労災対応・メンタル休復職の会社側運用
レッスン5:労災対応・メンタル休復職の会社側運用
このレッスンで学ぶこと
- 労災認定 3 要件(業務起因性/業務遂行性/因果関係)と労基署対応・様式 5 号 6 号 8 号を扱う
- 労災特別加入 2024/11 拡大、過労死ライン、精神障害の労災認定基準 2023/9 改訂を理解する
- メンタル休復職 6 ステップ(発症・受診・診断書・休職判定・産業医面談・復職判定)を扱う
- リハビリ勤務・両立支援プラン・厚労省ガイドライン・傷病手当金の実務を掴む
前回のレッスンでは、年 5 日有給・特別休暇・ハラスメント措置義務を扱いました。今回は、労務現場対応の中核である労災対応とメンタル休復職の会社側運用を扱います。
労災認定 3 要件
労働者災害補償保険法(労災保険法)は、業務上・通勤中の負傷・疾病・障害・死亡に対する保険給付を定めます。労災認定の 3 要件:
1. 業務遂行性
労働者が事業主の支配下にある状態で発生したこと。所定労働時間内・出張中・社内行事参加中・使用者の指揮命令下での作業中が該当。休憩時間中の私的行為は原則除外。
2. 業務起因性
業務と負傷・疾病との間に相当因果関係があること。転倒・機械操作・化学物質曝露などが典型。過労死・過労自殺・精神障害は特に因果関係の判定が難しく、専門部会の判断が入ります。
3. 相当因果関係
業務が原因となって傷病が発生したこと。単純な相関ではなく、社会通念上「業務が原因」と言えるレベルを要します。
通勤災害 は通勤経路の合理性・目的性・逸脱・中断の有無で判定。就業のため住居と就業場所を往復する経路上の災害が該当。
労基署対応と様式 5 号・6 号・8 号
労災が発生した際の労基署への提出書類は以下の 3 様式が代表的:
- 様式 5 号 療養補償給付たる療養の給付請求書:会社近隣の労災指定病院で治療を受ける場合。会社・医療機関が労働者と協力して記入
- 様式 6 号 療養補償給付たる療養の費用請求書:労災指定病院以外の医療機関で治療を受けた場合の費用請求
- 様式 8 号 休業補償給付支給請求書:休業 4 日以上の場合の休業補償請求。給付基礎日額の 60 %(休業補償)+20 %(休業特別支給金)合計 80 %
その他:様式 16 号の 3 障害補償給付支給請求書、様式 16 号の 7 遺族補償年金支給請求書、様式 16 号の 9 葬祭料請求書 などがあります。
労働者死傷病報告
労働者が労働災害で死亡または休業した場合、事業者は「労働者死傷病報告」を労基署に提出義務(労働安全衛生規則 97 条)。休業 4 日以上は遅滞なく報告、休業 4 日未満は四半期ごとにまとめて報告。未提出は労安衛法違反で 50 万円以下の罰金。
労災特別加入 2024/11 拡大
労災保険は原則として労働者が対象ですが、業務の実態から労働者に準ずる者(一人親方・役員・海外派遣者)は 特別加入 で任意加入可能。2024/11 大幅拡大:
- 特定フリーランス:フリーランス新法(2024/11 施行)対象の特定受託事業者
- 軽貨物運送業:Amazon Flex 、UberEats など個人事業主配達員
- 柔道整復師・あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師(従来対象)
- 芸能・アニメ関係者(従来対象、2021 年拡大)
事業者は自社と業務委託契約を結ぶフリーランス・軽貨物運送業に対し、労災特別加入の情報提供・加入手続支援を推奨されます。
過労死ライン
「脳・心臓疾患の労災認定基準」(厚労省 2001 年策定、2021/9/14 改訂)で定める過労死ラインは以下の水準:
- 発症前 1 か月間の時間外労働 100 時間 を超える場合
- 発症前 2-6 か月間の平均時間外労働 80 時間 を超える場合
