本文へスキップ
スキルアップカレッジ

届ける話——機器の役割分担と経路

レッスン4:届ける話——機器の役割分担と経路

このレッスンで学ぶこと

  • MAC アドレスとイーサネットの役割を、IP アドレスと区別して説明できる
  • ハブ・スイッチ・ルーターの役割分担を説明できる
  • デフォルトゲートウェイの役割を理解する
  • ルーティングとホップという、パケットが届くまでの発想を説明できる
  • DHCP の 4 手順と、家庭と職場でのネットワークの違いを理解する

前回のレッスンでは、URL から IP アドレスを調べる「名前解決」の仕組みを学びました。番地がわかったパケットは、いよいよ実際に旅立ちます。今回は、中核メッセージの 3 つ目、「パケットは 1 本の線を通るのではなく、区間ごとにバケツリレーされている」を、具体的な機器の役割とともにたどっていきます。本コースの中でも、機構の層にもっとも深く踏み込むレッスンです。

MAC アドレスとイーサネット——もう 1 つの番地

レッスン 2 で、IP アドレスという番地を学びました。実は、パケットが実際に運ばれる現場では、IP アドレスとは別の、もう 1 つの番地が使われています。それが MAC アドレス(Media Access Control address)です。

MAC アドレスは、ネットワークにつながる機器の通信部品 1 つ 1 つに、製造の時点で焼き付けられている、世界に 1 つだけの番地です。48 ビットの数値で表され、「AA:1B:2C:3D:4E:5F」のように、16 進数を 2 桁ずつコロンで区切って表記します。IP アドレスが「あとから割り当てられる、引っ越しできる番地」だとすれば、MAC アドレスは「工場出荷時に刻印された、生涯変わらない番地」だとイメージすると対比しやすくなります。

観点 IP アドレス MAC アドレス
割り当てのタイミング ネットワークに接続したときなど、あとから割り当てられる 通信部品の製造時に焼き付けられる
変わるかどうか ネットワークを移動すると変わることがある 通信部品を交換しない限り変わらない
使われる範囲 ネットワークを越えた、遠く離れた相手との通信 同じネットワークの中での機器の識別
レッスン 1 の階層との対応 インターネット層 ネットワークインターフェース層

この MAC アドレスを使って、同じネットワークの中の機器同士が通信するための規格が、イーサネット(Ethernet)です。イーサネットは、有線 LAN でもっとも広く使われている規格で、MAC アドレスを宛先・送信元として記した「フレーム」という単位でデータをやり取りします。レッスン 1 で学んだカプセル化の中で、一番外側に付けられるヘッダーが、このイーサネットのヘッダーにあたります。

💡 ポイント 荷物の例えで振り返ると、IP アドレスは「配送先の住所」、MAC アドレスは「その場にいる人の名札」に近い役割です。長距離の配送は住所を頼りに進みますが、最後に荷物を手渡す瞬間には、目の前にいる人の名札を確認して手渡します。ネットワークの中でも、同じ区画の中での受け渡しには MAC アドレスが使われます。

同じネットワークの中で、MAC アドレスをどう知るか

ここで、素朴な疑問が浮かびます。パソコンは、IP アドレスを指定して通信を送り出しますが、同じネットワークの中で実際にやり取りするのは MAC アドレスです。IP アドレスしかわからない相手の MAC アドレスは、どうやって調べているのでしょうか。

この橋渡しを担うのが、ARP(Address Resolution Protocol:アドレス解決プロトコル)という仕組みです。パソコンは、「この IP アドレスを持っている機器の MAC アドレスを教えてください」と、同じネットワークの中にいる全員に呼びかけます。該当する IP アドレスを持つ機器だけが、「その IP アドレスは私です。MAC アドレスはこれです」と応答します。この応答を受け取ることで、パソコンは初めて、同じ区画の中での実際の受け渡し先を特定できます。調べた結果は、しばらくのあいだ端末の中に記憶され、毎回同じ問い合わせを繰り返さずに済むようになっています。

