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スキルアップカレッジ

なぜ経理以外の全社員に関係があるのか

レッスン1:なぜ経理以外の全社員に関係があるのか

このレッスンで学ぶこと

  • 本コースが扱う範囲と、扱わない範囲をあらかじめ確認する
  • インボイス制度・電子帳簿保存法が生まれた背景を、専門用語を最小限にして理解する
  • 消費税の流れと「仕入税額控除」の考え方を、数式に頼らずイメージできるようになる
  • 電子帳簿保存法が「紙をやめる法律」ではないことを理解する
  • 全社員が関わる5つの場面を確認し、コース全体の見取り図を持つ

本コースの範囲——何を扱い、何を扱わないか

本コースはインボイス制度と電子帳簿保存法を「経理以外の全社員が、請求書を受け取る・発注する・経費精算する立場で何をすべきか」と「2026年10月の制度変更」の2点に絞って扱います。制度の詳細な要件や計算方法まで踏み込むことはしません。経理担当者としての月次処理は経理関連の入門コース、システムでの実装や製品選定は経理DX関連の実践コース、個人事業主としての登録判断や消費税の計算はフリーランス向けの入門コースを参照してください。

このように範囲を絞り込んでいるのには理由があります。インボイス制度と電子帳簿保存法は、2023年から2024年にかけて立て続けに制度が動き、経理担当者を主な読み手とした詳しい解説がすでに数多く存在します。制度の要件を1つずつ覚えることよりも、経理以外の立場にいる読者が「自分は何をすればよいのか」を短時間で判断できることのほうが、実務上はるかに価値があります。本コースは、その「判断の軸」を持ち帰っていただくことを目的にしています。

💡 ポイント 本コースの読者に、簿記や税務の知識は一切必要ありません。「請求書を受け取ったことがある」「経費精算をしたことがある」という経験があれば、最後まで読み進められる構成にしています。

なぜ「経理の仕事」だと思われてきたのか

インボイス制度や電子帳簿保存法について社内で説明を受けたとき、多くの方が「自分には関係のない、経理の話」と感じたのではないでしょうか。実際、これらの制度に関する研修や記事の多くは経理担当者を対象にしており、専門用語も経理業務を前提にしたものがほとんどです。

しかし、制度が実際に動く現場をよく見ると、事情はまったく違います。取引先から届いた請求書を最初に受け取るのは、多くの場合、営業担当や購買担当など現場の社員です。出張後にタクシー代や宿泊費の領収書を精算するのは、全社員です。新しい取引先を選ぶときに、その取引先が制度にどう対応しているかを最初に意識するのも、発注や購買を担当する社員です。つまり、制度そのものの計算や申告は経理が担っていても、制度の入口にあたる行動の大部分は、経理以外の社員が担っているのです。

元国税調査官として税務調査の現場に立っていたとき、私はこの構造を何度も目にしてきました。調査で問題になる事案の多くは、経理部門の処理ミスではなく、現場で受け取った請求書や領収書の扱いに起因していました。請求書を受け取った瞬間、経費を精算した瞬間の小さな判断が、数か月後に会社全体の問題として表面化する。この構造を理解することが、本コースの出発点です。

ある中堅の製造業を例に考えてみます。この会社では、資材の発注は購買担当が、外注先への支払いは各プロジェクトの現場責任者が個別に判断していました。経理部門は、現場から回ってきた請求書をもとに会計処理をするだけで、発注や取引先選定の場面には関わっていませんでした。数年後、税務調査で複数の外注先が消費税の登録をしていないことが判明し、経理が控除できると思っていた消費税額の一部が認められないという指摘を受けました。経理部門に非があったわけではなく、発注段階で誰も登録状況を確認していなかったことが根本の原因でした。この事例が示すのは、制度対応は経理の後工程だけで完結せず、発注や取引の入口となる現場の判断が結果を左右するという事実です。

📖 もっと詳しく この事例のような「発注段階での確認」については、レッスン5で取引先を選ぶときの具体的な着眼点を扱います。取引先の登録状況をいつ、どのように確認すればよいかを、稟議書の書き方まで含めて整理します。

2つの制度が生まれた背景

インボイス制度と電子帳簿保存法は、別々の目的で作られた制度です。まず、それぞれがどのような背景で生まれたのかを、平易な言葉で確認しておきます。

インボイス制度が生まれた背景

インボイス制度の正式名称は「適格請求書等保存方式」で、2023年10月1日に始まりました。この制度が導入された背景には、消費税の仕組みを正確に機能させたいという狙いがあります。詳しい仕組みは次の節で説明しますが、要点は「誰がいくらの消費税を国に納めるべきかを、より正確に把握できるようにする」ということです。あわせて、消費税率が8%と10%の2種類にわかれた(軽減税率制度)ことも背景の1つです。税率が複数になったことで、どの取引にどちらの税率が適用されているかを、請求書の記載で明確にする必要が生まれました。

