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スキルアップカレッジ

ブランドアーキテクチャ——複数ブランドをどう並べるか

レッスン3:ブランドアーキテクチャ——複数ブランドをどう並べるか

このレッスンで学ぶこと

  • ブランドアーキテクチャの 4 つの型を説明できるようになる
  • BtoB と BtoC での使い分けの傾向を理解する
  • ブランドを増やすコストと、減らす痛みの両方を把握する
  • 命名の階層をどう設計するかの考え方を身につける

レッスン2では、1 つのブランドについて「誰にとっての何か」を決める作業、ポジショニングと差別化を学びました。しかし、実務では 1 つの企業が複数のブランドを持つ場面が多くあります。本レッスンでは、複数のブランドをどう並べ、どう関係づけるかという、ブランドアーキテクチャを扱います。

ブランドアーキテクチャとは

ブランドアーキテクチャとは、企業が保有する複数のブランドを、どのような構造で関係づけるかという設計を指します。企業名と商品名の関係、複数の商品ブランド同士の関係、事業ブランドと企業ブランドの関係などが対象です。

なぜこの設計が必要なのでしょうか。理由は 2 つあります。

1つ目は、相手の理解のしやすさです。ブランド同士の関係が整理されていないと、相手は「この商品とあの商品は、同じ会社が作っているのか」「このブランドは信頼できる会社の商品なのか」を判断しづらくなります。

2つ目は、資源配分の効率です。ブランドを増やすたびに、広告や識別体系の維持にコストがかかります。どのブランドにどれだけの資源を割くかを考えるうえで、構造の整理は欠かせません。

💡 ポイント ブランドアーキテクチャは、一度決めたら固定するものではありません。事業の拡大や縮小、企業の統合、市場環境の変化に応じて、見直しが必要になります。この見直しの実務は、レッスン7のリブランディングで扱います。

ブランドアーキテクチャの 4 つの型

実務で広く使われる整理として、ブランドアーキテクチャを 4 つの型に分ける考え方があります。それぞれ、企業名と商品名の関係性の強さによって並んでいます。

型 1:マスターブランド

すべての商品・サービスに、企業名を中心とした単一のブランド名を使う型です。企業ブランドと商品ブランドがほぼ一致しており、新しい商品を出すときも、既存のブランド名の中で展開します。

  • 長所:新商品を出すたびに、既存ブランドの信頼をそのまま活用できる。広告や識別体系の維持コストが低い
  • 短所:1 つの商品で問題が起きると、ほかのすべての商品の印象にも影響しやすい。異なる客層に向けた商品を出しにくい

ある電機メーカーの例で考えると、家電から情報機器まで幅広い商品を 1 つの企業名で展開する場合、新商品を出すたびに一から認知を積み上げる必要がなく、立ち上げの効率がよくなります。一方で、特定の商品カテゴリで品質の問題が起きると、まったく別のカテゴリの商品にまで印象が波及するリスクを抱えます。

型 2:サブブランド

企業名を前面に出しつつ、商品ごとに固有の名前を組み合わせる型です。「企業名+商品名」という形で表記されることが多く、企業の信頼を活かしながら、商品ごとの個性も出せます。

  • 長所:企業の信頼を土台にしながら、商品ごとの差別化ができる。マスターブランドより柔軟
  • 短所:企業名と商品名、両方の識別体系を管理する必要があり、マスターブランドよりコストがかかる

飲料メーカーが、企業名を冠しつつ商品ごとに固有の愛称を付けて展開するのは、この型の典型例です。企業の信頼を前提にしながら、商品ごとの世界観を出せるため、幅広い商品ラインアップを持つ業種でよく採用されます。

型 3:エンドースドブランド

商品や事業には独自の名前を付けつつ、企業名を「保証」として控えめに添える型です。企業名は前面には出さず、パッケージの隅や公式資料でのみ確認できる程度にとどめることが多くなります。

  • 長所:商品ごとの個性を強く出せる一方、企業の信頼という後ろ盾も持てる。新しい客層を狙う商品を出しやすい
  • 短所:企業名と商品名の結びつきが弱いため、相手が両者を関連づけにくい。管理する識別体系の数が増える

化粧品メーカーが、ブランドごとにまったく異なる世界観のパッケージを展開しつつ、企業名は公式資料や品質保証の表記としてのみ添えるのは、この型の典型例です。ブランドごとの個性を最大限に発揮しながら、万一の際は企業としての信頼で下支えできます。

型 4:独立ブランド

企業名をまったく前面に出さず、商品や事業ごとに完全に独立したブランド名を使う型です。相手からは、同じ企業が展開しているとは分からないことも珍しくありません。

  • 長所:企業のほかの事業やブランドの影響を受けずに、独自のポジショニングを確立できる。買収や事業売却の際の柔軟性も高い
  • 短所:ブランドごとに認知を一から積み上げる必要があり、コストが最も高い。企業全体としての一体感は生まれにくい

