カネ②:銀行は決算書のどこを見ているか
レッスン3:カネ②:銀行は決算書のどこを見ているか
このレッスンで学ぶこと
- 決算書は税務署ではなく銀行のために作るという発想の転換
- 債務者区分という考え方と、格付を左右する主な材料
- 実質債務超過の判定で見られる役員貸付金・不良在庫・仮払金
- プロパー融資と信用保証協会付き融資の違い、事業性評価という考え方
前回のレッスンでは、利益と現金がずれる理由と、資金繰り表の作り方を学びました。資金繰りは、会社が自分自身の現金の動きを把握するための道具です。今回は視点を変え、会社の外側にいる銀行が、決算書のどこをどう見ているのかを扱います。中核メッセージの第 3「決算書は税務署ではなく銀行のために作る」を掘り下げていきます。
決算書は誰のために作るのか
多くの社長にとって、決算書を作る一番の目的は、税務署への申告です。顧問税理士に依頼して決算をまとめ、期限までに申告する。この作業自体は法律で定められた義務であり、避けて通れません。
しかし、決算書には、税務申告以外にもう 1 つ大きな役割があります。それは、銀行に自社の実力を伝えるための資料としての役割です。融資担当として決算書を査定してきた立場から言えば、社長が「税務署のために作った決算書」と「銀行に評価されることを意識して作った決算書」は、内容そのものは同じでも、銀行から見た印象がまったく違います。
税務署への申告では、利益をできるだけ小さく見せたいという心理が働きがちです。経費を漏れなく計上し、税負担を抑えることは、正当な経営判断です。ところが、その結果として利益が薄く見える決算書は、銀行の目には「稼ぐ力が弱い会社」として映ってしまいます。節税と、銀行からの評価という 2 つの目的は、しばしば綱引きの関係にあります。
💡 ポイント 決算書は 1 種類しか作れません。だからこそ、節税だけを優先するのではなく、「この数字を銀行の担当者が見たらどう評価するか」という視点を、決算のたびに持つことが重要です。
この視点を持つかどうかで、何が変わるのでしょうか。次の章から、銀行が実際にどのような枠組みで会社を評価しているのかを、順番に見ていきます。
債務者区分という考え方
銀行は、融資先の会社を内部的にいくつかの区分に分けて管理しています。この区分を債務者区分と呼びます。金融庁の検査マニュアルの考え方にもとづいて発展してきた枠組みで、会社の財務状況や返済能力に応じて、正常先、要注意先、破綻懸念先、実質破綻先、破綻先といった段階に分類されます。
このレッスンで押さえておきたいのは、個々の区分の細かい認定基準ではなく、「区分が下がると何が起きるか」という実務上の影響です。区分が正常先から要注意先に下がると、銀行は新規融資により慎重になり、既存の融資の条件を見直す可能性が出てきます。さらに区分が下がると、新規融資はほぼ止まり、既存融資の回収を優先する姿勢に変わっていきます。
🔰 初学者の方へ 「債務者区分」という言葉を、社長自身が日常的に意識する必要はありません。大切なのは、銀行が会社を「今のところ問題ない先」と見ているか、「注意が必要な先」と見ているかという、大きな方向性を把握しておくことです。区分が下がるサインに早く気づくほど、打てる手も多く残ります。
区分は、一度下がったら固定されるものではありません。業績の回復や、財務体質の改善によって、区分が引き上げられることもあります。むしろ、銀行にとって重要なのは「今の区分がどこか」よりも、「区分がどちらの方向に動いているか」です。社長がこの動きを意識しておくことは、次に説明する格付の考え方とも深く関わっています。
格付を左右する主な材料
債務者区分の判定にあたって、銀行は会社のさまざまな数字を点数化し、格付という形で評価します。格付の詳細な計算式は銀行ごとに異なり、外部には公開されていませんが、共通して重視される材料はおおむね決まっています。ここでは代表的な 3 つを取り上げます。
第 1 は、自己資本比率です。会社の総資産のうち、返済不要の自己資本がどれだけの割合を占めるかを示す数字です。自己資本比率が高いほど、借入への依存度が低く、財務的な体力があると評価されます。逆に、自己資本が薄く、大半を借入でまかなっている会社は、少しの業績悪化でも財務が揺らぎやすいと見られます。
