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スキルアップカレッジ

経営者保証を引き継ぐということ——金融機関との対話

レッスン7:経営者保証を引き継ぐということ——金融機関との対話

このレッスンで学ぶこと

  • 先代の個人保証が承継時にどう扱われるかの基本を理解する
  • 経営者保証に関するガイドラインの 3 要素に触れつつ、承継時に何が論点になるかを理解する
  • 前経営者と後継者から二重に保証を取らないという考え方を理解する
  • 経営者保証改革プログラムと企業価値担保権が承継に持つ意味を理解する
  • 承継を金融機関にいつ伝えるか、承継後 1 年目の決算をどう説明するかを理解する

前回のレッスンでは、事業承継税制、遺留分の特例、種類株式という、株式承継の制度面を扱いました。本レッスンでは、株式と並んで承継時に重い意味を持つ、もう一つの引き継ぎ対象——経営者保証を扱います。

経営者保証とは何か——承継の文脈での位置づけ

多くの中小企業では、金融機関からの融資を受ける際、代表者個人が会社の債務を保証する「経営者保証」が付されています。会社が返済不能に陥った場合、代表者個人の資産(自宅を含む)が返済に充てられる可能性があるという、重い約束です。

先代がこの経営者保証を差し入れたまま代表者を退任し、後継者が新しい代表者に就任すると、この保証をどう扱うかという問題が生じます。何もしなければ、先代の保証はそのまま残り続けます。後継者が新たに保証を求められれば、先代と後継者の両方が保証人になる、いわゆる二重の保証状態が生まれる可能性もあります。

経営者保証の制度そのものの詳細な解説——保証を外すための一般的な実務や、ガイドラインの各要素の深い掘り下げ——は、中小企業経営に関する入門教材の領域です。本コースでは、承継という場面に限定して、先代の保証がどうなるか、後継者はどう向き合うべきかという論点に絞って扱います。

⚠️ 注意 経営者保証は、承継の中でも特に見落とされがちな論点です。株式や経営権の承継に意識が向きがちですが、保証の引き継ぎを放置すると、先代が引退後も個人としてのリスクを抱え続けることになります。承継の計画には、必ず保証の扱いを含めてください。

見落とされがちな理由の一つは、経営者保証が日々の経営の中で意識される機会の少ない契約だからです。融資を受けた当初に署名した書類がそのまま存在し続けるだけで、日常業務の中で頻繁に確認する対象にはなりません。だからこそ、承継という節目を、保証の状況を棚卸しする機会として意識的に活用することが大切です。


経営者保証に関するガイドラインと承継のタイミング

金融機関と中小企業経営者との間で、経営者保証に依存しすぎない融資慣行を進めるための指針として、2013 年 12 月に「経営者保証に関するガイドライン」が公表され、法人と個人の資産・経理の分離、財務基盤の強化、適時適切な情報開示という 3 つの要素を満たす企業について、経営者保証なしでの融資や保証の解除を検討する余地があるとしています。このガイドラインの詳細な内容や、金融機関側の運用の実態といった掘り下げは、中小企業経営に関する入門教材に譲り、本レッスンでは承継の場面に絞って扱います。

承継のタイミングは、経営者保証の見直しを検討する好機とされています。後継者が新しい代表者に就任する際、金融機関に対して、会社の資産・経理の状況や、財務基盤の状況を改めて説明する機会が生まれるためです。この機会を活かせるかどうかは、レッスン 3 で扱った「承継を金融機関にいつ、どう伝えるか」という対応の丁寧さにもかかっています。裏を返せば、承継の準備を怠ったまま金融機関に接触すると、せっかくの見直しの機会を活かせないまま先代の保証だけが残り続ける結果にもなりかねません。


前経営者と後継者から二重に保証を取らないという考え方

承継の場面で、金融機関が特に配慮すべきとされているのが、前経営者(先代)と後継者の双方から、二重に保証を取得しないという考え方です。これは、経営者保証改革プログラムの中で、事業承継時の特則として整理されている考え方です。

先代の代からの融資契約に経営者保証が付いている状態で、後継者が新たに代表者に就任した際、金融機関が「念のため」という理由で、先代の保証を残したまま後継者にも新たに保証を求めると、一つの会社の同じ債務に対して、2 人分の個人保証が積み重なることになります。この状態は、先代にとっても後継者にとっても、過大な負担です。

