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スキルアップカレッジ

継げないとき——従業員承継・第三者承継・廃業/支援インフラ

レッスン8:継げないとき——従業員承継・第三者承継・廃業/支援インフラ

このレッスンで学ぶこと

  • 親族内に後継者がいないことが珍しくないという現実を理解する
  • 従業員承継(EBO)の意義と、株式取得資金・保証という最大の壁を理解する
  • 第三者承継(M&A)を選択肢として検討する際に知っておくべき基本を理解する
  • 黒字廃業という選択の考え方を理解する
  • 事業承継を支える支援インフラの全体像と、修了後の学習の方向を理解する

前回のレッスンでは、先代の経営者保証をどう引き継ぐか、金融機関との対話を扱いました。本コース最後のレッスンでは、レッスン 1 で示した 4 つの道のうち、親族内承継以外の 3 つの道——従業員承継、第三者承継、廃業を扱います。

親族内に後継者がいないことは珍しくない

レッスン 1 で確認した後継者不在率の数字が示す通り、親族内に後継者が見つからない会社は、決して少数派ではありません。子どもが会社を継ぐ意思を持たない、子どもがいない、あるいは子どもに継がせることが会社にとって最善とは限らないと経営者自身が判断する、といった事情は、さまざまな会社で起こり得ます。

このレッスンをここまで読んできた方の中には、親族内承継を前提に読み進めてきた方もいれば、親族外の立場から後継者に指名されている方もいるかもしれません。いずれの立場であっても、親族内承継が唯一の正解ではないという事実を知っておくことは、経営者自身にとっても、後継者候補にとっても、選択肢を広げる意味を持ちます。

💡 ポイント 中核メッセージの一つとして本コースが繰り返し伝えているのは、「継げないことは失敗ではなく、選択肢のひとつ」という考え方です。親族内承継にこだわりすぎて決断が遅れることは、結果的に会社にとっても、従業員にとっても、望ましくない結末を招くことがあります。


従業員承継(EBO)——最大の壁は株式取得資金と個人保証

親族に後継者がいない場合の有力な選択肢の一つが、従業員承継です。長年会社に貢献してきた役員や幹部社員が、株式を取得して経営を引き継ぐ道であり、レッスン 1 で触れた通り、EBO(Employee Buyout)と呼ばれます。

従業員承継には、いくつかの利点があります。会社の事業内容や社風をすでに理解している人材が経営を引き継ぐため、従業員や取引先との関係が比較的スムーズに継続しやすいという点です。親族外承継の中でも、社内からの承継は、社外の第三者への承継よりも、心理的な抵抗が少ないと感じる経営者も少なくありません。

一方で、従業員承継には、大きな壁が 2 つあります。第 1 の壁は、株式の取得資金です。先代から株式を買い取るには、レッスン 5・6 で扱った株式評価額に相当する資金を、後継者となる従業員が用意する必要があります。役員や幹部社員個人の資産だけでは、この資金を賄いきれないケースが多く、金融機関からの融資や、後述する支援制度の活用が必要になります。

第 2 の壁は、経営者保証です。レッスン 7 で扱ったように、代表者には金融機関への個人保証が求められることが一般的です。従業員承継の場合、それまで一従業員だった人物が、突然、会社の債務に対する個人保証を背負う立場に変わります。この心理的・経済的な負担の大きさが、従業員承継をためらわせる要因になることがあります。

⚠️ 注意 従業員承継を検討する際は、株式取得資金と経営者保証という 2 つの壁を、早い段階で具体的に見積もっておくことが重要です。「経営を任せたい人材はいるが、資金の壁で承継が進まない」という状況は、実際に多くの会社で起きています。金融機関や、後述する支援機関に早めに相談することで、対応策を検討する余地が生まれます。


従業員承継の資金調達を支える仕組み

株式取得資金という壁に対して、後継者となる従業員を支援するための仕組みが、いくつか用意されています。制度の詳細な要件や金額は、時期によって変わるため本コースでは踏み込みませんが、存在を知っておくことは、資金の壁を前に選択肢を狭めすぎないために重要です。

金融機関の融資においては、従業員承継を目的とした株式取得資金を対象とする融資制度が用意されていることがあります。信用保証協会による保証付きの融資を組み合わせることで、後継者個人の信用力だけでは難しい資金調達が可能になる場合もあります。また、事業承継税制は、レッスン 6 で扱った親族内承継だけでなく、一定の要件のもとで親族外の従業員承継にも適用され得る制度です。