第 2 は、債務償還年数です。会社が現在の稼ぐ力を維持したまま、すべての借入を返済し終えるまでに、何年かかるかを示す指標です。おおまかには、借入の残高を、年間の返済原資となる利益に近い数字で割って計算します。この年数が短いほど、返済能力が高いと評価されます。年数が長引くほど、銀行は「今の借入が身の丈に合っているか」を厳しく見るようになります。
第 3 は、営業利益の継続性です。単年度の利益の額だけでなく、複数年にわたって安定的に利益を出し続けているかが見られます。一時的な資産売却などで単年度だけ利益が膨らんでいる決算書よりも、本業の営業利益が毎年着実に積み上がっている決算書のほうが、銀行からは高く評価されます。
📝 補足 3 つの材料はそれぞれ独立していますが、実際にはつながっています。営業利益が継続的に積み上がれば自己資本も厚くなり、自己資本が厚くなれば債務償還年数も短くなります。本業でしっかり利益を出し続けることが、結局はすべての材料を底上げします。
簡単な数字で、債務償還年数の考え方を確認してみます。ある会社の借入残高が 6,000 万円、年間の返済原資となる利益に近い数字がおおむね 1,000 万円だとすると、債務償還年数はおおむね 6,000 万円÷ 1,000 万円で 6 年です。同じ借入残高でも、年間の利益が 500 万円しかない会社であれば、債務償還年数はおおむね 12 年に伸びます。一般的に、この年数が 10 年を大きく超えてくると、銀行は「今の借入の規模が、会社の稼ぐ力に見合っていないのではないか」という目で見るようになります。逆に、年数が短いほど、追加の融資にも前向きに応じやすくなります。
自己資本比率についても、同じように数字で確認しておきます。総資産が 1 億円、自己資本が 2,000 万円の会社であれば、自己資本比率はおおむね 20 %です。この比率が高い会社ほど、業績が一時的に落ち込んでも財務が揺らぎにくいと評価されます。中小企業の場合、創業から年数が浅いうちは自己資本比率が低くなりやすく、利益を積み重ねて内部留保を厚くしていくことが、比率を引き上げる王道の方法です。
実質債務超過の判定——役員貸付金・不良在庫・仮払金
決算書の貸借対照表が黒字であっても、銀行はそれをそのまま鵜呑みにしません。銀行は、決算書に計上されている資産のうち、実際には回収できない、または価値が乏しいと見られる項目を差し引いて、会社の実質的な財務状況を評価し直します。この作業の結果、帳簿上は資産超過でも、実質的には負債のほうが大きい状態を実質債務超過と呼びます。
実質債務超過の判定で、銀行が特に注意深く見る項目が 3 つあります。
第 1 は、役員貸付金です。レッスン 4 で改めて詳しく扱いますが、会社から社長個人へお金が流出している状態を示す勘定科目で、銀行は「回収の見込みが乏しい資産」として、実質的な資産から除外して評価することがあります。
第 2 は、不良在庫です。帳簿上は在庫として計上されていても、実際には売れる見込みがほとんどない古い在庫や、時代遅れになった商品を指します。決算書の数字だけを見れば資産ですが、実態としては価値がほとんどないため、銀行はこうした在庫を割り引いて評価します。
第 3 は、仮払金です。使途が明確でないまま処理された支出を、一時的に資産として計上している状態です。何のための支出か説明できない仮払金が多い会社は、経理の管理が甘いと見られ、決算書全体の信頼性を下げる要因になります。
⚠️ 注意 これらの項目は、いずれも「決算書の見た目を整えるための処理」として発生しやすいものです。しかし、銀行は決算書を鵜呑みにせず、実態を見抜く目を持っています。見た目を良くしようとする小さな処理の積み重ねが、かえって銀行からの評価を下げる結果につながることがあります。
経営相談の現場では、決算書の資産の部に役員貸付金が数百万円単位で計上されたまま、何年も返済されずに残っている会社に、繰り返し出会います。社長に理由を尋ねると、「急な出費があったときに、会社から立て替えただけ」という説明が多く、悪意があるわけではありません。しかし銀行の目には、この積み上がった貸付金は「回収の見込みが薄い資産」と映り、実質的な自己資本から差し引かれてしまいます。決算書の見た目だけを整えようとする対応ではなく、日々のお金の流れそのものを見直すことが、根本的な解決につながります。