この問題意識から、承継の際は、原則として保証人を先代から後継者へ「入れ替える」形が望ましいとされ、二重の徴求を避けるべきだという考え方が、金融機関の実務にも浸透してきています。ただし、これは金融機関が一律に義務付けられているものではなく、会社の財務状況や、後継者の経営体制によっては、金融機関側の判断で保証の扱いが変わる場合もあります。

💡 ポイント 「先代の保証は自動的に外れる」と考えるのは早計です。保証の見直しは、後継者側から金融機関に働きかけ、法人と個人の資産分離の状況や、財務状況の改善を具体的に説明することで、初めて進む交渉です。何もせずに待っていても、保証の見直しは進みません。

先代の保証をどう扱うかを金融機関と協議する際は、次のような点を具体的に説明できるよう準備しておくことが望まれます。

  • 後継者への経営体制の移行が、どの程度進んでいるか
  • 法人の資産と、後継者個人の資産が、明確に分離されているか
  • 会社の財務状況(自己資本比率、業績の推移など)
  • 今後の事業計画と、返済の見通し

経営者保証改革プログラムと企業価値担保権

経営者保証を巡る制度は、近年、大きく動いています。ここでは、承継に関わる範囲で、2 つの動きに触れます。

一つは、経営者保証改革プログラムです。金融機関が経営者保証に依存しすぎない融資を進めるための取り組みとして、スタートアップ・創業、民間金融機関の融資、信用保証付融資、中小企業のガバナンスという 4 つの分野にわたる施策が進められています。この中で、事業承継時の保証の扱いについても、金融機関に対する要請が盛り込まれています。

もう一つは、事業性融資推進法に基づく「企業価値担保権」という新しい制度です。この制度は、2026 年 5 月 25 日に施行されました。企業の総財産(有形の資産だけでなく、事業の将来性や技術力、取引先との関係といった無形の価値も含む)を担保として、信託の仕組みを用いて融資を受けられるようにする制度です。不動産などの個別の担保や、経営者個人の保証に依存しない融資を後押しする狙いがあります。

この制度が承継にとって意味を持つのは、経営者保証への依存を減らす選択肢が広がることで、後継者が過大な個人保証を引き継ぐリスクを減らせる可能性があるためです。ただし、施行されたばかりの制度であり、実際に中小企業の承継の現場でどこまで活用が広がるかは、今後の動向を注視する必要があります。

📝 補足 企業価値担保権は、2026 年 5 月に施行されたばかりの新しい制度です。制度の詳細な利用条件や、金融機関ごとの取り扱いは、今後の運用の中で明らかになっていく部分が多くあります。自社での活用を検討する場合は、取引金融機関に直接問い合わせ、最新の情報を確認してください。

こうした制度の広がりは、後継者にとって選択肢が増えるという意味で歓迎すべき動きですが、既存の融資契約にすでに付いている経営者保証が、新しい制度の登場によって自動的に見直されるわけではありません。新しい制度の活用を検討する場合も、まずは現在の保証契約の内容を正確に把握し、金融機関との対話を通じて、見直しの余地があるかを確認するところから始めることになります。制度の存在を知っているだけでは変化は起きず、後継者自身が動く必要があるという点は、本レッスンを通じて繰り返し強調している姿勢です。


承継を金融機関にいつ伝えるか

承継の計画を金融機関にいつ伝えるべきかは、後継者にとって悩ましい判断です。早すぎると、承継がまだ流動的な段階での憶測を招く懸念があり、遅すぎると、金融機関との信頼関係を損なう懸念があります。

実務上、望ましいとされるのは、承継の方向性が固まった段階で、できるだけ早く、金融機関側から人づてに聞く前に、経営者自身の口から伝えることです。金融機関にとって、融資先の代表者交代は、融資判断に直結する重要な情報です。もし金融機関が、取引先や地域の噂を通じて承継の情報を先に知ることになれば、「なぜ直接教えてくれなかったのか」という不信感を招きます。