これらの制度を活用するかどうかにかかわらず、後継者となる従業員が、株式取得資金の調達を検討する際には、早い段階で顧問税理士や取引金融機関に相談し、自社の状況に合った選択肢を確認することが望まれます。資金の壁を理由に承継そのものを諦める前に、まず情報を集めることが大切です。

📝 補足 従業員承継における資金支援策は、国や地方自治体の制度として整備が進んでいる分野ですが、具体的な融資条件や金額の上限は、制度の改正や自治体ごとの取り組みによって変動します。本コースでは制度の存在に留め、具体的な条件は事業承継・引継ぎ支援センターや金融機関への確認を前提とします。


第三者承継(M&A)——選択肢として知っておくべきこと

親族にも社内にも後継者が見つからない場合、社外の第三者に会社を譲渡する第三者承継、いわゆる M&A(Mergers and Acquisitions、合併・買収)が選択肢になります。

第三者承継と聞くと、「会社を売る」という否定的な響きを感じる経営者もいますが、視点を変えれば、従業員の雇用を守り、事業を存続させ、取引先との関係を継続させるための、積極的な選択肢でもあります。廃業によって事業が失われるよりも、第三者の傘下で事業が継続する方が、多くの関係者にとって望ましい結果になることは珍しくありません。

第三者承継の具体的な進め方——買い手候補の探索、デューデリジェンス(買い手による詳細な調査)の各領域、株式譲渡契約の条項、買収後の統合プロセスといった実務の詳細は、経営企画や契約に関する入門教材の領域であり、本コースでは深く扱いません。本レッスンでは、承継の選択肢として第三者承継を検討する際に、最低限知っておきたい大枠に絞って触れます。

第三者承継の相手として想定されるのは、同業他社、取引関係のある企業、あるいは、より事業を成長させることを目的とする投資ファンドなど、様々です。仲介者や FA(フィナンシャル・アドバイザー)と呼ばれる専門家が、買い手候補の探索や交渉の支援を行うのが一般的です。

📖 もっと詳しく 第三者承継の実務(買い手探索の進め方、デューデリジェンスへの対応、契約条件の交渉、買収後の統合など)を具体的に学びたい場合は、経営企画や契約実務に関する入門教材が、より詳しい内容を扱っています。本コースは、承継の選択肢としての第三者承継の位置づけと、次に扱う仲介者の役割に絞って扱います。


中小 M&A ガイドラインが仲介者に求めていること

第三者承継を検討する経営者にとって、仲介者や FA との付き合い方は重要な論点です。中小企業庁は、中小企業の M&A を支援する仲介者や FA が守るべき行動指針として、「中小 M&A ガイドライン」を策定しており、2024 年 8 月 30 日に第 3 版へ改訂されました。

このガイドラインは、仲介者や FA に対して、次のような事項を求めています。

  • 手数料の体系と、提供する業務の範囲を、依頼者に対して明確に説明すること
  • 広告や営業活動における表現の適正さを保つこと
  • 譲り渡し側と譲り受け側の双方から手数料を得る場合など、利益相反が生じ得る場面について、依頼者に十分な説明を行うこと
  • 譲り渡し側の経営者保証の扱いについて、取り扱いを明確にすること

💡 ポイント 第三者承継を検討する経営者にとって、仲介者選びは重要な意思決定です。ガイドラインが定める事項を踏まえ、手数料の体系や業務範囲について、契約前に十分な説明を受けているかを確認する姿勢が求められます。複数の仲介者から話を聞き、比較検討することも、有効な進め方の一つです。


第三者承継の大まかな流れ

第三者承継の詳細な実務には踏み込まないと述べましたが、経営者として大枠の流れを知っておくことは、仲介者や FA との対話をスムーズにするために役立ちます。一般的に、第三者承継は次のような大まかな段階を経て進みます。

第 1 段階は、準備と方針の整理です。会社の現状(財務状況、事業の強み、従業員の状況など)を整理し、第三者承継を選択肢として検討する方針を固めます。この段階で、事業承継・引継ぎ支援センターや仲介者に相談を始めることが一般的です。

第 2 段階は、買い手候補の探索です。仲介者や FA が、会社の匿名化された概要をもとに、買い手候補となり得る企業に打診します。守秘義務を保ちながら、関心を持つ候補先を絞り込んでいきます。

