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スキルアップカレッジ

電子データの保存で全社員がやってはいけないこと

レッスン7:電子データの保存で全社員がやってはいけないこと

このレッスンで学ぶこと

  • 電子取引データの保存が、個人の判断で外せない「会社の義務」であることを理解する
  • メールで届いた請求書PDFを自分のフォルダに保存してはいけない理由を理解する
  • 正しい置き場所とファイル名の考え方を把握する
  • スキャナ保存やタイムスタンプは経理が整える領域だと割り切れるようになる
  • 税務調査で実際に何が見られるのかを、元調査官の視点で理解する

前回のレッスンでは、免税事業者との取引で越えてはいけない線を扱いました。今回は、レッスン1で予告した通り、電子帳簿保存法の中でもっとも身近な「電子データの保存」について、全社員がやってはいけない行動を扱います。この分野は、悪気なくやってしまいがちな行動が多いため、注意が必要です。

電子取引データ保存は「会社の義務」——個人の判断で外せない

レッスン1で説明した通り、2024年1月から、メールやWebサイトを通じてやり取りされる電子データの取引情報は、電子データのまま保存することが完全に義務化されました。これは会社全体としての義務であり、社員個人が「自分は紙のほうが管理しやすいから」といった理由で、この義務から外れることはできません。

ここで重要なのは、この義務が「経理部門だけの義務」ではないという点です。取引情報を最初に受け取るのは、多くの場合、経理以外の社員です。受け取った本人が、会社の定めた保存方法に従わずに独自の方法で処理してしまうと、その時点で会社全体として義務を満たせなくなる可能性があります。

💡 ポイント 「便利だから」「自分が管理しやすいから」という理由で、会社の定めた保存ルールを個人の判断で変えてしまうことは避けましょう。電子データの保存は、個人の好みではなく、会社としての仕組みで対応するべき領域です。

ある営業担当の日常から考える

ある会社の営業担当は、出先で取引先から届いたメールをスマートフォンで確認し、添付されていた請求書PDFをそのまま自分のスマートフォンの写真アプリに保存する習慣を持っていました。「オフィスに戻ったら経理に転送すればいい」という認識でしたが、繁忙期が続くと転送を忘れてしまうことがたびたびありました。数か月後、経理から「この取引先の請求書が見当たらない」と問い合わせを受け、あわてて自分のスマートフォンを探し直すという事態が何度か起きていました。

この営業担当自身に悪意はなく、単に「あとで整理しよう」と考えていただけです。しかし、この状態が続くと、会社全体で見たときに、取引データがどこにあるのか誰も把握できない状況が生まれます。本人にとっては小さな習慣でも、積み重なると会社全体の保存体制に穴を空けてしまうのです。

メールで届いた請求書PDFを自分のフォルダに保存してはいけない理由

もっとも起こりやすい行動が、取引先からメールで届いた請求書PDFを、そのまま自分のパソコンのデスクトップや、個人用のクラウドストレージ、あるいは私用のメールに転送して保存してしまうことです。この行動には、2つのリスクが同時に存在します。

リスク1:電帳法の要件を満たせなくなる

電子取引データの保存には、日付・取引先・金額で検索できることや、改ざんを防止する仕組みが備わっていることが求められます。個人のパソコンのデスクトップに保存されたファイルは、別の人が検索することも、改ざんの有無を確認することもできません。会社全体で見たときに、この請求書データは「要件を満たさない場所に保存されている」ことになり、税務調査で指摘を受ける可能性があります。

リスク2:情報漏えいのリスク

請求書には、取引先の名称、取引内容、金額といった、会社にとって外部に漏らしたくない情報が含まれています。個人のパソコンや私用のクラウドストレージに保存されたデータは、会社が管理するアクセス制限の外に置かれることになります。パソコンの紛失、私用アカウントへの不正アクセス、退職時のデータ持ち出しなど、情報漏えいにつながる経路が一気に増えてしまいます。

退職時に起きがちな問題

情報漏えいのリスクは、社員が会社を辞めるときにとくに表面化しやすくなります。ある社員が私用のクラウドストレージに複数年分の取引先の請求書を保存していたケースでは、退職後にそのデータへのアクセス権限が会社側から取り消せないという事態が起きました。会社が管理する共有フォルダであれば、退職と同時にアカウントを無効化してアクセスを遮断できますが、私用のサービスに保存されたデータは、会社側でコントロールする手段がありません。

