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スキルアップカレッジ

株式承継①——自社株はいくらで、誰が持っているか

レッスン5:株式承継①——自社株はいくらで、誰が持っているか

このレッスンで学ぶこと

  • 非上場株式に値段がつく仕組みの基本的な考え方を理解する
  • 株式評価の 3 つの考え方が存在することと、使い分けの発想を理解する
  • 業績が良い会社ほど承継が難しくなるという逆説を理解する
  • 株式が分散している典型的な状態と、その原因を理解する
  • 議決権の 3 分の 2 と 2 分の 1 が意味することと、株主名簿の重要性を理解する

前回のレッスンまでは、経営を渡す作業、つまり先代・社員との関係と変革の順序を扱いました。本レッスンからは、レッスン 1 で示したもう一つの軸である「株式を渡す作業」に入ります。まず本レッスンでは、自社株そのものについて、値段の考え方と、誰が持っているかという実態を整理します。

非上場株式に値段がつく仕組み

上場企業の株式には、証券取引所での取引価格という、誰の目にも明らかな値段があります。毎日、市場で売買され、価格はリアルタイムに変動します。非上場の中小企業の株式には、この市場価格が存在しません。取引所で売買されることがないため、「今日の株価はいくらか」という問いに、単純に答えることができません。

しかし、値段がつかないわけではありません。相続や贈与で株式を渡すとき、あるいは第三者に株式を売却するときには、その時点での株式の価値を算定する必要があります。この算定を「株式評価」と呼びます。株式評価は、税務上の必要性(相続税や贈与税の計算の基礎になる)と、実務上の必要性(後継者に株式を渡す対価をいくらにするかの目安になる)の両方から求められます。

🔰 初学者の方へ 「自社の株にも値段がつく」という事実に、驚く後継者は少なくありません。日々の経営の中では意識する機会が少ない自社株ですが、承継の場面では、この値段が贈与税や相続税の金額に直接影響します。値段の考え方を知っておくことは、承継を計画するうえでの土台になります。

株式評価には専門的な計算が伴い、最終的な評価額の算定は税理士の業務です。本コースでは、後継者が最低限知っておくべき「考え方の枠組み」に絞って扱います。具体的な計算式や、評価額を調整する各種の斟酌率といった詳細には立ち入りません。


株式評価の 3 つの考え方

非上場株式の評価には、大きく分けて 3 つの考え方があります。それぞれの名前と、おおまかな発想の違いを押さえておきましょう。

第 1 は、類似業種比準方式です。同業種の上場企業の株価を参考にして、自社の利益や純資産などの規模を比較しながら、評価額を算定する考え方です。業績が良く、利益を多く上げている会社ほど、この方式では評価額が高くなる傾向があります。

第 2 は、純資産価額方式です。会社が保有する資産から負債を差し引いた、いわゆる純資産の額をもとに評価額を算定する考え方です。土地や建物などの資産を多く保有している会社では、この方式による評価額が高くなる傾向があります。

第 3 は、配当還元方式です。会社が支払ってきた配当の実績をもとに評価額を算定する考え方です。この方式は、主に経営に関与しない少数株主が保有する株式の評価に用いられ、一般的に前の 2 つの方式よりも低い評価額になる傾向があります。

⚠️ 注意 本コースでは、この 3 つの方式が「存在すること」と「どういう場合にどの方式が使われる傾向にあるか」という大枠に留めます。実際の評価では、会社の規模や株主の立場によって、どの方式をどう組み合わせて用いるかという判断が必要になり、これは税理士による専門的な計算が前提になります。自社の株式評価を具体的に知りたい場合は、必ず税理士に相談してください。

どの方式が用いられるかは、主に「評価される株式を持つ株主が、会社の経営に対してどれだけの影響力を持つか」によって変わります。経営を支配する立場にある株主が保有する株式は、会社の収益力や資産を反映した評価額(類似業種比準方式や純資産価額方式)になりやすく、経営に関与しない少数株主が保有する株式は、配当の実績に基づく評価額(配当還元方式)になりやすい、という傾向があります。

flowchart TD
  A[非上場株式の評価]
  B[類似業種比準方式<br/>同業種の上場企業と比較]
  C[純資産価額方式<br/>資産から負債を差し引く]
  D[配当還元方式<br/>配当の実績をもとに算定]