第 3 段階は、条件交渉と詳細調査です。買い手候補との間で、譲渡の条件について交渉が進み、並行して買い手側による詳細な調査が行われます。この段階の実務的な詳細は、本コースでは扱いません。

第 4 段階は、契約締結と引き継ぎです。合意した条件に基づいて契約を締結し、経営権と株式の譲渡が実行されます。譲渡後は、従業員や取引先への説明、業務の引き継ぎが進められます。

⚠️ 注意 第三者承継のプロセスには、通常、数か月から 1 年以上の時間がかかります。「後継者が見つからないから、急いで買い手を探す」という切迫した状況では、交渉力が弱まりやすく、望ましい条件での承継が難しくなることがあります。第三者承継を選択肢として持つのであれば、できるだけ早い段階から検討を始めることが望まれます。


黒字廃業という選択

承継の道がいずれも見つからない場合、最後の選択肢として残るのが廃業です。廃業と聞くと、業績が悪化した末の、やむを得ない結末というイメージを持たれがちですが、業績が健全なうちに計画的に廃業する「黒字廃業」という考え方も存在します。

黒字廃業は、業績が悪化してから慌てて廃業するのと比べて、いくつかの利点があります。第 1 に、取引先や従業員への影響を最小限に抑えながら、計画的に事業を縮小・終了できます。第 2 に、会社に残る資産を適切に処分し、債務をきちんと返済したうえで、経営者自身の手元にも一定の資産を残せる可能性が高まります。第 3 に、経営者自身の心身の負担が、業績悪化の中で追い込まれるように廃業を決断する場合と比べて、大きく異なります。

廃業を検討する際は、次のような点を計画的に整理する必要があります。

  • 従業員の再就職支援や、退職に関する手続き
  • 取引先との契約の整理と、円滑な取引終了の進め方
  • 資産の処分方法と、債務の返済計画
  • 会社の解散・清算手続き(株主総会の決議、清算人の選任など)

🔰 初学者の方へ 「継げなかった」という結果を、経営者自身の失敗と捉える必要はありません。後継者不在率の数字が示す通り、多くの会社が同じ状況に直面しています。大切なのは、廃業という選択を先延ばしにせず、業績が健全なうちに、計画的に、関係者への影響を最小限に抑えながら進めることです。


3 つの道を比較する視点

従業員承継、第三者承継、廃業のいずれを選ぶべきかは、会社の状況や経営者自身の考え方によって異なり、唯一の正解はありません。ここでは、判断の材料になる視点を、3 つに整理します。

第 1 の視点は、雇用の継続です。従業員承継と第三者承継は、いずれも事業と雇用の継続を前提とした選択肢です。廃業は、事前に十分な準備をしても、従業員の雇用が失われることは避けられません。従業員への責任を重視するのであれば、承継の道を粘り強く探る価値があります。

第 2 の視点は、経営者自身の希望です。社風や理念を大切にしたい経営者にとっては、会社をよく理解している従業員への承継が望ましく感じられることがあります。一方、事業のさらなる成長を望むのであれば、より大きな経営資源を持つ第三者への承継が、事業の発展につながる可能性もあります。

第 3 の視点は、時間的な余裕です。従業員承継も第三者承継も、資金調達や交渉に相応の時間を要します。経営者自身の健康状態や、会社の業績の推移によっては、時間をかけて最適な相手を探す余裕がない場合もあります。この場合、早めに複数の選択肢を並行して検討することが現実的な対応になります。

💡 ポイント 3 つの道は、どれか一つだけを最初から選ぶのではなく、複数の選択肢を並行して検討しながら、状況の変化に応じて絞り込んでいくという進め方も可能です。事業承継・引継ぎ支援センターのような公的な窓口は、こうした並行検討の相談にも対応しています。


事業承継の支援インフラ

親族内承継、従業員承継、第三者承継、廃業のいずれの道を選ぶにせよ、経営者や後継者だけで抱え込む必要はありません。事業承継を支える公的な支援インフラが整備されています。

事業承継・引継ぎ支援センターは、各都道府県に設置されている公的な相談窓口です。親族内承継の相談から、従業員承継、第三者承継のマッチング支援まで、幅広く対応しています。無料または低廉な費用で相談できることが多く、承継のどの段階であっても、最初の相談先として活用しやすい窓口です。

