪れる、予測可能な資金需要」です。資金繰り表の予定部分にあらかじめ組み込んでおけば、山が来るたびに慌てる事態を避けられます。


入金が遅れたときに最初にやること

資金繰り表を丁寧に作っていても、得意先からの入金が予定どおりに来ないことは起こります。入金の遅れに気づいたとき、最初にやるべきことは、原因の確認です。

まず、得意先に事務的な問い合わせをします。入金遅延の多くは、請求書の記載ミス、担当者の確認漏れ、支払処理のシステム上の遅延など、単純な事務的理由によるものです。感情的にならず、「請求書は届いているか」「支払い手続きは進んでいるか」を事務的に確認するだけで、多くの場合は数日で解決します。

事務的な理由ではなく、得意先自身の資金繰りが厳しいことが遅延の背景にある場合は、対応の性質が変わります。得意先の経営状態そのものに問題がある可能性があるため、今後の取引条件の見直しや、ほかの取引先の入金状況にも同様の兆候がないかを確認する必要があります。

同時に、自社の資金繰り表を更新し、入金遅れが自社の資金繰りにどの程度の影響を与えるかを確認します。数日から 1 週間程度の遅れであれば、手元資金の範囲で吸収できることが多いですが、遅れが長引く、または金額が大きい場合は、メインバンクに早めに状況を伝えることも選択肢に入ります。銀行が決算書のどこを見ているか、試算表の提出がなぜ関係の質に効くのかについては、次のレッスンで詳しく扱います。

⚠️ 注意 入金の遅れに気づいてから対応を始めるのではなく、資金繰り表で「入金予定日」を明確に管理しておくことが前提になります。予定日を過ぎて数日たってから気づく、という事態そのものを防ぐ仕組みが、日々の資金繰り管理の土台です。


講師の現場メモ

信用金庫で融資担当をしていた頃、忘れられない会社があります。地域で建築資材を扱う卸売業の会社で、決算書は 3 期連続で黒字、利益率も業界平均を上回っていました。数字だけを見れば、何の懸念もない優良企業に見えました。

ところがある年、その会社の社長から「来月の給与の支払いが厳しいかもしれない」という相談を受けました。決算書は黒字なのに、なぜ給与が払えなくなりそうなのか。実際に資金繰りの状況を一緒に整理してみると、原因は明確でした。主要な得意先が数社、支払サイトを従来の 60 日から 90 日に一方的に延長していたのです。一方で、その会社自身は仕入先への支払いを従来どおり 30 日で続けていました。売上は伸びていたため、決算書上の利益は増え続けていましたが、その裏で、入金より先に支払いが発生する期間がじわじわと長くなっていたのです。

この会社の社長は、決算書の利益ばかりを見ていて、資金繰り表を作っていませんでした。得意先ごとの支払サイトの変化に気づいたのも、実際に資金が足りなくなる寸前でした。私はこのとき、短期のつなぎ融資で当面をしのぎつつ、資金繰り表を月次で作成する体制を一緒に整えました。半年後、社長は「利益と現金は別物だと、体で理解した」と話してくれました。

この経験から私が繰り返し社長にお伝えしているのは、「決算書は年に 1 回、資金繰り表は毎月」という頻度の違いです。決算書は過去 1 年の成績表であり、資金繰り表は今後の見通しを映す地図です。成績が良いことと、地図を持たずに歩いて大丈夫なことは、まったく別の話です。経営相談の現場でも、資金繰りに窮して駆け込んでくる会社の多くが、実は決算書上は黒字であるという事実に、何度も向き合ってきました。


まとめ

このレッスンでは、以下のことを学びました。

  • 利益は「稼ぐ力」を示し、現金は「今日を生き延びられるか」を示す、別の指標である
  • 利益と現金は、売掛金・在庫・支払サイトという 3 つの理由でずれが生じる
  • 資金繰り表は実績 3 か月と予定 6 か月を組み合わせて作り、資金ショートを事前に発見する道具である
  • 資金繰りが逼迫する局面では、日単位で管理する日繰り表への切り替えが有効である
  • 手元資金は月商の 1 か月分から 3 か月分が一般的な目安だが、業種によって適正水準は変わる
  • 賞与・納税・決算・季節変動という 4 つの山を、資金繰り表の予定部分にあらかじめ組み込んでおく
  • 入金が遅れたときは、まず事務的な原因を確認し、自社の資金繰りへの影響を把握したうえで対応する

次のレッスンでは、中核メッセージの第 3「決算書は税務署ではなく銀行のために作る」を掘り下げ、銀行が決算書のどこを見ているかを学びます。


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