  A --> B
  A --> C
  A --> D

図1:非上場株式評価の 3 つの考え方。経営を支配する立場の株主と、少数株主とで、用いられる方式の傾向が異なる


業績が良い会社ほど承継が難しくなる逆説

前節で見たように、業績が良く利益を積み上げている会社ほど、また、土地や建物などの資産を多く保有している会社ほど、株式の評価額は高くなる傾向があります。ここに、後継者にとって直感に反する事実が生まれます。業績が良い会社ほど、株式承継の負担が重くなるという逆説です。

会社の経営がうまくいっていて、後継者としては誇らしいはずの状況が、株式を承継する側面から見ると、贈与税や相続税の負担を重くする要因になります。評価額が高い株式を贈与や相続で受け取ると、その分、税負担も大きくなります。後継者が「なぜ会社を継ぐだけで、こんなに重い税負担を負わなければならないのか」と感じる背景には、この逆説があります。

この逆説への対応として、レッスン 6 で扱う事業承継税制のような、納税を猶予する制度が用意されています。また、株式評価額が低いタイミング(会社の業績が一時的に落ち込んだときなど)を見計らって計画的に株式を移転する、といった実務上の工夫も行われます。ただし、こうした計画は税務の専門知識を要するため、税理士との連携が欠かせません。

💡 ポイント 「会社の業績を良くすることは、経営者として当然の目標である一方、株式承継の負担を重くする側面もある」という事実を知っておくことは、後継者にとって重要です。この事実を知らずに承継の計画を先延ばしにすると、いざ承継を実行する段階で、想定以上の税負担に直面することがあります。

この逆説は、後継者が経営努力を控える理由にはなりません。むしろ、業績を伸ばしながら株式承継の計画を並行して進めておくことの重要性を示しています。株式評価額は毎年の決算によって変動するため、承継の計画を早く始めるほど、税理士とともに評価額の推移を確認しながら、負担の少ないタイミングを検討する余地が広がります。逆に、承継の検討を先延ばしにし、会社の業績が伸び続けた後になって初めて株式評価に着手すると、その時点での高い評価額を前提とした重い税負担に直面することになります。


株式が分散している状態

多くの中小企業では、創業から数十年が経過する中で、株式が創業者一人の手元に留まらず、複数の株主に分散していることがあります。後継者が承継の準備を始めて初めて、自社の株主構成の複雑さに気づくケースは珍しくありません。株式の分散には、いくつかの典型的なパターンがあります。

第 1 は、名義株です。会社設立時に、旧商法の規定で必要とされた発起人の人数を満たすために、実際には出資していない親族や知人の名義を借りて株式を発行していたケースです。名義上の株主と実質的な株主が異なる状態が、そのまま何十年も放置されていることがあります。

第 2 は、所在不明株主です。過去に株式を保有していた人が死亡し、その相続人が誰であるか、あるいはどこに住んでいるかが分からなくなっているケースです。相続が繰り返されるたびに、株主の人数が増え、会社側で把握しきれなくなることがあります。

第 3 は、過去の増資の残骸です。過去に取引先や金融機関との関係強化を目的として、少数の株式を第三者に発行したことがあり、その後、関係が薄れているにもかかわらず、株式だけが残っているケースです。

これらの分散した株式は、普段は経営に影響を及ぼさないように見えても、株主総会で重要な決議を行う際や、株式を集約しようとする際に、大きな障害になることがあります。名義株主や所在不明株主から同意を得られないと、意思決定に必要な議決権を確保できない事態が生じます。

📝 補足 株式の分散は、先代が意図的に放置してきたわけではなく、多くの場合、代替わりや時代の変化の中で、誰も手を付けないまま積み重なってきた結果です。後継者にとって重要なのは、原因を追及することよりも、現状を正確に把握し、必要であれば整理に向けた行動を早めに始めることです。


議決権の 3 分の 2 と 2 分の 1 が意味すること

株式の保有比率は、単に「所有している割合」を示すだけでなく、会社法上、特定の比率を超えることで行使できる権限が変わるという意味を持ちます。後継者が最低限押さえておくべき節目は、2 分の 1 超と 3 分の 2 以上の 2 つです。