商工会議所・商工会は、地域の中小企業を幅広く支援する組織です。経営相談や、専門家の紹介、セミナーの開催などを通じて、承継の初期段階の情報収集に役立ちます。

認定経営革新等支援機関は、中小企業支援の専門知識を持つと国が認定した、税理士、公認会計士、中小企業診断士、金融機関などの機関です。事業承継税制の活用支援など、専門的な相談に対応しています。

信用保証協会は、中小企業の資金調達を支援する公的機関です。従業員承継の際の株式取得資金の調達など、承継に関連する融資の保証を担う役割があります。

flowchart TD
  Owner[経営者・後継者]
  A[事業承継・引継ぎ支援センター<br/>各都道府県]
  B[商工会議所・商工会<br/>地域の経営相談]
  C[認定経営革新等支援機関<br/>税理士・診断士等]
  D[信用保証協会<br/>資金調達の支援]

  Owner --> A
  Owner --> B
  Owner --> C
  Owner --> D

図1:事業承継を支える主な支援インフラ。複数の窓口を組み合わせて活用することができる

📝 補足 これらの支援インフラは、いずれも承継の特定の段階だけでなく、初期の相談から実行段階まで、継続的に活用できる窓口です。一つの窓口に相談して終わりにするのではなく、必要に応じて複数の窓口を組み合わせ、税理士や弁護士といった専門家とも連携しながら進めることが、承継を着実に進める助けになります。


修了後の情報源

本コースは、承継特有の論点に絞って 8 レッスンを構成してきました。修了後、実際に承継を進める中で、より詳しい知識が必要になる場面が出てきます。そのときに参照できる情報源を、3 つの方向で整理します。

第 1 は、公的機関の一次情報です。中小企業庁、国税庁、法務省などが公表している最新の制度情報は、税制や法制度が変わるたびに更新されます。本コースで扱った事業承継税制の期限のような情報は、時間の経過とともに変わる可能性があるため、実際に手続きを進める際は、必ず最新の公式情報を確認してください。

第 2 は、専門家との継続的な関係です。税理士、弁護士、司法書士、中小企業診断士など、それぞれの専門領域を持つ専門家と、一度きりの相談で終わらせず、承継の進行に合わせて継続的に相談できる関係を築くことが、実務上、最も確実な情報源になります。

第 3 は、支援インフラの継続活用です。本レッスンで紹介した事業承継・引継ぎ支援センターや商工会議所などは、承継が完了した後も、経営相談の窓口として活用できます。

💡 ポイント 承継は、本コースを読み終えた時点で完結する出来事ではなく、数年単位で続く長い過程です。本コースが、その過程を歩み始めるための地図となり、実際の一歩一歩は、専門家や支援機関との対話を通じて進めていってください。


まとめ

このレッスンでは、以下のことを学びました。

  • 親族内に後継者がいないことは珍しくなく、従業員承継・第三者承継・廃業という選択肢がある
  • 従業員承継(EBO)の最大の壁は、株式取得資金と経営者保証の 2 つ
  • 第三者承継(M&A)は、事業と雇用を存続させる積極的な選択肢になり得る
  • 中小 M&A ガイドライン(2024 年 8 月 30 日改訂)は、仲介者・FA に手数料の説明や利益相反への配慮を求めている
  • 黒字廃業は、業績が健全なうちに計画的に事業をたたむ選択肢
  • 事業承継・引継ぎ支援センター、商工会議所、認定経営革新等支援機関、信用保証協会など、複数の支援インフラを組み合わせて活用できる

本コースを通じて、承継特有の論点を 8 レッスンで扱いました。承継は、経営を渡す作業と株式を渡す作業という 2 つの別物からなり、先代は去らず、社員はまだ先代の社員であり、退路も評価者もない中で進む出来事です。しかし、その重さに一人で立ち向かう必要はありません。先代との対話、社員との対話、専門家との対話、そして支援インフラの活用を通じて、承継という長い道のりを、一歩ずつ進めていってください。

レッスン 1 で示した 6 つの中核メッセージを、最後にもう一度振り返ります。承継は経営と株式という別物を渡す作業であること、先代は去らないという前提で設計すること、社員はまだ先代の社員であるという現実を受け止めること、変える順番を誤らないこと、自社株は思っているより高く分散していること、そして継げないことも失敗ではなく選択肢のひとつであること。この 6 つは、承継のどの局面で迷ったときにも、立ち返る価値のある軸です。本コースが、皆さんの承継という長い旅路の、確かな出発点になることを願っています。


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