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スキルアップカレッジ

ネットワークを「階層」で捉える

レッスン1:ネットワークを「階層」で捉える

このレッスンで学ぶこと

  • プロトコルとは何かを、身近な言葉で説明できる
  • TCP/IP の 4 階層と OSI 参照モデルの 7 階層の対応関係を整理できる
  • 回線交換とパケット交換の違いを説明できる
  • パケットとカプセル化の仕組みを、荷物の例えで理解できる
  • 本コースを貫く 6 つの中核メッセージを押さえる

「Wi-Fi につないだのに画面が真っ白のまま」「情報システム部門に電話しても専門用語で説明されて、結局何が起きているのかわからない」——こうした経験がある方は多いはずです。ネットワークは、パソコンやスマートフォンを使う誰にとっても身近な存在です。それでも、「IP アドレス」「DNS」「ルーター」といった言葉が飛び交うと、とたんに遠い世界の話に感じてしまいます。本コースは、そんな方のために書かれています。難しい設定作業や専門的なコマンド操作を覚える必要はありません。必要なのは、1 本の通信がアドレスを打ってから画面が表示されるまでに、どんな旅路をたどるかを知ることです。この旅路を階層で分解できるようになると、つながらないときに自分で当たりをつけられるようになります。

本コースの立ち位置

ネットワークという言葉を扱う学習コースは、ほかにもいくつかあります。あらかじめ、本コースがどこに的を絞るのかを明確にしておきましょう。

暗号化の方式や通信を守る技術、VPN の仕組み、ファイアウォールの種類を体系的に学びたい方には、情報セキュリティ関連の入門コースが適しています。クラウドの上に築かれる論理的なネットワーク構成や負荷分散、配信の最適化を学びたい方は、クラウド関連の入門コースが扱っています。社内ネットワークの設計と運用、アドレスの割り当て設計、無線アクセスポイントの配置まで踏み込みたい方は、情シス関連の入門コースの守備範囲です。通信事業者の産業構造や料金制度、移動通信の世代について知りたい方は、通信・メディア業界関連の入門コースが対象です。何も信頼しないことを前提にアクセスを設計する、新しいセキュリティの考え方や、攻撃者の手口と脅威の動向については、今後公開予定の入門コースが、それぞれ扱う予定です。本コースを読み終えたあとに、これらのコースへ進むと、話がすんなりつながるはずです。

これらのコースはどれも、ネットワークの「上」に乗る話か、ネットワークを「守る」話です。本コースが的を絞るのは、そのどちらでもありません。1 本の通信が、あなたの端末から目的のサーバーまで、物理的にどう運ばれるかという「機構の層」です。ブラウザにアドレスを打ち込んでから画面が表示されるまでに、通信はどんな道具を経由し、どんな約束事に従って進むのか。この土台を理解しておくと、セキュリティやクラウド、社内ネットワークの話を聞いたときにも、いま自分が何の層の話を聞いているのかがわかるようになります。

🔰 初学者の方へ 本コースでは、実際にコマンドを打ったり、機器を設定したりする場面はほとんどありません(レッスン 7 で確認用のコマンドの「読み方」だけを扱います)。読んで理解することを目的にした、知識のコースです。

プロトコルとは何か——通信の共通言語

ネットワークの話をするときに、必ず登場する言葉が「プロトコル(protocol)」です。プロトコルとは、機器同士が通信するときに守る、あらかじめ決められた約束事のことです。

人間同士の会話にも、似た約束事があります。電話をかけたら「もしもし」と名乗り、相手の応答を待ってから本題に入る。手紙を書くときは、宛名を書き、時候の挨拶をして、本文を書き、差出人を記す。こうした手順が決まっているからこそ、相手に伝わります。もし片方が英語で話しかけ、もう片方が日本語しか理解できなければ、会話は成立しません。

コンピューター同士の通信も同じです。送り出す側と受け取る側が、同じ手順・同じ形式でやり取りしないと、データは正しく届きません。この手順と形式を定めたものがプロトコルです。「どんな順番でデータを送るか」「データにどんな情報を付けて送るか」「相手からの応答をどう解釈するか」——こうしたルールの集まりがプロトコルであり、インターネットは無数のプロトコルが積み重なって成り立っています。

💡 ポイント プロトコルは 1 つではありません。ネットワークには役割の異なる複数のプロトコルがあり、それぞれが決まった持ち場を担当しています。次に説明する「階層」という考え方は、この持ち場を整理するためのものです。

ネットワークを「階層」で捉える

通信の持ち場を整理する代表的な考え方が、TCP/IP の 4 階層と、OSI 参照モデルの 7 階層です。

TCP/IP の 4 階層

TCP/IP は、インターネットで実際に使われている通信の仕組みの総称です。この仕組みは、役割ごとに 4 つの階層に分けて整理されています。

階層 名称 主な役割
第 4 層 アプリケーション層 Web ・メール・ファイル転送など、利用者が使うサービスの通信を扱う
第 3 層 トランスポート層 データを正しい相手のアプリケーションまで、信頼性を持って届ける
第 2 層 インターネット層 データに宛先の番地を付け、ネットワークを越えて届け先まで運ぶ
第 1 層 ネットワークインターフェース層 同じネットワーク内で、物理的な線や電波を使ってデータを運ぶ

