つながらないときの自己診断
レッスン7:つながらないときの自己診断
このレッスンで学ぶこと
- つながらないときに、下から順に確認する 5 つの階層を説明できる
- ping ・traceroute ・ipconfig ・nslookup が、それぞれ何を確認するための道具かを理解する
- 症状のパターンから、原因のありかを見分けられる
- 情報システム部門に報告すべき 5 つの項目を整理できる
ここまでの 6 つのレッスンで、階層・番地・名前・経路・速さという、ネットワークを構成する要素を 1 つずつたどってきました。今回は、その知識を総動員する、本コース最大の実践編です。中核メッセージの 5 つ目、「つながらないときは、下の層から順に切り分ける」を、具体的な手順として身につけていきましょう。
「インターネットにつながらない」という一言は、原因が起きている場所を何も語っていません。電源が入っていないのか、番地が取得できていないのか、名前が引けていないのか、経路のどこかで止まっているのか、それとも相手のサービス自体が落ちているのか——これらはすべて、利用者の目には「つながらない」という、同じ症状として映ります。原因を切り分ける力は、この同じに見える症状の裏側にある、階層の違いを見抜く力にほかなりません。
切り分けの 5 階層
「つながらない」という一言の裏側には、実は原因になり得る場所が何段階もあります。上から闇雲に疑うのではなく、下の階層から順番に確認していくことで、無駄なく原因の当たりをつけられます。
flowchart TD
A["1 電源と物理<br/>ケーブルは挿さっているか<br/>Wi-Fi は圏内か"] --> B["2 IP<br/>IP アドレスは取得できているか"]
B --> C["3 名前<br/>ドメインは番地に変換できているか"]
C --> D["4 経路<br/>宛先まで届いているか"]
D --> E["5 アプリ<br/>相手のサービスは応答しているか"]
- 電源と物理:機器の電源は入っているか、ケーブルは正しく挿さっているか、Wi-Fi の電波は届いているか
- IP:レッスン 2 と 4 で学んだ、IP アドレスの取得に問題はないか
- 名前:レッスン 3 で学んだ、名前解決に問題はないか
- 経路:レッスン 4 で学んだ、宛先までパケットが届いているか
- アプリ:レッスン 5 で学んだ、相手のサーバーやサービスそのものが正常に応答しているか
この順番には理由があります。電源が入っていなければ、その先のどの段階を確認しても意味がありません。IP アドレスが取得できていなければ、名前解決も経路の確認も始まりません。下の階層が正常であることを確かめてから、初めて上の階層を疑う——これが、遠回りに見えて、実はもっとも早く原因にたどり着く道筋です。
🔰 初学者の方へ 「いきなり上から疑ってしまう」のは、実はよくある落とし穴です。「あのサイトが重いのかもしれない」とアプリの層から疑い始めて、結局はケーブルが抜けていた、ということも珍しくありません。焦ったときほど、下から順番に、が近道です。
例えば、「メールソフトが同期できない」という症状に出会ったとき、多くの方は真っ先にメールソフトの設定を疑います。しかし、5 階層の発想に沿えば、まず確認すべきは電源と物理です。ルーターのランプは点灯しているか、ケーブルは挿さっているか。次に IP の階層で、ほかのアプリ、例えば Web ブラウザは正常に使えているかを確認します。ここまで正常であれば、名前と経路の階層も、ほかのアプリが動いていることから、おおむね健全だと見当がつきます。ここまで来て初めて、「メールソフトというアプリ固有の設定に問題があるのではないか」という、アプリの階層への疑いにたどり着きます。順番を踏むことで、無関係な設定変更を試して時間を浪費することを防げます。
ping の読み方
ここから、切り分けに使える代表的な確認方法を、1 つずつ紹介します。実際にコマンドを操作する場面は多くありませんが、情報システム部門とのやり取りで結果を見せられたときに、内容を読み解けるようになることを目指します。
ping(ピング)は、指定した相手に対して、小さなデータを送り、応答が返ってくるかどうかと、その往復にかかった時間を確認する道具です。「経路」の確認に使われます。