電子帳簿保存法が生まれた背景

電子帳簿保存法(以下、電帳法)はインボイス制度よりずっと古く、1998年に制定された法律です。当初の目的は、企業が帳簿や書類を紙ではなく電子データで保存することを「認める」ことにありました。長年にわたって紙の保存が原則だった日本の商習慣を、デジタル化の流れに合わせて緩めていく法律として位置づけられていました。

ところが2024年1月、この法律の位置づけが大きく変わります。メールやWebサイトを通じてやり取りされる請求書などの電子データについて、電子のまま保存することが完全に義務化されたのです。つまり、電帳法は「電子保存を認める法律」から「一部の電子データについては電子保存を義務づける法律」へと性格を変えました。この転換点については、レッスン7で改めて詳しく扱います。

📝 補足 インボイス制度と電帳法は、どちらも国税庁が所管する制度ですが、目的も仕組みもまったく別のものです。「消費税をどう計算するか」がインボイス制度、「書類やデータをどう保存するか」が電帳法、と分けて理解しておくと、この先の学習が整理しやすくなります。

消費税の流れをつかむ——仕入税額控除を数式なしで理解する

インボイス制度を理解する上で避けて通れないのが「仕入税額控除」という考え方です。難しく聞こえますが、身近な例で考えると、それほど複雑ではありません。

ある文房具メーカーが、卸売業者に文房具を1,000円(税別)で販売したとします。消費税率10%なら、卸売業者は文房具メーカーに1,100円を支払います。この100円は、最終的に国へ納められる消費税の一部です。

一方、この文房具メーカーも、原材料を仕入れる際に消費税を支払っています。仮に原材料を600円(税別)で仕入れていたとすれば、消費税60円を含めて660円を支払っています。

ここで文房具メーカーが国に納める消費税を考えると、単純に「売上時に受け取った100円をそのまま納める」というルールにしてしまうと、すでに仕入れの際に60円を負担している分が二重に課税されてしまいます。そこで「売上で受け取った消費税100円から、仕入れで支払った消費税60円を差し引いた40円だけを納めればよい」という仕組みが用意されています。この「差し引く」操作が仕入税額控除です。

場面 動き 金額の例
仕入れ(原材料の購入) 消費税を支払う 60円を支払う
売上(文房具の販売) 消費税を受け取る 100円を受け取る
納付(国への支払い) 受け取った分から支払った分を差し引く 100円 − 60円 = 40円を納付

インボイス制度の核心は、この「仕入れで支払った消費税を差し引く」ためには、原則として取引先から「適格請求書」と呼ばれる正式な請求書を受け取っている必要がある、という点にあります。適格請求書を発行できるのは、税務署に登録した事業者だけです。もし取引先が登録していない場合、原則としてこの差し引きができなくなり、自社が負担する消費税が実質的に増えてしまいます。この「登録していない取引先から仕入れた場合にどうなるか」という論点は、レッスン4で2026年10月の制度変更とあわせて詳しく扱います。

🔰 初学者の方へ 「仕入税額控除」という言葉自体を覚える必要はありません。大切なのは「取引先が正式な請求書を発行できるかどうかで、自社が納める消費税の額が変わることがある」という一点です。この一点さえ押さえていれば、この先のレッスンをスムーズに読み進められます。

電帳法は「紙をやめる法律」ではない

もう1つ、誤解されやすい点を整理しておきます。電帳法について「紙の書類を全部やめて、なんでも電子化しなければいけない法律」と理解している方が少なくありません。しかし、これは正確ではありません。

電帳法が義務づけているのは、あくまで「電子データとしてやり取りした取引情報は、電子データのまま保存すること」です。言い換えると、紙で受け取った請求書や領収書を、わざわざスキャンして電子化する義務はありません。紙で受け取ったものは紙のまま保存してかまいません。義務化されているのは、最初から電子データとして届いたもの(メール添付のPDF請求書、Webサイトからダウンロードした領収書など)を、印刷して紙で保管するのではなく、電子データのまま保存することだけです。

この違いは、社員一人ひとりの日常行動に直結します。取引先からメールでPDFの請求書が届いたとき、それを印刷して紙のファイルに綴じてしまうと、電帳法の要件を満たさない可能性があります。逆に、紙で受け取った領収書をあえてスキャンして捨ててしまう必要もありません。「届いた形式のまま扱う」というのが、電帳法の基本的な考え方です。この点は、レッスン7で具体的な行動レベルまで掘り下げます。