実質債務超過と判定されると、新規融資のハードルが大きく上がります。すでに触れた債務者区分にも直結する重い評価であり、日ごろから役員貸付金や不良在庫、仮払金を発生させない経理の習慣が、決算書の実質的な信頼性を守る土台になります。
具体的な数字で確認してみます。ある会社の帳簿上の純資産は 500 万円で、かろうじて資産超過を保っていました。しかし、この会社には役員貸付金が 800 万円、数年間動きのない不良在庫が 600 万円計上されていました。銀行がこれらを回収困難な資産とみなして純資産から差し引くと、500 万円から 1,400 万円を引いた、マイナス 900 万円という実質債務超過の状態が浮かび上がります。帳簿上の数字だけを見ていた社長は、この評価を聞いて初めて、自社の実態を正しく認識しました。この会社のように、帳簿上は黒字に見えても、内訳を精査すると実質的には債務超過という会社は、現場で決して珍しくありません。
プロパー融資と信用保証協会付き融資の違い
中小企業が銀行から融資を受ける方法には、大きく分けて 2 種類あります。プロパー融資と、信用保証協会付き融資です。
プロパー融資は、銀行が自らの判断と責任で、保証をつけずに直接貸し出す融資です。会社が返済できなくなった場合、銀行がそのリスクをすべて負います。そのため、プロパー融資を実行するかどうかの審査は、信用保証協会付き融資に比べて厳しくなる傾向があります。
信用保証協会付き融資は、信用保証協会という公的な機関が、会社の返済を保証する形で行われる融資です。会社が返済できなくなった場合、信用保証協会が銀行に代わって一定割合を弁済します。銀行にとってはリスクが軽減されるため、プロパー融資に比べて融資を受けやすい傾向があります。会社は、信用保証協会に対して保証料を支払う必要があります。
創業間もない会社や、財務基盤がまだ十分でない会社は、信用保証協会付き融資を中心に借入を積み重ねていくことが一般的です。会社の実績が積み上がり、財務内容が安定してくると、銀行はプロパー融資での取引を少しずつ増やしていきます。プロパー融資の割合が高い会社は、それだけ銀行から独自の信用を得ている証拠でもあります。
| 項目 | プロパー融資 | 信用保証協会付き融資 |
|---|---|---|
| リスクの負担者 | 銀行が全額負担 | 信用保証協会が一定割合を負担 |
| 審査の厳しさ | 相対的に厳しい | 相対的に受けやすい |
| 追加コスト | 保証料は不要 | 信用保証協会への保証料が必要 |
| 向いている段階 | 実績が積み上がった会社 | 創業期や財務基盤が発展途上の会社 |
表1:プロパー融資と信用保証協会付き融資の違い。会社の成長段階に応じて、比重が変わっていくのが一般的な流れ
💡 ポイント プロパー融資と信用保証協会付き融資は、どちらか一方を選ぶものではなく、多くの会社が両方を組み合わせて借入をしています。自社の借入のうち、どれだけがプロパー融資かを把握しておくと、銀行からの信用の度合いを測る目安になります。
創業から10年ほどが経過した、ある卸売業の会社の例を紹介します。創業当初の借入は、そのほとんどが信用保証協会付き融資でした。事業が軌道に乗り、毎月の試算表を欠かさず提出する関係をメインバンクと数年かけて築いた結果、少しずつプロパー融資の割合が増えていきました。保証料の負担が軽くなっただけでなく、銀行の担当者が事業の実情を深く理解してくれるようになり、新しい設備投資の相談もスムーズに進むようになったといいます。
事業性評価という考え方
近年、金融機関の融資姿勢として広がっているのが、事業性評価という考え方です。これは、決算書の財務データだけで会社を判断するのではなく、事業の内容や将来性、技術力、取引先との関係といった、数字に表れにくい要素も含めて評価する姿勢を指します。
決算書は、あくまで過去の一定期間の結果をまとめた記録です。財務データだけを見ていると、成長の途上にある会社や、業界特有の事情で一時的に数字が悪化している会社を、正しく評価できないことがあります。事業性評価は、こうした限界を補うために、会社の事業そのものに目を向ける取り組みです。
事業性評価を意識する銀行の担当者は、決算書の数字だけでなく、経営者との対話を重視します。自社の強みは何か、今後どのような市場で戦おうとしているのか、技術やノウハウにどんな独自性があるのかを、社長自身の言葉で説明できるかどうかが、評価の材料になります。