⚠️ 注意 ARP による呼びかけは、同じネットワークの中にしか届きません。デフォルトゲートウェイの向こう側、つまり別のネットワークにいる相手の MAC アドレスを、ARP で直接調べることはできません。その場合は、まずデフォルトゲートウェイの MAC アドレスを ARP で調べ、そこまでパケットを送り、その先はルーターに引き継ぐという流れになります。「MAC アドレスは同じ区画の中だけで使われる番地」という原則を、ここでも思い出してください。

ハブ・スイッチ・ルーターの役割分担

パケットが実際に旅をする道のりには、いくつかの機器が登場します。代表的な 3 つが、ハブ、スイッチ、ルーターです。この 3 つは見た目が似ていることもありますが、担当する階層と役割はまったく異なります。

ハブ——考えずに全部に流す

ハブ(hub)は、届いたデータを、つながっているすべての機器にそのまま送り出す機器です。宛先を判断する機能を持たず、いわば「届いたものをそのまま全員に配る」だけの単純な機器です。現在の家庭やオフィスでは、ほとんど使われなくなりました。

スイッチ——MAC アドレスを見て振り分ける

スイッチ(switch)は、届いたデータの宛先 MAC アドレスを確認し、その機器がつながっているポートにだけデータを送り出す機器です。どの MAC アドレスがどのポートにつながっているかを学習し、記憶しておくことで、無駄な送信を減らします。現在の家庭やオフィスの配線の中心には、多くの場合このスイッチが使われています。

ルーター——IP アドレスを見て別のネットワークへ運ぶ

ルーター(router)は、届いたデータの宛先 IP アドレスを確認し、そのデータを別のネットワークへ橋渡しする機器です。スイッチが「同じネットワークの中で、どのポートに送るか」を判断するのに対して、ルーターは「そもそも、どのネットワークに送るべきか」を判断します。家庭用のルーターは、この機能に加えて、レッスン 2 で学んだ NAT の機能や、これから説明する DHCP の機能も、1 台に兼ね備えていることがほとんどです。

flowchart LR
  P1[パソコン] --> SW[スイッチ<br/>MAC アドレスで振り分け]
  P2[スマートフォン] --> SW
  P3[プリンタ] --> SW
  SW --> RT[ルーター<br/>IP アドレスで橋渡し]
  RT --> NET[インターネット]

図が示すように、家庭内の機器はまずスイッチに集まり、外へ出る通信だけがルーターを経由してインターネットへ向かいます。ハブ・スイッチ・ルーターは、レッスン 1 の階層に照らすと、それぞれネットワークインターフェース層、ネットワークインターフェース層、インターネット層に対応する機器です。

📝 補足 家庭用ルーターの多くは、「ルーター」「スイッチ」「無線 LAN のアクセスポイント」という 3 つの役割を、1 つの箱の中にまとめています。1 台の機器が複数の役割を兼ねていることが、初学者にとって仕組みをわかりにくくしている一因です。

デフォルトゲートウェイ——外へ出る扉

スイッチとルーターの役割分担がわかったところで、もう 1 つ重要な言葉を押さえましょう。デフォルトゲートウェイ(default gateway)です。

パソコンやスマートフォンは、通信を送り出すとき、まず宛先が「自分と同じネットワークの中にいる相手か」「ネットワークの外にいる相手か」を判断します。同じネットワークの中の相手であれば、スイッチを介して直接届けます。ネットワークの外の相手であれば、まずルーターに送り、その先を任せます。この「まず送るべき先」となるルーターの IP アドレスが、デフォルトゲートウェイです。

家庭のネットワークで例えると、デフォルトゲートウェイは「玄関」にあたります。家の中での移動なら、部屋から部屋へ直接行き来できます。しかし外出するときは、必ず玄関を通ります。パソコンにとってのデフォルトゲートウェイも同じで、ネットワークの外へ向かう通信は、必ずこの扉を通過します。