このような事態を防ぐためにも、日頃から「会社が管理できる場所に保存する」という原則を徹底しておくことが重要です。個人の判断による一時的な保存が、結果として会社の管理が届かない場所に情報を置いてしまうことにつながります。

⚠️ 注意 「あとで経理に転送するつもりだった」という一時的な保存であっても、その間に情報漏えいのリスクは発生しています。受け取った請求書は、できるだけ早く会社の定めた正しい場所に移すことを習慣にしてください。

正しい置き場所とファイル名の考え方

では、受け取った電子データはどこに保存すればよいのでしょうか。多くの会社では、経理部門やシステム部門が、電子取引データを保存するための共有フォルダやクラウドサービスをあらかじめ用意しています。まずは、自社にどのような保存先が用意されているかを確認することが第一歩です。

保存先が分からない場合、次の順番で確認するとよいでしょう。

  1. 社内のマニュアルや周知資料に、保存先の案内がないか確認する
  2. 経理部門やシステム部門に、どこに保存すればよいかを尋ねる
  3. 保存先が決まったら、以後は同じ手順で保存する習慣をつける

ファイル名についても、会社によっては「日付・取引先名・金額」などを含めた命名ルールを定めていることがあります。例えば「20260825_株式会社サンプル商事_請求書_55000.pdf」のような形式です。こうしたルールがある場合は、必ず従ってください。自分なりにわかりやすい名前をつけたくなることもありますが、検索のしやすさは会社全体で統一されて初めて意味を持ちます。個人の判断でルールを変えてしまうと、別の人がそのデータを探せなくなるおそれがあります。

会社が用意する保存先には、いくつかのパターンがあります。全社共通の共有フォルダに部門ごとのサブフォルダを設ける形式、経費精算や請求書処理のためのシステムに添付する形式、部門ごとに管理者を置いたクラウド上の保管場所を使う形式などです。どの形式であっても共通しているのは、「個人ではなく組織が管理している」という点です。自分の会社がどの形式を採用しているかを、まだ把握していない方は、この機会に確認しておくとよいでしょう。

受け取ってから保存までの3ステップ

レッスン2で紹介した「確認する・記録する・回付する」という3ステップと同じように、電子データの保存についても、シンプルな3ステップとして整理できます。

  1. 確認する:届いたデータが取引に関するものかどうかを確認する
  2. 移す:私用のデバイスやアプリに保存せず、会社が指定した保存先にできるだけ早く移す
  3. 完了を確認する:正しい場所に保存されたことを確認してから、元のメールやダウンロード履歴を必要に応じて整理する

この3ステップのうち、もっとも重要なのは2番目です。「後で移そう」と思っている間に、私用のデバイスに情報が残り続けてしまいます。受け取ったその日のうちに、正しい場所へ移す習慣をつけることが、もっとも確実なリスク対策です。

よくある質問

Q. 会社の共有フォルダに保存する前に、内容を確認するために一時的にパソコンのデスクトップに置くのは問題ですか。

確認のために一時的に開くこと自体は問題ではありませんが、その状態を長く放置しないことが大切です。確認が終わったら、速やかに正しい保存先へ移し、デスクトップ上のファイルは削除するようにしましょう。

Q. 自分のスマートフォンで撮影した写真をそのまま経理に送るのは問題ですか。

送ること自体は問題ではありませんが、送った後にスマートフォンの写真フォルダに画像が残り続けることには注意が必要です。送信後は、会社のルールに従って画像を削除する、または自動で削除される設定にしておくとよいでしょう。

📝 補足 ファイル名の命名ルールがまだ整備されていない会社もあります。その場合は、自分の判断でルールを作るのではなく、経理やシステム部門に「命名ルールを決めてほしい」と提案してみるのも1つの方法です。レッスン8で扱う社内周知の話ともつながります。

スキャナ保存とタイムスタンプは「経理が整えるもの」という割り切り

紙で受け取った請求書や領収書をスキャンして電子化する「スキャナ保存」という制度や、電子データの改ざんを防ぐ「タイムスタンプ」という技術についても、耳にしたことがあるかもしれません。これらは、いずれも会社として制度を導入し、運用ルールを整える必要がある領域です。

結論から言えば、全社員がこの制度の詳細な要件やタイムスタンプの技術的な仕組みまで理解する必要はありません。「これは経理やシステム部門が整えるものだ」と割り切ってしまって構いません。制度の名前だけを聞くと難しそうに感じますが、社員一人ひとりに求められる行動は、これまでのレッスンで扱ってきた内容と変わりません。社員に求められるのは、会社が整えた仕組み(指定のスキャンアプリを使う、指定のフォルダに保存する、決められた期限内に処理するなど)に従って行動することだけです。制度の詳しい要件については、経理DX関連の実践コースで扱われています。