この 4 つの階層は、下から上に積み上がる関係にあります。一番下のネットワークインターフェース層が物理的な信号を扱い、その上にインターネット層が「どこへ届けるか」を、さらにその上にトランスポート層が「確実に届けるか」を、一番上のアプリケーション層が「何を伝えるか」を担当します。

OSI 参照モデルの 7 階層

TCP/IP の 4 階層とよく並べて語られるのが、OSI 参照モデル(Open Systems Interconnection:開放型システム間相互接続)の 7 階層です。国際標準化機構が定めた、通信の役割分担をより細かく示したモデルです。

flowchart TB
  subgraph A["TCP / IP の 4 階層"]
    A1[アプリケーション層]
    A2[トランスポート層]
    A3[インターネット層]
    A4[ネットワークインターフェース層]
  end
  subgraph B["OSI 参照モデルの 7 階層"]
    B1[第 7 層<br/>アプリケーション層]
    B2[第 6 層<br/>プレゼンテーション層]
    B3[第 5 層<br/>セッション層]
    B4[第 4 層<br/>トランスポート層]
    B5[第 3 層<br/>ネットワーク層]
    B6[第 2 層<br/>データリンク層]
    B7[第 1 層<br/>物理層]
  end
  A1 --- B1
  A1 --- B2
  A1 --- B3
  A2 --- B4
  A3 --- B5
  A4 --- B6
  A4 --- B7

図が示すとおり、TCP/IP のアプリケーション層は、OSI 参照モデルのアプリケーション層・プレゼンテーション層・セッション層の 3 つをまとめて扱います。トランスポート層同士は、ほぼ同じ役割です。TCP/IP のインターネット層は OSI のネットワーク層に、ネットワークインターフェース層は OSI のデータリンク層と物理層をまとめたものに対応します。

📝 補足 実際に使われているのは TCP/IP のほうです。OSI 参照モデルは実際の通信規格として普及したわけではありませんが、通信を役割で整理する共通言語として、いまも現場で頻繁に使われます。情報システム部門とのやり取りで「レイヤー 3 の問題です」「アプリケーション層は正常です」といった言い方を耳にしたら、OSI の階層番号を指しています。

階層で捉える利点

なぜ通信を階層に分けるのでしょうか。理由は 2 つあります。

1 つ目は、役割を分担することで、それぞれの階層が独立して進化できることです。例えば、無線 LAN が新しい規格になっても、その上で動く Web ブラウザのプログラムを書き換える必要はありません。ネットワークインターフェース層とアプリケーション層は、互いに影響を受けにくい設計になっています。

2 つ目は、トラブルが起きたときに、どの階層で問題が起きているかを切り分けやすくなることです。配線は正常か、番地は割り当てられているか、名前は解決できているか、相手のアプリケーションは応答しているか——階層ごとに確認していけば、原因の当たりをつけられます。この考え方は、レッスン 7 で詳しく扱います。

回線交換とパケット交換

次に、通信のしかたそのものに目を向けましょう。電話とインターネットでは、データの運び方が根本的に違います。

固定電話は、通話が始まると、発信者と相手のあいだに 1 本の専用回線が確保されます。この方式を回線交換(circuit switching)と呼びます。通話が終わるまで、その回線はほかの誰にも使われません。回線を占有できるので通話品質は安定しますが、通話をしていないあいだも回線は空けたままになり、効率はよくありません。

一方、インターネットで使われているのはパケット交換(packet switching)という方式です。送りたいデータを小さな単位に分割し、それぞれに宛先の情報を付けて送り出します。この小さな単位をパケット(packet)と呼びます。1 本の回線を専有するのではなく、複数の通信のパケットが同じ回線を共有しながら流れていきます。

観点 回線交換 パケット交換
回線の使い方 通信のあいだ 1 本を占有する 複数の通信で 1 本を共有する
データの単位 連続した信号 小さく分割したパケット
効率 空き時間があっても回線は専有されたまま 空いている回線を効率よく使い回せる
代表例 従来の固定電話 インターネット全般

パケット交換の利点は、回線を効率よく使い回せることに加えて、1 本の回線が壊れても、ほかの経路を使って迂回できることです。この迂回の仕組みは、レッスン 4 で扱う「ルーティング」で詳しく学びます。

パケットとは何か——荷物に例えると

パケット交換の主役である「パケット」について、もう少し詳しく見ていきましょう。

パケットは、宅配便の荷物によく例えられます。大きな荷物をそのまま送ろうとすると、トラック 1 台を丸ごと占有してしまいます。荷物を小さな箱に分けて、それぞれに送り状を貼れば、複数のトラックや複数の便に分散して運べますし、1 つの箱が届かなくても、その箱だけ送り直せば済みます。