複数のホテルブランドを傘下に持つ企業が、宿泊価格帯や客層ごとにまったく異なる名前を使い分けるのは、この型の典型例です。それぞれの客層に最適化した世界観を作れる一方、ブランドごとに認知形成の投資が独立して発生します。

次の図は、4 つの型を、企業名と商品名の結びつきの強さで並べたものです。

flowchart LR
  A[マスターブランド<br/>結びつき強い] --> B[サブブランド]
  B --> C[エンドースドブランド]
  C --> D[独立ブランド<br/>結びつき弱い]

📝 補足 実際の企業は、4 つの型のどれか 1 つだけを厳密に採用しているとは限りません。主力事業ではマスターブランドを使いながら、新規事業だけ独立ブランドで展開するというように、複数の型を組み合わせて運用するケースも多く見られます。

BtoB と BtoC での使い分け

4つの型のどれを選ぶかは、業態によっても傾向が変わります。

BtoB の企業では、マスターブランドやサブブランドが選ばれやすい傾向があります。取引の判断において、相手企業の担当者は「どの会社が提供しているか」を重視するためです。企業としての信頼が、そのまま商品選定の判断材料になりやすい構造があります。

BtoC の企業、特に消費財のように、購入の判断が短時間で行われる業界では、エンドースドブランドや独立ブランドが選ばれやすい傾向があります。商品カテゴリごとに求められる印象が大きく異なる場合、企業名を前面に出すよりも、商品ごとに独立した世界観を作るほうが、相手に響きやすいためです。

ある国内の日用品メーカーの例で考えると、洗剤・化粧品・食品という複数のカテゴリを持つ場合、それぞれの棚で求められる印象がまったく異なります。洗剤の棚では清潔感や実用性が重視され、化粧品の棚では上質さや専門性が重視されます。この場合、1 つのマスターブランドですべてを覆おうとすると、どのカテゴリでも中途半端な印象になりかねません。

🔰 初学者の方へ 「BtoB だからマスターブランド、BtoC だから独立ブランド」という単純な図式で覚えないようにしてください。あくまで傾向であり、BtoC でもマスターブランドが機能する業態はありますし、BtoB でも事業ごとに独立ブランドを持つ企業もあります。自社の商品カテゴリごとの相手の判断基準を見て決める必要があります。

ブランドを増やすコストと減らす痛み

ブランドアーキテクチャを検討する際、見落とされがちなのが「増やすコスト」と「減らす痛み」の両方を考えることです。

ブランドを増やすコスト

新しいブランドを 1 つ立ち上げるたびに、次のようなコストが発生します。

  • 認知を一から積み上げるための広告・宣伝の費用
  • ロゴ・色・書体といった識別体系を新たに整備する費用
  • ブランドガイドラインを新たに作成し、関係者に浸透させる手間
  • 既存ブランドとの整合性を確認し続ける管理の手間

ブランドを増やす判断は、多くの場合「新しい客層を狙いたい」「既存ブランドのイメージを守りたい」という前向きな理由から始まります。しかし、増やした後の維持コストは、立ち上げ時点では過小評価されがちです。

ブランドを減らす痛み

一方で、増えすぎたブランドを整理しようとすると、別の痛みが発生します。長年そのブランドに親しんできた相手は、名前が変わることに戸惑い、離れてしまうことがあります。社内でも、そのブランドを育ててきた担当者や、関連する取引先との関係に配慮が必要になります。

ブランドを減らす、あるいは統合するという決断は、多くの場合、増やすときよりも心理的な抵抗が大きくなります。「せっかく築いてきたものを手放す」という感覚が、社内外に生まれるためです。

⚠️ 注意 「ブランドを増やせば、選択肢が増えて売上も伸びる」という発想だけで判断すると、数年後に「管理しきれないブランド群」を抱えることになりかねません。ブランドアーキテクチャを検討する際は、増やす判断と同じ重みで、将来減らす可能性についても議論しておくことが望ましいといえます。

命名の階層をどう設計するか

ブランドアーキテクチャが決まったら、それを実際の名前としてどう表現するかを設計します。これを命名の階層と呼びます。

命名の階層を設計する際の基本的な考え方は、次の 3 段階です。

  1. 企業名をどこまで前面に出すか(型 1 から型 4 のどれに近いかを決める)
  2. 事業やカテゴリの単位で、共通の呼び方を作るかどうかを決める
  3. 個別の商品・サービスに、固有の名前を付けるかどうかを決める