⚠️ 注意 デフォルトゲートウェイの設定が誤っていたり、ルーターの電源が入っていなかったりすると、同じ部屋にある機器同士は問題なく通信できるのに、インターネットにはまったくつながらない、という状態が起こります。「社内のファイルサーバーは見えるのに、外部のサイトは見えない」という症状は、デフォルトゲートウェイ周辺を疑う手がかりになります。

ルーティングとホップ——バケツリレーで届く

デフォルトゲートウェイを通過したパケットは、目的地のサーバーまで、ノンストップで一直線に届くわけではありません。複数のルーターを、次々と経由しながら進みます。

flowchart LR
  A[送信元のパソコン] --> R1[ルーター 1]
  R1 --> R2[ルーター 2]
  R2 --> R3[ルーター 3]
  R3 --> B[宛先のサーバー]

それぞれのルーターは、「この宛先の IP アドレスなら、次はこのルーターに送ればよい」という案内表を持っており、これをもとに、次に渡すべきルーターへとパケットを転送します。この、次のルーターへパケットの受け渡しを決める作業を、ルーティング(routing)と呼びます。そして、1 つのルーターから次のルーターへ渡る、1 回分の区間を、ホップ(hop)と呼びます。

大事なのは、それぞれのルーターが、目的地までの道のり全体を知っているわけではないという点です。駅伝の選手が、自分の担当区間だけを全力で走り、次の走者にたすきを渡すように、それぞれのルーターは「次に渡すべき相手」だけを知っていて、その先は次のルーターに委ねます。この駅伝のようなバケツリレーが、何区間も積み重なって、最終的に目的地のサーバーまでパケットが届きます。

📖 もっと詳しく パケットが実際に何回のホップを経て届いているかは、レッスン 7 で紹介する traceroute というコマンドで確認できます。国内のサーバーであれば数ホップから十数ホップ、海外のサーバーであれば、さらに多くのホップを経由することも珍しくありません。

それぞれのルーターが持つ、次に渡すべき相手を記した案内表を、経路表またはルーティングテーブルと呼びます。経路表には、「この宛先の範囲へは、この次のルーターへ送る」という対応関係が、CIDR 表記で書かれた宛先ごとに並んでいます。ルーターは、受け取ったパケットの宛先 IP アドレスを、この経路表と照らし合わせて、もっとも詳しく一致する行を選び、その行が示す次のルーターへパケットを転送します。この判断が、1 台 1 台のルーターで独立して繰り返されることで、パケットは最終的な宛先までたどり着きます。

DHCP の 4 手順

ここまでの説明では、「IP アドレスは割り当てられる」という言い方を何度かしてきました。この割り当てを自動で行う仕組みが、DHCP(Dynamic Host Configuration Protocol)です。

パソコンやスマートフォンを、自宅や職場の Wi-Fi につないだとき、私たちは自分で IP アドレスを入力しません。それでも、つないだ瞬間からインターネットに接続できます。これは、DHCP サーバーが自動的に、IP アドレス・サブネットマスク・デフォルトゲートウェイ・DNS サーバーの情報を割り当ててくれているためです。多くの家庭用ルーターは、この DHCP サーバーの機能も兼ねています。

DHCP のやり取りは、4 つの手順で進みます。頭文字を取って「DORA」と呼ばれることもあります。

sequenceDiagram
    participant C as 接続してきた端末
    participant D as DHCP サーバー
    C->>D: Discover:DHCP サーバーを探しています
    D->>C: Offer:この番地を使えます
    C->>D: Request:この番地をください
    D->>C: Ack:割り当てを確定しました
  1. Discover(発見):新しくネットワークにつながった端末が、「DHCP サーバーはいませんか」と、ネットワーク全体に呼びかけます
  2. Offer(提案):呼びかけを受け取った DHCP サーバーが、「この IP アドレスを使えます」と提案を返します
  3. Request(要求):端末が、提案された IP アドレスを「使わせてください」と、正式に要求します
  4. Ack(確認応答):DHCP サーバーが、その割り当てを確定し、確認の応答を返します