2021/9 改訂で「労働時間以外の負荷要因(不規則勤務・拘束時間・出張の多さ・精神的緊張)」も総合考慮の対象に加わり、過労死ラインを下回っても、労働時間以外の負荷が重大な場合は労災認定される道が開かれました。
労務側の実務は、月次で全社員の時間外労働時間を集計し、月 80 h 超・月 100 h 超は個別医師面接指導(労安衛法 66 条の 8)・代償休日・時短勤務などの健康確保措置を実施します。
精神障害の労災認定基準 2023/9 改訂
「心理的負荷による精神障害の認定基準」(厚労省)は、精神障害の労災認定基準を定めます。2023/9/1 改訂 の主要変更:
- 具体的出来事の追加:カスハラ(顧客からの著しい迷惑行為)・感染症流行下の勤務・妊娠育児期の職場対応
- 心理的負荷の判定強化:中程度以上の心理的負荷が認められた場合の総合判断
- 業務による心理的負荷評価表の詳細化
精神障害の労災認定は、脳・心臓疾患と比べ判定が難しく、専門部会(労働基準審議会)の意見を踏まえた判断となります。労務側は、休職者・診断書提出者に対し、業務との関連性を事実ベースで整理する準備を求められます。
メンタル休復職 6 ステップ
メンタル休復職は、労務担当者が最も繊細に扱うべき業務です。以下の 6 ステップで運用:
1. 発症
労働者本人・上司・同僚から不調のサインを察知。パフォーマンス低下・遅刻欠勤・体調不良の訴えが典型。ラインケア教育を上司に施し、早期察知を強化。
2. 受診
労働者に受診勧奨(内科・心療内科・精神科)。会社は受診命令はできませんが、産業医面談を通じて医療機関受診を促進。産業医面談は業務命令として実施可能。
3. 診断書
主治医の診断書(病名・要休職期間・治療方針)を会社に提出。就業規則の休職事由(例:業務外の傷病により 30 日以上業務に従事できないとき)に該当する場合、休職判定に進む。
4. 休職判定
会社側の休職判定会議(人事・上司・産業医)で、休職の必要性・期間・給与処遇(無給/傷病手当金)を決定。休職辞令発令。休職期間は勤続年数に応じ 3 か月〜3 年(就業規則で規定)。休職期間満了時に復職不能なら自然退職(就業規則で規定)。
5. 産業医面談
休職中の産業医面談(月 1-2 回)で回復状況を把握。復職判定に向けた基礎情報を蓄積。労働者と主治医と産業医の 3 者連携が復職判定の質を左右。
6. 復職判定
労働者の復職希望+主治医の復職可能診断書+産業医の意見書を踏まえ、会社側の復職判定会議(人事・上司・産業医)で復職可否を決定。復職辞令発令、または休職継続決定。
リハビリ勤務・両立支援プラン
復職後の再発防止のために、リハビリ勤務(試し出勤)を導入するのが実務一般:
- 段階的復職スケジュール:週 3 日 4 時間→週 3 日 6 時間→週 5 日 4 時間→週 5 日 6 時間→通常勤務(3-6 か月)
- 業務内容の調整:軽易業務(データ整理・議事録作成など)から段階的に通常業務へ
- 面談頻度:復職後 1 週間・2 週間・1 か月・3 か月・6 か月の 5 回
両立支援プランは、療養と仕事の両立を支援する個別プラン。がん・脳卒中・心疾患・糖尿病・肝疾患・難病などの治療と両立が必要な労働者に対し、産業医・主治医・本人・会社の 4 者で作成。厚労省「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」2016 年策定・2023 年改訂に準拠。
傷病手当金・障害年金・障害者手帳
休職中の労働者の経済的支援:
傷病手当金
健康保険法 99 条に基づき、業務外の傷病で 4 日以上連続して労務不能の場合、標準報酬日額の 3 分の 2 を最長 1 年 6 か月 支給(2022/1 改正で通算 1 年 6 か月に変更)。健康保険協会または健康保険組合に申請。
障害年金