> ping www.example.com
203.0.113.10 からの応答:時間 12ms
203.0.113.10 からの応答:時間 11ms
203.0.113.10 からの応答:時間 13ms
203.0.113.10 からの応答:時間 12ms
応答が返ってきていれば、相手までパケットが届き、また戻ってきていることがわかります。表示されている「時間」は、レッスン 6 で学んだ遅延にあたる数値です。応答がまったく返ってこない場合は、経路のどこかで通信が届いていない可能性を示します。
💡 ポイント レッスン 2 で紹介したループバックアドレス「127.0.0.1」に対して ping を送ると、自分自身の通信機能が動作しているかどうかを確認できます。ここで応答がなければ、そもそも自分の機器の通信の土台に問題がある、という強い手がかりになります。
ping には、段階を踏んだ使い方があります。まず自分自身のループバックアドレスへ、次にデフォルトゲートウェイの IP アドレスへ、そして最後にインターネット上のサーバーへと、宛先を少しずつ遠くへ広げながら確認していく方法です。自分自身への応答はあるのにデフォルトゲートウェイへの応答がなければ、家庭内の配線や Wi-Fi の接続そのものに問題があると絞り込めます。デフォルトゲートウェイへの応答はあるのに、その先のインターネット上のサーバーへの応答がなければ、問題は自宅の中ではなく、その先の光回線やモバイル回線、あるいは ISP 側にあると絞り込めます。近い宛先から遠い宛先へと、段階的に確認範囲を広げていくのが、ping を使った切り分けの基本の型です。
ipconfig の読み方
ipconfig(アイピーコンフィグ)は、自分の機器に、いまどんなネットワークの情報が設定されているかを表示する道具です。「IP」の階層の確認に使われます。
> ipconfig
イーサネット アダプター イーサネット:
IPv4 アドレス . . . . . . . . . . . : 192.168.1.10
サブネット マスク . . . . . . . . . : 255.255.255.0
デフォルト ゲートウェイ . . . . . . : 192.168.1.1
表示される項目には、レッスン 2 で学んだ IP アドレスやサブネットマスク、レッスン 4 で学んだデフォルトゲートウェイが含まれます。これらの欄が、見慣れたプライベートアドレスの範囲で正しく表示されていれば、DHCP による割り当てが正常に完了していると判断できます。
一方、IPv4 アドレスの欄が「169.254」から始まる数値になっている場合は、注意が必要です。これは、DHCP サーバーから番地を受け取れなかったときに、機器が自動的に割り振る、特別な自己割り当ての番地です。この状態になっているときは、レッスン 4 で学んだ DHCP のやり取りが、どこかの段階でうまくいっていない可能性が高いと判断できます。
⚠️ 注意 IPv4 アドレスの欄が空欄になっている、または「169.254」から始まっている場合は、名前解決や経路の確認に進む前に、まずこの IP の階層の問題を疑ってください。番地が正しく割り当てられていない状態で、その先を確認しても、原因は見つかりません。
この状態に気づいたときの対処として、まず試す価値があるのが、機器を Wi-Fi から一度切断して再接続する、またはルーターの電源を入れ直すという操作です。これは、レッスン 4 で学んだ DHCP の 4 手順を、最初からやり直させる操作にあたります。何らかの理由で DHCP のやり取りが正しく完了しなかった場合、この再接続によって、正常な番地が改めて割り当てられることがあります。それでも改善しない場合は、DHCP サーバー側、つまりルーターや、職場であれば情報システム部門が管理する機器のほうに、原因がある可能性が高まります。
nslookup の読み方
nslookup(エヌエスルックアップ)は、指定したドメインが、どの IP アドレスに変換されるかを確認する道具です。「名前」の階層の確認に使われます。
> nslookup www.example.com
権威 DNS サーバーからの応答:
名前: www.example.com
Address: 203.0.113.10