伝えるタイミングの目安として、次のような段階が考えられます。

  • 後継者が決まり、承継の方向性が固まった段階:おおまかな方針を伝える
  • 権限移譲が進み、後継者が実務の中心を担うようになった段階:後継者を金融機関の担当者に紹介し、面談の機会を作る
  • 代表者の交代が正式に決まった段階:具体的な時期と、保証の扱いについての希望を伝える

🔰 初学者の方へ 金融機関への報告を「悪いニュースを伝えるようで気が重い」と感じる後継者もいますが、承継は会社の将来を見据えた前向きな出来事です。金融機関にとっても、後継者の経営体制を早くから把握できることは、融資判断をしやすくする材料になります。隠すべき情報ではなく、積極的に共有すべき情報として捉えてください。


複数の金融機関がある場合の対応

中小企業の多くは、1 つの金融機関だけでなく、複数の金融機関と取引しています。メインバンクと呼ばれる主要な取引先のほかに、地方銀行、信用金庫、政府系金融機関など、複数の金融機関から融資を受けているケースが一般的です。承継時の保証の見直しは、この複数の金融機関それぞれと、個別に協議を進める必要があります。

ここで実務上の注意点になるのが、金融機関ごとに保証の見直しに対する姿勢や進め方が異なることです。ある金融機関では先代の保証をすぐに後継者へ切り替える方向で協議が進んでも、別の金融機関では慎重な姿勢を崩さないということが起こり得ます。この違いは、各金融機関が会社の財務状況や後継者の経営体制をどう評価しているか、また、各金融機関内部の審査方針によって生じます。

複数の金融機関と並行して協議を進める際は、次のような進め方が実務上参考にされています。

  • まずメインバンクと丁寧に協議し、保証見直しの方向性について合意を得る
  • メインバンクでの協議の進捗を、ほかの金融機関にも共有する(メインバンクの姿勢は、ほかの金融機関の判断材料になることがある)
  • 金融機関ごとに、担当者との関係を個別に築き、一律の対応を求めすぎない

📝 補足 複数の金融機関との協議を、後継者一人ですべて並行して進めるのは負担が大きい作業です。顧問税理士や、地域の事業承継・引継ぎ支援センターのような支援機関に相談しながら進めると、協議の優先順位や進め方について助言を得られることがあります。支援機関の詳細はレッスン 8 で扱います。

融資の種類によっては、金融機関の窓口担当者以外にも、承継の状況を伝えておくべき先が存在する場合があります。保証機関を介した融資を利用しているときは、その保証機関側の窓口にも状況を伝えておくと、承継後の手続きが円滑に進みやすくなります。自社がどのような融資形態を利用しているかは、決算書の借入金の内訳や、顧問税理士への確認を通じて把握しておくとよいでしょう。


保証を引き継ぐことの心理的な重さ

経営者保証は、実務上の手続きであると同時に、後継者にとって心理的に重い意味を持ちます。自宅を含む個人資産が、会社の債務の担保になっているという事実は、日々の経営判断に影を落とすことがあります。

この心理的な重さについて、本レッスンでは詳しく踏み込みませんが、一点だけ触れておきます。経営者保証を背負うことへの不安は、後継者だけが特別に感じるものではなく、多くの経営者が共通して抱える感覚です。この重さそのものへの向き合い方や、保証があることで経営判断がどう縛られるかという論点は、経営者の意思決定に関する入門教材が、より一般的な視点から扱っています。本コースでは、承継の場面に固有の論点、つまり「先代の保証をどう引き継ぐか」「金融機関とどう対話するか」という実務に絞って扱っています。

🔰 初学者の方へ 経営者保証について不安を感じることは、決して弱さの表れではありません。むしろ、その重さを正しく認識しているからこそ、レッスン 5・6 で扱った株式の分散整理や、本レッスンで扱った保証の見直しといった、具体的な準備に取り組む動機が生まれます。不安を漠然と抱え込むのではなく、一つずつ実務の課題として分解し、専門家や金融機関との対話に落とし込んでいくことが、承継を前に進める力になります。