議決権の 2 分の 1 超を保有すると、株主総会の普通決議を単独で可決できます。取締役の選任・解任など、会社の日常的な経営に関わる多くの意思決定が、普通決議で行われます。

議決権の 3 分の 2 以上を保有すると、株主総会の特別決議を単独で可決できます。定款の変更、事業の重要な譲渡、合併など、会社の根幹に関わる重要な意思決定は、特別決議によって行われます。

後継者が経営権を実質的に確立するためには、少なくとも 2 分の 1 超、望ましくは 3 分の 2 以上の議決権を確保することが目安とされています。前節で見たような株式の分散がある会社では、後継者が代表取締役に就任していても、議決権の集約が進んでいないために、重要な決議を単独で進められない状態にとどまっていることがあります。

⚠️ 注意 代表取締役という肩書と、議決権の保有比率は、まったく別の話です。代表取締役に就任しても、議決権の過半数を先代やほかの株主が握っている段階では、法律上の最終的な意思決定権は後継者にありません。レッスン 1 で扱った「経営を渡す作業」と「株式を渡す作業」が別物であるという原則は、ここに集約されています。


まず作るべき株主名簿

株式が分散している可能性がある会社にとって、承継の準備として最初に取り組むべき作業は、正確な株主名簿を作ることです。株主名簿とは、誰が、どれだけの株式を、いつから保有しているかを記録した名簿です。

多くの中小企業では、法律上、株主名簿の作成と備え置きが義務付けられているにもかかわらず、実際には長年更新されていない、あるいはそもそも存在しないというケースが見られます。この状態のまま承継を進めると、いざ株式を集約しようとしたときに、名義株主が誰なのか、所在不明株主がどこにいるのかが分からず、手続きが滞ります。

株主名簿を整備する作業は、次のような手順で進めます。

  • 会社の登記簿や定款、過去の株主総会議事録、税務申告書の別表二などの資料から、現時点で把握できる株主を洗い出す
  • 各株主の氏名、住所、保有株式数、取得の経緯を確認する
  • 名義株や所在不明株主の疑いがある場合は、実態の調査を進める
  • 調査の結果を反映した最新の株主名簿を作成し、以後は変更のたびに更新する

この作業は、後継者が単独で進められるものではなく、税理士や弁護士など専門家の関与が必要になる場面が多くあります。特に、名義株の実態確認や、所在不明株主の探索には、法律上の手続きが関わるため、早い段階で専門家に相談することが望まれます。

💡 ポイント 株主名簿の整備は、地味で後回しにされがちな作業ですが、承継の土台になる最も重要な作業の一つです。株式の評価や税制の活用を検討する前に、まず「誰が株主か」を正確に把握することから始めてください。

株主名簿の整備が進むと、次に見えてくるのが、株主一人ひとりとの関係の温度差です。経営に関心を持ち続けている株主もいれば、株式を保有していること自体を忘れているような株主もいます。後継者にとっては、名簿を整えるだけでなく、主要な株主とは折を見て顔を合わせ、会社の現状を伝えておくことも、将来の合意形成を円滑にする備えになります。


株式が分散したままだと何が起きるか——具体例

株式の分散が、実際にどのような問題を引き起こすのか、架空の例で具体的に見ておきます。ある卸売業の会社では、代表取締役である後継者が発行済み株式の 55 パーセントを保有し、残りの 45 パーセントは、先代の兄弟姉妹とその子どもたち、合わせて 12 名に分散していたとします。このうち 3 名は、すでに転居先が分からず、会社側で連絡が取れない状態が続いています。

この会社が、事業拡大のために本店の所在地を変更しようとしたとします。定款に定めた本店所在地の変更は、株主総会の特別決議、つまり議決権の 3 分の 2 以上の賛成が必要です。後継者が保有する 55 パーセントだけでは、特別決議を単独で可決できません。連絡の取れる株主から追加の賛成を集めようとしても、所在不明の 3 名を含む一部の株主から同意を得られなければ、必要な議決権に届かない可能性があります。