全社員が関わる5つの場面

ここまでの内容を踏まえ、全社員がこの2つの制度と関わる場面を、5つに整理します。この5つの場面が、本コースのレッスン2以降の骨組みになります。

場面 どんな行動か 詳しく扱うレッスン
受け取る 取引先から届いた請求書や領収書を確認する レッスン2
精算する 立替経費のレシートや領収書を処理する レッスン3
発注する 新しい取引先を選び、発注する レッスン5
保存する 受け取った電子データを正しく保存する レッスン7
交渉する 取引先と価格や取引条件について話し合う レッスン6

この5つの場面のうち、自分がどれに当てはまるかは、職種や役割によって異なります。営業担当であれば「受け取る」「交渉する」の場面が多いでしょうし、購買・調達の担当であれば「発注する」場面が中心になります。管理職であれば、部下が行った「精算する」場面を一次チェックする立場に立つこともあります。どの立場であっても、5つの場面のいずれかには必ず関わっていると考えてください。

⚠️ 注意 「自分の部署には関係なさそうだ」と感じても、実際には出張や会議費の精算を通じて、ほぼすべての社員が「精算する」場面に関わっています。本コースを「自分には無関係」と読み飛ばさず、まずはレッスン2・3から自分の行動に当てはめて読んでみてください。

自分はどの場面に当てはまるか

読み進める前に、自分がどの場面に当てはまりそうかを簡単に確認しておきましょう。1つでも当てはまれば、そのレッスンは自分に関係があると考えてください。

  • 取引先からメールや郵送で請求書を受け取ることがある → 「受け取る」(レッスン2)
  • 出張・会議・交通費などの経費を自分で精算したことがある → 「精算する」(レッスン3)
  • 新しい取引先やフリーランスへの発注を検討したり、見積もりを比較したりする → 「発注する」(レッスン5)
  • 請求書や領収書のPDFをメールで受け取り、自分のパソコンやスマートフォンに保存したことがある → 「保存する」(レッスン7)
  • 取引先と価格や取引条件について話し合う立場にある → 「交渉する」(レッスン6)

多くの方は、複数の場面に同時に当てはまるはずです。次のレッスン以降は、この5つの場面の順番に沿って進んでいきます。

2026年10月という転換点

本コースが公開されている時点で、あと数週間後に大きな制度変更が控えています。2026年10月1日から、免税事業者との取引に関する経過措置の内容が変わります。これは令和8年度税制改正と呼ばれる改正によるもので、当初の予定より緩やかな内容に見直されました。

この改正は、経理担当者だけでなく、発注や購買を担当する社員、取引先と価格交渉をする立場の社員にとっても無関係ではありません。免税事業者との取引コストがどう変わるのか、そして自社が使ってきた「2割特例」と呼ばれる負担軽減措置がどうなるのかは、レッスン4で具体的な金額の例とともに詳しく扱います。既刊のどの入門コースにも登場しない、公開時点でもっとも新しい内容です。

中核メッセージ6個

本コースを通じて、以下の6つのメッセージを繰り返し取り上げます。レッスンを読み進める中で迷ったときは、この6つに立ち返ってください。

  1. インボイスと電帳法は経理の仕事ではなく、全社員の仕事である
  2. 2026年10月、免税事業者との取引コストが変わる
  3. 請求書を受け取った瞬間の30秒が、会社の税額を決める
  4. 「登録してください」の一言が、下請法違反になることがある
  5. もらったPDFを自分のフォルダに入れた時点で違反になりうる
  6. 制度は覚えるものではなく、迷ったら聞ける状態を作るものである

まとめ

このレッスンでは、以下のことを学びました。

  • 本コースは「経理以外の全社員の行動」と「2026年10月の制度変更」の2点に範囲を絞っている
  • インボイス制度は消費税の仕組みを正確に機能させるため、電帳法は電子データの保存を適正化するために生まれた
  • 仕入税額控除とは、売上で受け取った消費税から仕入れで支払った消費税を差し引く仕組みであり、取引先が正式な請求書を発行できるかどうかが影響する
  • 電帳法は「紙をやめる法律」ではなく、電子データで届いたものを電子のまま保存することを求める法律である
  • 全社員が関わる場面は、受け取る・精算する・発注する・保存する・交渉するの5つに整理できる

次のレッスンでは、5つの場面のうち最も頻度が高い「受け取る」場面を扱います。取引先から請求書を受け取った瞬間に、どこを30秒でチェックすればよいかを具体的に見ていきます。


確認クイズ

このレッスンの理解度をチェックしましょう。