この一連のやり取りが、Wi-Fi につないだ数秒のあいだに完了しています。私たちが意識しないうちに、番地の割り当てから、デフォルトゲートウェイや DNS サーバーの情報まで、通信に必要な情報一式が自動的に整えられているのです。

🔰 初学者の方へ DHCP のおかげで、私たちは IP アドレスやサブネットマスクの数値を、いちいち手で入力せずに済んでいます。この便利さの裏側にある 4 つの手順を知っておくと、レッスン 7 で「IP アドレスが取得できていない」という症状に出会ったときに、DHCP の段階でつまずいている可能性に気づけるようになります。

家庭と職場で何が違うか

最後に、家庭のネットワークと、職場のネットワークの違いを整理しておきましょう。基本的な仕組みは同じですが、規模の違いによって、見た目が大きく変わります。

家庭のネットワークでは、多くの場合、1 台のルーターが、ルーター・スイッチ・無線 LAN のアクセスポイント・DHCP サーバー・NAT の機能を、すべて兼ねています。つながる機器の台数も、数台から十数台程度です。何か不具合が起きたときも、この 1 台の電源を入れ直せば解決することが少なくありません。

職場のネットワークでは、機器の台数が多く、部署やフロアも複数にわたるため、スイッチ・ルーター・無線 LAN のアクセスポイントが、それぞれ別の機器として設置されていることが一般的です。フロアごとに複数のスイッチが設置され、それらが上位のスイッチやルーターへとつながっていく、階層的な配線になっていることも珍しくありません。これらの機器の管理や設定は、情報システム部門が担当しています。

観点 家庭のネットワーク 職場のネットワーク
機器の構成 1 台のルーターが複数の役割を兼ねることが多い ルーター・スイッチ・アクセスポイントが、それぞれ別の機器になっていることが多い
つながる機器の台数 数台から十数台程度 数十台から数千台に及ぶこともある
管理する人 利用者自身 情報システム部門
不具合時の対応 利用者が機器を再起動して解決することもある 情報システム部門への報告が基本になる

台数や管理体制は違っても、ここまで学んできたハブ・スイッチ・ルーター・デフォルトゲートウェイ・ルーティング・DHCP という基本の役割分担は、家庭でも職場でも変わりません。

📝 補足 職場のネットワークを実際にどう設計し、どう管理するかという実務的な話は、情シス関連の入門コースの範囲です。本コースでは、規模が変わっても共通する「機器の役割分担」という基礎を押さえます。

まとめ

このレッスンでは、以下のことを学びました。

  • MAC アドレスは通信部品に焼き付けられた番地で、同じネットワークの中での機器の識別に使われる。イーサネットは、この MAC アドレスを使って通信する規格
  • ハブは判断せず全ポートに送る、スイッチは MAC アドレスで振り分ける、ルーターは IP アドレスで別のネットワークへ橋渡しする
  • デフォルトゲートウェイは、ネットワークの外へ出るときに必ず通る扉の役割を持つルーター
  • ルーティングは次のルーターへの転送を決める作業、ホップは 1 区間分の受け渡しを指す
  • DHCP は、IP アドレスなどの通信に必要な情報を自動的に割り当てる仕組みで、Discover ・Offer ・Request ・Ack の 4 手順で進む
  • 家庭と職場では機器の構成規模が異なるが、機器の役割分担そのものは共通している

次のレッスンでは、届いたパケットを、どう確実に、どう効率よく運ぶかという、TCP と UDP、そして HTTP の話に進みます。


確認クイズ

このレッスンの理解度をチェックしましょう。