このように、日常の経営には直接影響しない株式の分散が、いざ会社にとって重要な意思決定が必要になった局面で、大きな障害として表面化します。しかも、所在不明株主の探索や、株式の買い取り交渉には、数か月から数年単位の時間がかかることも珍しくありません。重要な決議が必要になってから慌てて対応するのではなく、平時のうちに株主構成を整理しておくことの重要性が、この例からもわかります。

⚠️ 注意 株式の分散は、会社が小さいうちや、重要な意思決定を必要としない期間には、問題として意識されにくいものです。しかし、事業拡大、M&A、増資など、会社にとって重要な局面ほど、株主総会の特別決議を必要とする場面が増えます。「今は困っていないから大丈夫」という判断は、将来の局面で足かせになるリスクを見過ごしている可能性があります。


自己株式の取得という選択肢

株式の分散を解消する手段の一つに、会社自身が株主から株式を買い取る「自己株式の取得」という方法があります。会社が自己の株式を取得すると、その株式は原則として議決権を持たなくなり、実質的に発行済み株式の総数から除かれた状態になります。結果として、残った株主の議決権比率が相対的に高まります。

例えば、経営に関与しない少数株主が「株式を手放したい」という意向を示している場合、後継者個人が買い取るのではなく、会社が自己株式として買い取るという選択肢があります。この方法には、後継者個人の資金負担を抑えられるという利点がある一方、会社法上の手続き(株主総会での決議、財源規制の確認など)が必要であり、会社の財務状況によっては実行が難しい場合もあります。

所在不明株主についても、一定の手続きを経ることで、会社が株式を売却したり買い取ったりできる制度が会社法に用意されています。ただし、この手続きには公告や一定期間の催告など、法律で定められた厳格な要件があり、専門家の助力なしに進めることは現実的ではありません。

📖 もっと詳しく 自己株式の取得や所在不明株主に関する手続きは、会社法上の要件が細かく定められており、誤った手続きを踏むと決議自体が無効になるリスクもあります。株式の分散解消を検討する段階になったら、早めに弁護士や司法書士に相談し、自社の状況に合った具体的な手順を確認することが不可欠です。


後継者が今日から確認できる 3 つのこと

本レッスンの内容を実務に落とし込むために、後継者が今日からでも確認できる 3 つの行動を挙げます。

第 1 に、現在の株主構成を書き出してみることです。会社の登記簿や税務申告書の別表二を確認し、誰が、どれだけの株式を保有しているかを一覧にします。この作業だけでも、自社の株式がどの程度分散しているかの実態が見えてきます。

第 2 に、自分自身と、経営を共にする親族が保有する議決権の合計を計算してみることです。2 分の 1 を超えているか、3 分の 2 に届いているかを確認することで、将来の重要な意思決定に必要な議決権が確保できているかどうかがわかります。

第 3 に、連絡が取れない株主や、実態が不明な名義株主がいないかを確認することです。わずかでも心当たりがあれば、早めに税理士や弁護士に相談し、実態調査の要否を検討することが、後々の負担を減らします。

💡 ポイント 株式承継は、税理士や弁護士に相談する前の段階で、後継者自身が「現状を把握する」ことから始まります。専門家に相談する際も、自社の株主構成をあらかじめ整理しておくことで、相談がより具体的で実りの多いものになります。


まとめ

このレッスンでは、以下のことを学びました。

  • 非上場株式には市場価格がないが、贈与や相続、譲渡の場面で株式評価が必要になる
  • 株式評価には類似業種比準方式・純資産価額方式・配当還元方式の 3 つの考え方があり、株主の立場によって用いられる傾向が異なる
  • 業績が良く資産が多い会社ほど株式評価額が高くなり、承継時の税負担が重くなる逆説がある
  • 株式は名義株・所在不明株主・過去の増資の残骸などの形で分散していることがある
  • 議決権の 2 分の 1 超で普通決議、3 分の 2 以上で特別決議を単独で可決できる
  • 承継の準備として、まず正確な株主名簿を作ることが土台になる

次のレッスンでは、株式承継の制度面を扱います。法人版事業承継税制の仕組みと期限、遺留分に関する民法の特例、種類株式という選択肢について学びます。


確認クイズ

このレッスンの理解度をチェックしましょう。