厚生年金保険法・国民年金法に基づき、傷病により障害等級 1 級・2 級・3 級に該当する場合支給。障害基礎年金+障害厚生年金の 2 階建て。初診日から 1 年 6 か月経過で障害認定日として請求可能。
障害者手帳
身体障害者手帳(身体障害者福祉法)・精神障害者保健福祉手帳(精神保健福祉法)・療育手帳(知的障害者福祉法)の 3 種。障害者雇用率の算定対象、税制優遇(所得控除・住民税減免)が受けられます。
講師の現場メモ
メンタル休復職で私が最も難しく感じるのは「復職判定」です。主治医は「復職可」の診断書を書いても、それは医療的観点のみで、会社側の業務環境・業務内容・上司同僚関係の考慮は含まれません。私が労務部長時代に主治医の復職可診断書を鵜呑みにして復職させたケースで、1 か月で再発した苦い経験があります。
その後は、産業医との連携を強化し、復職判定会議には必ず産業医が同席、業務内容の調整案(軽易業務からの段階復職)を明文化するようにしました。復職判定は「医療+会社の両輪」で判定するのが鉄則です。
まとめ
- 労災認定 3 要件:業務遂行性(事業主の支配下)/業務起因性(相当因果関係)/相当因果関係(社会通念上業務が原因)。通勤災害は経路の合理性・目的性・逸脱中断の有無で判定
- 労基署対応 3 様式:様式 5 号 療養補償給付(労災指定病院)/様式 6 号 療養補償給付費用請求(指定外医療機関)/様式 8 号 休業補償給付支給請求(休業 4 日以上・給付基礎日額の 60 % 休業補償+20 % 特別支給金 合計 80 %)
- 労働者死傷病報告 労働安全衛生規則 97 条、死亡または休業時、休業 4 日以上遅滞なく・4 日未満四半期ごと、未提出は労安衛法違反 50 万円以下罰金
- 労災特別加入 2024/11 大幅拡大:特定フリーランス(フリーランス新法対象)/軽貨物運送業(Amazon Flex ・UberEats)/柔道整復師等/芸能アニメ関係者。事業者は業務委託先への情報提供・加入手続支援を推奨
- 過労死ライン 脳・心臓疾患の労災認定基準(2001 策定・2021/9/14 改訂):発症前 1 か月時間外 100 h 超/2-6 か月平均 80 h 超。2021/9 改訂で労働時間以外の負荷要因(不規則勤務・拘束時間・出張・精神的緊張)も総合考慮
- 精神障害の労災認定基準 2023/9/1 改訂:カスハラ・感染症流行下勤務・妊娠育児期職場対応の具体的出来事追加、中程度以上心理的負荷の総合判断強化
- メンタル休復職 6 ステップ:発症→受診(産業医面談通じ促進、受診命令不可)→診断書(就業規則休職事由該当判定)→休職判定(会議 人事・上司・産業医、期間 3 か月〜3 年、無給/傷病手当金)→産業医面談(月 1-2 回・主治医と産業医 3 者連携)→復職判定(労働者復職希望+主治医復職可診断書+産業医意見書、会議判定)
- リハビリ勤務 段階的復職スケジュール(週 3 日 4 h /週 3 日 6 h /週 5 日 4 h /週 5 日 6 h /通常勤務、3-6 か月)、業務内容調整(軽易業務→通常業務)、面談 5 回(復職後 1 週間・2 週間・1 か月・3 か月・6 か月)
- 両立支援プラン がん・脳卒中・心疾患・糖尿病・肝疾患・難病治療と両立、産業医・主治医・本人・会社 4 者で作成、厚労省ガイドライン 2016 策定・2023 改訂
- 経済支援:傷病手当金(健保 99 条・業務外傷病 4 日以上・標準報酬日額 3 分の 2 ・最長 1 年 6 か月 2022/1 改正で通算 1 年 6 か月)/障害年金(厚年金保険・国民年金・障害等級 1-3 級・初診日から 1 年 6 か月)/障害者手帳(身体障害者・精神障害者保健福祉・療育の 3 種)
次のレッスンでは、派遣法・偽装請負・同一労働同一賃金・副業労務を扱います。