🔰 初学者の方へ 「タイムスタンプって何だろう」と気になった方もいるかもしれませんが、その仕組みまで理解する必要はありません。「会社が用意した仕組みに沿って保存する」という行動さえできれば、電子帳簿保存法における社員としての役割は十分に果たせます。

税務調査で実際に見られるポイント——元調査官の視点

ここからは、私自身が国税局・税務署で調査官として勤務していた経験から、電子データの保存に関して実際に何が見られるのかをお伝えします。

税務調査では、会計帳簿や請求書の内容そのものだけでなく、「その電子データがどこに、どのように保存されているか」が確認の対象になります。具体的には、次のような点が調査官の目に留まりやすいポイントです。

  • 検索してすぐに出てくるか:日付や取引先名を指定して、担当者がスムーズに該当のデータを探し出せるかどうかは、調査の早い段階で確認されます。探すのに時間がかかったり、「担当者の個人フォルダにあるかもしれません」といった曖昧な回答が出たりすると、保存体制そのものへの疑念が強まります
  • 個人のパソコンやローカルフォルダに保存された形跡がないか:ヒアリングの中で「最初はメールで受け取って、自分のパソコンに置いていました」という説明が出てくることは珍しくありません。この説明自体が、保存体制の不備を示すサインとして受け止められます
  • 保存されているデータと、実際の取引の流れが一致しているか:発注のタイミング、納品のタイミング、保存されたデータの作成日時などに不自然な食い違いがないかも確認されます

調査官として現場に立っていたとき、こうした指摘の多くは、経理部門の悪意ある操作ではなく、現場の社員が善意で行った「とりあえずの保存」の積み重ねから生じていました。1人の社員がメールで受け取った請求書を自分のフォルダに置いたままにしていた、というだけの出来事が、調査全体の心証に影響を与えることもあります。

ある会社の調査では、ある月の特定の取引について、経理担当者が「システムには見当たらないが、発注した営業担当に確認します」と答える場面がありました。結果的にその請求書は、営業担当のパソコンのメールボックスに残ったままで、経理には一度も転送されていなかったことが判明しました。この1件だけであれば大きな問題にはなりませんでしたが、調査官としては「ほかにも同様の抜けがあるのではないか」という視点で、確認の範囲を広げることになります。1件の見つかりにくいデータが、調査全体の深度を変えてしまう典型的な例でした。

逆に、ある会社では、どの取引についても担当者が数秒で該当データを画面に表示でき、保存場所も一貫していました。この場合、調査はスムーズに進み、確認の範囲が不必要に広がることもありませんでした。保存の仕組みが整っているかどうかは、調査を受ける側の印象を大きく左右します。

📖 もっと詳しく 税務調査で電子データの保存体制に問題が見つかった場合の具体的な対応や、青色申告の承認取消しといった重い結果につながるケースの詳細は、経理関連の実践コースで扱われています。本レッスンでは、全社員が日常でできる「正しい場所に、正しい形式で保存する」という行動に絞って押さえておいてください。

こうした経験を踏まえて、私が研修の場でいつもお伝えしているのは、「調査官は特別な技術で隠されたデータを見つけ出しているわけではない」ということです。多くの場合、普段の業務の中で自然に生まれる小さな抜け漏れが、結果として調査の焦点になります。日々の受け取り・保存という地味な作業を丁寧に積み重ねることが、実は最大の備えになるのです。

まとめ

このレッスンでは、以下のことを学びました。

  • 電子取引データの保存は会社全体の義務であり、個人の判断で保存方法を変えることはできない
  • メールで届いた請求書PDFを個人のフォルダに保存すると、電帳法の要件を満たせなくなるリスクと、情報漏えいのリスクが同時に発生する
  • 保存先やファイル名の命名ルールは会社が定めたものに従い、分からなければ経理やシステム部門に確認する
  • スキャナ保存やタイムスタンプの詳細な仕組みは経理が整える領域であり、全社員が理解する必要はない
  • 税務調査では、検索のしやすさや、個人のパソコンに保存された形跡の有無が実際に見られている

次のレッスンでは、これまで学んできた内容を社内に定着させる方法を扱います。周知の設計、部門別のチェックリスト、相談窓口の作り方、そして今後の制度変更への備え方を見ていきます。


確認クイズ

このレッスンの理解度をチェックしましょう。