このように、ドメインに対応する IP アドレスが表示されれば、レッスン 3 で学んだ名前解決が正常に機能していることがわかります。一方、「サーバーが見つかりません」といった趣旨のメッセージが返ってきた場合は、名前解決の途中で問題が起きていると判断できます。
ここで重要なのは、ping が失敗したときに、その原因が「名前」の階層にあるのか、「経路」の階層にあるのかを、nslookup を使うことで切り分けられるという点です。多くの場合、ping コマンドはドメイン名を指定して実行しますが、その内部では、まず名前解決が行われてから、実際の通信が送り出されています。ping が失敗したときに、nslookup で同じドメインの名前解決だけを試すことで、「そもそも番地が引けていないのか」「番地は引けているのに、そこへ届かないのか」を、切り離して確認できます。
📝 補足 名前解決が正常でも、経路に問題があれば ping は失敗します。逆に、名前解決そのものが失敗していれば、経路がどれだけ健全でも、ping は宛先の番地にすらたどり着けません。この 2 つの道具を組み合わせることで、レッスン 1 で学んだ階層の考え方が、そのまま実践に活きてきます。
traceroute の読み方
traceroute(トレースルート、Windows では tracert)は、宛先までのパケットが、どんな経路をたどっているかを、区間ごとに表示する道具です。「経路」の階層を、より詳しく確認するために使われます。
> tracert www.example.com
1 192.168.1.1 1 ms
2 203.0.113.1 5 ms
3 *** 要求がタイムアウトしました。
4 198.51.100.5 15 ms
5 203.0.113.10 16 ms
この結果は、レッスン 4 で学んだ「ホップ」を、1 つずつ表示したものです。1 行目は自宅のルーター、そこから先は ISP や、その先にある複数のルーターを経由して、5 行目の宛先に到達していることがわかります。それぞれの行にかかった時間を見比べることで、どの区間で時間がかかっているかも見えてきます。
途中の行に「要求がタイムアウトしました」という表示が出ることがありますが、これは必ずしも異常を意味しません。一部のルーターは、traceroute からの問い合わせそのものには応答しない設定になっていることがあり、実際のパケットの転送自体は正常に行われている場合があるためです。最終行まで到達していれば、途中に応答のない区間があっても、経路そのものはつながっていると判断できます。
📖 もっと詳しく 逆に、途中の行から先、宛先の行まで一切応答が返ってこない場合は、その手前の区間で経路が途切れている可能性が高いと判断できます。「どの区間までは応答があり、どこから先が応答しなくなったか」という境目が、経路上の問題を絞り込む手がかりになります。
症状別の当たりの付け方
ここまで紹介した道具に加えて、症状そのものの現れ方から、原因のありかを絞り込む視点も持っておきましょう。次の 3 つの問いが、特に有効です。
自分だけか、周囲も同じ症状か
同じ部屋やオフィスにいるほかの人にも同じ症状が出ているかを確認します。自分だけであれば、自分の機器や、自分の機器と直結している部分——電源と物理、IP の階層に問題がある可能性が高くなります。周囲の複数人に同じ症状が出ているのであれば、共有しているルーターや回線、あるいは情報システム部門が管理する設備など、もっと広い範囲に原因がある可能性が高くなります。
特定のサイトだけか、すべてのサイトか
いつも使っているサイトはすべてつながらないのか、それとも特定の 1 つのサイトだけがつながらないのかを確認します。すべてのサイトがつながらないのであれば、名前や経路といった、共通の土台の階層に問題がある可能性が高くなります。特定のサイトだけがつながらないのであれば、そのほかのサイトへの経路や名前解決は正常に機能しているということなので、アプリの階層——つまり、相手のサーバーやサービス側の問題である可能性が高くなります。
時間帯によって変わるか