📖 もっと詳しく 事業性評価が広がった背景には、財務データだけに頼った融資判断では、将来性のある会社を見落としてしまうという課題認識があります。社長にとっては、決算書の数字を整えるだけでなく、自社の事業の強みを言葉で説明する準備をしておくことが、これまで以上に大切になっています。
事業性評価を意識した対話の例を紹介します。ある部品加工の会社は、直近の決算書だけを見ると利益率が業界平均をやや下回っていました。しかし、社長が「特定の大手メーカーからしか任されない、精密な加工技術を持っている」「その技術を評価され、新しい取引先からの引き合いが増えている」と具体的に説明したことで、担当者は決算書の数字だけでは見えない将来性を評価に加えました。逆に、同じような技術を持ちながら、それを言葉で説明できない社長は、決算書の数字だけで判断され、実力より低い評価を受けてしまうことがあります。自社の強みを、社内の当たり前としてではなく、外部の人にも伝わる言葉に置き換えておく準備が、事業性評価の恩恵を受けるための第一歩です。
🔰 初学者の方へ 「自社の強み」を言葉にするのが苦手な社長は少なくありません。まずは、既存の得意先から「なぜうちに発注し続けてくれているのか」を直接尋ねてみるとよいでしょう。取引先の視点から見た強みは、社内では気づきにくい、説得力のある言葉のヒントになります。
毎月の試算表を出すことがなぜ効くのか
決算書は年に 1 回のものですが、試算表は月次で作成できる、いわば決算の途中経過を示す書類です。売上や利益、資産や負債の状況を、月単位で確認できます。
毎月の試算表を、求められる前から自主的に銀行へ提出している会社は、銀行からの評価が高まりやすい傾向があります。理由はいくつかあります。
第 1 に、業績の推移をリアルタイムに近い形で銀行が把握できるため、決算を待たずに会社の状況を継続的に確認できます。第 2 に、試算表を定期的に提出する姿勢そのものが、経理の管理体制がしっかりしていることの証明になります。第 3 に、業績が悪化した局面でも、試算表を継続して提出し続けることで、「悪い情報も隠さず開示する会社」という信頼につながります。
⚠️ 注意 試算表の提出は、業績が良いときだけ行うと、かえって不自然に見えます。業績が厳しい月こそ、試算表を出し続ける姿勢が、長期的な信頼関係を築く鍵になります。
試算表の提出を習慣化することは、レッスン 4 で扱う経営者保証の議論にもつながっていきます。銀行との日々の情報のやり取りを丁寧に積み重ねることが、会社の評価を底上げする、地道ながら確実な方法です。
試算表を出す頻度についても触れておきます。多くの会社では、月次で試算表を作成し、翌月の早い段階で銀行に提出するリズムを作っています。決算から半年以上が経過した時点で提出する試算表は、銀行にとって特に価値が高いとされています。決算から時間が経つほど、決算書の数字と現在の実態との差が開いていくため、その空白を埋める試算表の意味が増すためです。逆に、決算直後の試算表は、決算書とほとんど変わらない内容になりがちで、情報としての価値はやや薄くなります。提出のタイミングを工夫するだけでも、同じ試算表がより効果的な情報として受け止められます。
まとめ
このレッスンでは、以下のことを学びました。
- 決算書は税務署への申告だけでなく、銀行に自社の実力を伝える資料としての役割も持つ
- 債務者区分は、区分そのものよりも、区分が上がっているか下がっているかという動きを意識することが実務上重要である
- 格付は、自己資本比率・債務償還年数・営業利益の継続性という材料を中心に評価される
- 実質債務超過の判定では、役員貸付金・不良在庫・仮払金が回収困難な資産として差し引かれる
- プロパー融資は銀行が全額リスクを負う融資、信用保証協会付き融資は信用保証協会がリスクの一部を負う融資である
- 事業性評価は、決算書の数字だけでなく事業の内容や将来性を含めて会社を評価する考え方である
- 毎月の試算表を自主的に提出する姿勢が、銀行からの信頼を積み上げる
次のレッスンでは、中核メッセージの第 4「社長の個人保証は、経営判断の自由度そのもの」を掘り下げ、経営者保証の制度と、社長の財布と会社の財布の境界線を学びます。
確認クイズ
このレッスンの理解度をチェックしましょう。