パケットも同じ発想です。送りたいデータを一定の大きさに分割し、それぞれに宛先や送り主の情報を記した「ヘッダー」を付けます。この分割されたデータのかたまりが、パケットです。受け取る側は、届いた複数のパケットを順番どおりに組み立て直して、元のデータに復元します。

⚠️ 注意 パケットは、必ずしも送った順番どおりに届くとは限りません。インターネットの途中経路は複数あり、それぞれのパケットが別々の経路を通ることもあります。順番の入れ替わりや、途中でのパケットの喪失をどう扱うかは、レッスン 5 で扱う TCP という仕組みが担当します。

カプセル化——荷物に伝票を重ねて貼っていく

パケットが実際に送り出されるまでには、もう 1 つ大事な工程があります。それがカプセル化(encapsulation)です。

先ほどの階層の話を思い出してください。データは、アプリケーション層からネットワークインターフェース層へと、上から下へ降りていきながら送り出されます。このとき、各階層は、自分の役割に必要な情報を「ヘッダー」として、データの前に付け加えていきます。

flowchart LR
  D[元のデータ] --> S[セグメント<br/>トランスポート層のヘッダーを付加]
  S --> P[パケット<br/>インターネット層のヘッダーを付加]
  P --> F[フレーム<br/>ネットワークインターフェース層のヘッダーを付加]

荷物の例えを続けると、カプセル化は「箱に入れた商品に、配送伝票を重ねて貼っていく」作業に似ています。まず商品そのもの、つまりデータがあります。次に、届け先の部署名を書いた社内便の伝票にあたる、トランスポート層のヘッダーを貼ります。さらに、建物の住所を書いた配送伝票にあたる、インターネット層のヘッダーを重ねます。最後に、配送業者が仕分けに使うバーコードのラベルにあたる、ネットワークインターフェース層のヘッダーを貼って、ようやく送り出されます。

受け取る側では、この作業が逆順に行われます。ネットワークインターフェース層のラベルを見て自分宛てかを確認し、剥がす。次にインターネット層の伝票を見て、剥がす。次にトランスポート層の伝票を見て、剥がす。最後に商品そのものが取り出されます。この受信側の作業を非カプセル化(decapsulation)と呼びます。

📖 もっと詳しく 階層によって、データのかたまりの呼び方が変わります。トランスポート層で扱う単位は「セグメント」、インターネット層で扱う単位は「パケット」、ネットワークインターフェース層で扱う単位は「フレーム」と呼ばれます。本コースでは、細かい呼び分けよりも「パケット」という言葉で全体を指すことが多いですが、正式にはこのように呼び分けられています。

本コースを貫く 6 つの中核メッセージ

最後に、本コース全体を通じて繰り返し登場する 6 つのメッセージを紹介します。今の時点で完全に理解できていなくてもかまいません。各レッスンで、この 6 つのどれかを掘り下げていきます。

  1. ネットワークは階層でできている:どの層の話をしているかがわかれば、会話は噛み合います
  2. 番地と名前は別物:IP アドレスという番地と、ドメインという名前は別のもので、その 2 つをつなぐ仕組みがあります(レッスン 2・3 で扱います)
  3. パケットはバケツリレーで運ばれる:1 本の線をまっすぐ通るのではなく、区間ごとに機器から機器へと運ばれます(レッスン 4 で扱います)
  4. 速い・遅いには 2 つの意味がある:「帯域」と「遅延」という別々の指標があります(レッスン 6 で扱います)
  5. つながらないときは下から切り分ける:電源や配線といった下の層から順に確認すると、原因の当たりをつけやすくなります(レッスン 7 で扱います)
  6. 仕組みを知らなくても使えるが、知っていると強い:ネットワークは意識せずに使えるように作られています。それでも、旅路を知っている人だけが、つながらないときに自分で当たりをつけられます

💡 ポイント この 6 つのメッセージは、以降のレッスンで何度も立ち返る地図の役割を果たします。今の時点で暗記する必要はありません。読み進めながら、少しずつ実感として積み上げていきましょう。

まとめ

このレッスンでは、以下のことを学びました。

  • プロトコルは、機器同士が通信するときに守る約束事
  • TCP/IP の 4 階層(アプリケーション層・トランスポート層・インターネット層・ネットワークインターフェース層)と、OSI 参照モデルの 7 階層は、役割で対応づけられる
  • 回線交換は回線を占有する方式、パケット交換は回線を共有しながら小さな単位で送る方式
  • パケットは、宛先情報を付けて分割されたデータのかたまり
  • カプセル化は、階層ごとにヘッダーを付け加えていく工程
  • 本コースは、階層・番地・名前・経路をたどるという発想を軸に進む

次のレッスンでは、パケットに付けられる番地——IP アドレスの読み方に進みます。


確認クイズ

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