この 3 段階を整理せずに命名を進めると、ある商品には企業名が付き、別の商品には付かない、というように、一貫性のない命名が生まれやすくなります。

📖 もっと詳しく ネーミングそのものの発想法や、言葉の選び方については、レッスン4で扱います。本レッスンで扱うのは、あくまで「どの階層で、どこまで名前を共通化するか」という構造の設計です。個別の名前を決める前に、まずこの階層構造を固めておくことで、後から命名がぶれるのを防げます。

ブランドポートフォリオ全体を俯瞰する

複数のブランドを抱える企業では、個々のブランドの型を決めるだけでなく、全体をポートフォリオとして俯瞰する視点も必要になります。

次の図は、企業ブランドの下に、複数の事業ブランドと、それぞれに紐づく商品ブランドが連なる、典型的なポートフォリオの構造を表しています。

flowchart TD
  subgraph corp1[企業ブランド]
    A[企業名]
  end
  subgraph biz1[事業ブランド]
    B[事業ブランド 1]
    C[事業ブランド 2]
  end
  subgraph prod1[商品ブランド]
    D[商品 1]
    E[商品 2]
    F[商品 3]
  end
  A --> B
  A --> C
  B --> D
  B --> E
  C --> F

このような図を一度作っておくと、次のような点検がしやすくなります。

  • 似たような立ち位置のブランドが重複していないか
  • ある事業ブランドだけ、識別体系が他と大きく異なっていないか
  • 新しい商品を出すとき、どの階層に位置づけるべきかが明確か

ポートフォリオ全体を俯瞰する作業は、年に 1 度程度、定期的に見直す時間を設けることが望ましいといえます。事業が拡大するにつれて、当初の設計とは異なるブランドが自然発生的に増えていくことは珍しくありません。

🔰 初学者の方へ 自社のブランドをすべて紙に書き出し、企業ブランドとの距離感で並べてみると、思いのほか整理されていないことに気づく場合があります。まずは現状を可視化することが、ブランドアーキテクチャを考える第一歩です。

講師の現場メモ:3 年で撤退したブランドの話

私が消費財メーカーで担当した 4 つのブランドのうち、1 つは 3 年で撤退という結果に終わりました。当時、既存の主力ブランドとは別に、新しい客層を狙って独立ブランドを立ち上げる企画に加わりました。

立ち上げの判断自体は、決して無謀なものではありませんでした。市場調査でも、狙った客層に一定の関心があることが確認できていましたし、社内の合意も取れていました。しかし、実際に走らせてみると、いくつもの想定外が重なりました。

まず、独立ブランドとして立ち上げた以上、既存ブランドの認知や信頼をほとんど活用できませんでした。広告費は当初の見積もりの 1.5 倍以上かかり、それでも認知は思うように積み上がりませんでした。次に、社内のリソースが既存の主力ブランドに優先的に割かれ、新ブランドへの投資判断が後回しにされる場面が続きました。「増やすコスト」を見積もってはいたつもりでしたが、実際にかかったコストは、見積もりを大きく上回っていたのです。

3年目の見直しの場で、私は「撤退」を提案する側に回りました。これは簡単な決断ではありませんでした。立ち上げに関わったメンバーの努力、費やした予算、社外に発表した以上の対外的な体裁——さまざまな事情が、撤退の判断を難しくします。それでも、投資を続けるほど損失が膨らむ状況が明らかだったため、最終的に撤退という判断が下されました。

この経験から学んだのは、ブランドを増やす判断をするときには、同時に「撤退の基準」も決めておくべきだということです。何年で、どのような数値に達しなければ撤退するのか。それをあらかじめ決めておかないと、撤退の判断はいつまでも先送りされます。撤退は失敗の証明ではなく、増やす判断とセットで用意しておくべき、もう 1 つの経営判断です。

まとめ

このレッスンでは、以下のことを学びました。

  • ブランドアーキテクチャとは、複数のブランドをどのような構造で関係づけるかという設計である
  • 4 つの型は、企業名と商品名の結びつきの強さで、マスターブランド・サブブランド・エンドースドブランド・独立ブランドの順に並ぶ
  • BtoB ではマスターブランドやサブブランドが、BtoC の消費財ではエンドースドブランドや独立ブランドが選ばれやすい傾向がある
  • ブランドを増やすコストと、減らす痛みは、どちらも軽視できない
  • 命名の階層は、企業名・事業単位・個別商品という 3 段階で整理して設計する
  • ブランドを増やす判断には、撤退の基準もあわせて用意しておくことが望ましい

次のレッスンでは、決めたブランドの中身をどう形にするか、ブランドパーソナリティとトーン&マナー、識別体系の設計思想を扱います。


確認クイズ

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