いつでも同じように症状が出るのか、それとも特定の時間帯にだけ症状が出るのかを確認します。特定の時間帯、例えば始業直後や昼休み明けなど、多くの人が一斉に使い始めるタイミングに症状が出やすいのであれば、レッスン 6 で学んだ帯域の混雑が疑われます。時間帯に関係なく常に同じ症状が出るのであれば、混雑ではなく、設定や機器そのものの不具合を疑う必要があります。
| 問い | 傾向が強い場合に疑う階層・原因 |
|---|---|
| 自分だけ症状が出る | 電源と物理、IP の階層。自分の機器や、その周辺の設定 |
| 周囲も同じ症状が出る | 共有している回線や機器、情報システム部門が管理する設備 |
| すべてのサイトがつながらない | 名前、経路の階層。共通の土台部分 |
| 特定のサイトだけつながらない | アプリの階層。相手のサーバーやサービス側 |
| 特定の時間帯だけ症状が出る | 帯域の混雑 |
| 時間帯に関係なく症状が出る | 設定や機器そのものの不具合 |
💡 ポイント この 3 つの問いは、コマンドを 1 つも使わずに、いますぐ自分で確認できます。テクニカルサポートに問い合わせる前に、この 3 つを自分の中で整理しておくだけで、原因の絞り込みは大きく前進します。
情報システム部門に伝えるべき 5 項目
最後に、自分だけでは解決できないと判断したときに、情報システム部門やサポート窓口へ報告する際に伝えるべき情報を整理します。年間数百件の「つながらない」という問い合わせを切り分けてきた経験から、次の 5 項目がそろっていると、対応が格段に速くなります。
- いつから発生しているか:症状が始まったおおよその時刻。直前に何か操作をした場合は、その内容も伝える
- 自分だけか、周囲も同じ症状か:先ほど整理した問いの答え
- 特定のサイト・サービスだけか、すべてか:もう 1 つの問いの答え
- 表示されているエラーメッセージの正確な文言:「つながらない」だけでなく、画面に表示されている文言をそのまま伝える
- 自分で確認した内容:ping や ipconfig など、自分で試したことがあれば、その結果も併せて伝える
この 5 項目がそろっていれば、対応する側は、電源と物理の階層から順に質問を重ねる時間を省略でき、すぐに核心に近い階層から確認を始められます。逆に、「つながりません、直してください」という情報だけでは、対応する側は、5 階層すべてを 1 から確認し直すところから始めなければならず、解決までの時間が長くなってしまいます。
🔰 初学者の方へ この 5 項目は、情報システム部門とのやり取りだけでなく、家族や同僚に「ネットワークがおかしい」と伝えるときにも役立ちます。「なんかネットが遅い」ではなく、「昨日の夜からです、家族全員同じ症状で、特定のサイトだけではなく全部です」と伝えられれば、相手も的確に動きやすくなります。
私がテクニカルサポートで対応していたころ、この 5 項目がそろっているお問い合わせと、そろっていないお問い合わせとでは、解決までにかかる時間に、体感として数倍の差がありました。「つながりません」という一報から始まる対応は、まず症状の範囲を確認する質問から始めるため、最初の数分がそのやり取りだけで過ぎていきます。一方、この 5 項目が最初から添えられているお問い合わせは、こちらがすでに「名前の階層は生きていて、経路のどこかで止まっていそうだ」といった見当を付けた状態から対応を始められます。切り分けは、利用者だけの技術ではなく、対応する側と協力して進める、共同作業でもあるのです。
まとめ
このレッスンでは、以下のことを学びました。
- つながらないときは、電源と物理、IP、名前、経路、アプリという 5 つの階層を、下から順に確認する
- ping は経路への到達と応答時間を、ipconfig は自分の IP アドレスなどの設定状況を確認する道具
- nslookup は名前解決が正常かどうかを、traceroute は宛先までの経路を区間ごとに確認する道具
- 「自分だけか周囲もか」「特定のサイトだけか全部か」「時間帯で変わるか」という 3 つの問いが、原因の絞り込みに役立つ
- 情報システム部門への報告では、発生時刻・症状の範囲・エラーメッセージ・自分で確認した内容をそろえると、対応が速くなる
次のレッスンでは、ここまで学んできた 1 台の端末から見た旅路を離れ、インターネット全体がどんな仕組みで成り立っているのかという、全体像に視野を広げます。
確認クイズ
このレッスンの理解度をチェックしましょう。