保証見直しの協議で準備しておきたい資料

金融機関との保証見直しの協議を実りあるものにするため、後継者があらかじめ準備しておくとよい資料を整理します。

  • 直近数期分の決算書と、可能であれば月次の試算表
  • 後継者への権限移譲の進捗がわかる資料(組織図の変更履歴、決裁権限の委譲状況など)
  • 法人と個人の資産・経理が分離されていることを示す資料(役員貸付金や役員借入金の有無など)
  • 今後 3 〜 5 年程度の事業計画の概要

これらの資料は、レッスン 5 で扱った株主名簿の整備や、レッスン 6 で扱った税理士への相談と並行して準備を進めると、効率的です。金融機関との協議は一度で終わるものではなく、数回にわたる対話を通じて信頼を積み上げていく性質のものです。最初の協議で結論を急がず、継続的な対話の場として位置づける姿勢が、結果的に良い関係を築きます。

💡 ポイント 資料を整えて協議に臨むことは、金融機関に対して「この後継者は経営の実態を把握している」という印象を与えます。この印象の積み重ねが、保証の見直しだけでなく、その後の融資条件全般にも良い影響を与えます。


承継後 1 年目の決算をどう説明するか

後継者が正式に代表者に就任した後、最初に迎える決算の説明は、金融機関との関係を占ううえで重要な意味を持ちます。

承継直後の決算は、権限移譲や体制の変化に伴う一時的な費用(先代の退職慰労金、組織変更に伴うコストなど)によって、通常の期と比べて数値が悪化することがあります。この変化を、金融機関に対してあらかじめ説明しておくことが重要です。何の説明もなく決算数値の悪化だけを見せると、金融機関は「新しい経営者になって業績が傾いた」という印象を持ちかねません。

決算説明の際は、次の点を意識して伝えることが望まれます。

  • 数値の変化が、承継に伴う一時的な要因によるものか、事業そのものの問題によるものかを明確に分ける
  • 後継者自身の言葉で、今後の事業の見通しと、経営方針を説明する
  • レッスン 4 で扱った変革の進め方(お金の流れから着手する段階的な計画)を、金融機関にも共有し、性急な変化ではないことを伝える

💡 ポイント 承継後 1 年目の決算説明は、後継者が「自分の言葉で会社の状況を語れるか」を金融機関が見極める最初の機会でもあります。先代に頼らず、後継者自身が数字の背景を説明できるようになっていることが、その後の融資関係を左右します。この準備は、レッスン 2 で扱った「銀行対応を渡す」段階と直接つながっています。

決算説明の場に、先代が同席するかどうかも、事前に考えておきたい論点です。承継直後は、先代が同席し、後継者を金融機関の担当者に改めて紹介する形が安心感を生みやすい一方、いつまでも先代が説明の主役であり続けると、金融機関は「実質的な経営権はまだ先代にあるのではないか」という印象を持ちます。レッスン 2 で扱った権限移譲のスケジュールと同様に、決算説明における先代の関与も、段階的に後継者へ移していく意識を持つことが望まれます。2 期目、3 期目と回を重ねるごとに、後継者が単独で説明する場面を増やしていくことが、金融機関との信頼構築において一つの目安になります。


まとめ

このレッスンでは、以下のことを学びました。

  • 先代の経営者保証は、代表者の交代後も自動的には外れず、承継の計画に保証の扱いを含める必要がある
  • 経営者保証に関するガイドラインの 3 要素は、承継時に金融機関へ説明する材料として活用できる
  • 前経営者と後継者から二重に保証を取らないという考え方が、金融機関の実務に浸透しつつある
  • 経営者保証改革プログラムと、2026 年 5 月施行の企業価値担保権は、保証への依存を減らす選択肢を広げる動き
  • 承継の情報は、金融機関が人づてに聞く前に、経営者自身の口から早めに伝えることが望ましい
  • 承継後 1 年目の決算説明では、一時的な要因と事業の実態を分けて、後継者自身の言葉で伝えることが重要

株式と経営者保証という、承継における 2 つの重い引き継ぎ対象を、レッスン 5・6・7 を通じて扱ってきました。いずれも、後継者が一人で抱え込むのではなく、税理士・弁護士・金融機関という専門家や機関との対話を通じて、段階的に整理していく性質のものです。次のレッスンでは、親族内に後継者がいない場合の選択肢を扱います。従業員承継、第三者承継、廃業という道と、それぞれを支える支援インフラについて学びます。


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